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Column with 仕事を休んででも行くべきライブ #01 パット・メセニーの新グループによるワールド・プレミア・ライブ

仕事を休んででも行くべきライブ #01

COLUMN
INFORMATION

 今月からスタートする連載「仕事を休んででも行くべきライブ」。1回目は5月に新グループを率いて来日するパット・メセニー。彼の魅力を紹介するのは音楽ライターの熊谷美広。2015年にリリースされたパット・メセニー・グループ初のベスト・アルバム『Essential Collection LAST TRAIN HOME』の選曲をおこなっている。


 パット・メセニーは、現代のジャズ・シーンにおいて、もっとも重要なアーティストのひとり。彼が産み出してきたサウンドは、その後のジャズ・シーンに大きな影響を与え続けている。さらにジャズだけにとどまらず、ポップス、ロック、R&B、ヒップ・ホップなどといった、さまざまなジャンルのアーティストたちからも大きな注目を集めており、デヴィッド・ボウイ、ジョニ・ミッチェル、ミルトン・ナシメント、スティーヴ・ライヒなどといった、さまざまなフィールドのトップ・アーティストたちともコラボレートを展開している。
 彼はこれまでに20のグラミー賞を受賞しており、彼の作り出した音楽のスタイルは、今や“パット・メセニー・スタイル”として、例えていうなら、モータウン・サウンドやフィリー・ソウル、ダンスホールのような、ひとつの“ジャンル”として、音楽シーンに広く浸透し、多くのアーティストに取り入れられている。また1フレーズを聴いただけで、彼だとわかる独特のギター・サウンドも、その個性をより際立たせている。日本でも、矢野顕子と共演したり、彼のアルバムの解説を松任谷由実が書いていたりと、彼の音楽を愛するアーティストも数多い(実際彼のライブに行くと、客席でアーティストと遭遇することも多い)。さらに昨年、人気テレビ・アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』のエンディング・テーマとして、彼の「ラスト・トレイン・ホーム」が使われて、大きな注目を集めた。
 パット・メセニーの活動は、大きく2種類に分けられる。ひとつがパット・メセニー・グループ(以下PMG)での活動、そしてもうひとつがソロ・アーティスト/ギタリストとしての活動だ。PMGでの活動は、キーボードのライル・メイズをはじめとするメンバー全員(中心メンバーは4名)で、より構築された緻密なアンサンブルによって、美しい音楽を作りあげられており、とても多くのファンに愛されている。PMGの音楽のすごいところは、音楽的にメチャクチャ高度なことをやっているにもかかわらず、とてもポップで、耳に優しく、聴きやすいことだ。変拍子も頻繁に出てくるし、コード進行なども複雑で緻密なのにもかかわらず、それがまったく難しく聴こえてこない。美しく、躍動的で、スケールが大きく、目を閉じて聴いていると、広大な風景が浮かんでくるような、そんな聴き手のイマジネーションを刺激してくれる音楽だ。まるで1本の映画を観ているかのような体験をファンに提供してくれる、視覚的な音楽なのである。PMGとしての活動は、2004年に、4楽章からなる70分を超える大曲『The Way Up』を完成させ、2008年に来日公演を行なった後は活動を休止。現在パットはソロ活動を積極的に展開している。

 ソロ活動に関しては、パットが自由な感覚でやっているので、けっこう前衛的/実験的だったり、ストイックな姿勢のものも多い。オーソドックスなジャズ・ギター・トリオで演奏したり、フリー・ジャズの巨匠であるオーネット・コールマンやデレク・ベイリーと共演したり、ソロ・アコースティック・ギターのアルバムを制作したり、現在のジャズ・シーンをリードするピアニストであるブラッド・メルドーと共演したりと、本当に幅広い活動を展開しており、サウンド・クリエイターとしてはもちろん、ギタリストとしても、卓越したテクニックによるイマジネーション溢れるソロを展開し、彼が世界有数のギタリストであることも見事に証明している。
 PMG活動休止後は、現代ジャズ・シーンの精鋭たちを集めた“ユニティ・バンド”を結成し(その後メンバーを追加して“ユニティ・グループ”へと進化)、2014年10月の来日公演では完璧で圧倒的なライブ・パフォーマンスを展開して、各方面から絶賛を集めた。さらに最新テクノロジーを駆使して、ピアノ、ヴァイブ、マリンバ、ドラム、パーカッション、エレクトリック・ベース、アコースティック・ギターなど、ズラっと並べられた数十台の楽器を、機械的に、すべてリアルタイムで演奏させ(サンプリングなどは一切使用していない)、それと一緒にギターを弾くという、とてつもないプロジェクト“オーケストリオン”を手掛けるなど、その発想力や創造力は、さらに進化を続けている。まさにとどまることを知らない天才だ。

 そんな彼が、新たなグループを結成して、日本にやってくる。ユニティ・グループの来日公演で、まさにパット・メセニー・ミュージックの完成型ともいうべき究極の音楽を聴かせていたのにもかかわらず、彼はそこに満足することなく、さらに新しいことに挑もうとしている。ほんとうにとんでもないアーティストだ。今回の新グループは、PMGやユニティ・グループのメンバーでもあり、パットの音楽には欠かせないドラマーのアントニオ・サンチェス(アカデミー賞を受賞した映画『バードマン』の音楽も手掛けていた)に、マレーシアとオーストラリアの血を引く女性ベーシストのリンダ・オウ、イギリス出身のピアニストのグウィリム・シムコックという新進気鋭のミュージシャンの2人を加えたクァルテットだ。このグループによるアルバムなどはまだ発表されていないので、この来日公演は、その新グループの“初お披露目”だといえる。パットが若い才能たちと、どのような音楽を聴かせるのか、本当に興味は尽きない。じつはパットのレギュラー・グループに、ピアニスト/キーボード奏者がいることは意外と少なく、ガッツリと共演しているのは、ライル・メイズとブラッド・メルドーぐらいだ。そういった意味でも、興味深い新グループなのだ。「時代やジャンルを超越した、ワイド・レンジな音楽を表現したい」とパット自身は語っている。まさに現在の音楽シーンをリードし続けている天才パット・メセニーの、新たなるプロジェクトのワールド・プレミア・ライブ。我々は、新しい音楽が生まれる瞬間に立ち会う、時代の目撃者となるかも知れない。
 
 
公演情報
【Blue Note TOKYO公演】
開催日:2016年5月20日(金)~24日(火)
会場:Blue Note TOKYO(東京都港区南青山6-3-16 ライカビル)
時間:<20日(金)・23日(月)・24日(火)>[1st] Open 17:30/Start 18:30 [2nd] Open 20:20/Start 21:00 <21日(土)・22日(日)>[1st] Open16:00/Start 17:00 [2nd] Open 19:00/Start 20:00
料金:13,800円(税込)

■お申し込み先
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/pat-metheny/
 
【名古屋公演】
開催日:2016年5月16日(月)、17日(火)
会場:NAGOYA Blue Note(愛知県名古屋市中区錦3-22-20 ダイテックサカエビルB2)
時間:[1st] 開場17:30/開演18:30 [2nd] 開場 20:30/開演21:15
料金:16,000円、18,300円(グルメプラン
)、18,500円(和風グルメプラン)

■お申し込み先
http://www.nagoya-bluenote.com/schedule/201605.html#0516
 
【大阪公演】
開催日:2016年5月18日(水)
会場:サンケイホールブリーゼ(大阪府大阪市北区梅田2-4-9 ブリーゼタワー7F)
時間:OPEN 18:30/START 19:00
料金:S指定席14,000円
(税込) 、直筆サイン入りリトグラフ付SS指定席22,000円(税込) 

■チケット詳細

http://www.creativeman.co.jp/artist/2016/05patmetheny/
 
【東京公演】
開催日:2016年5月25日(水)
会場:新宿文化センター(東京都新宿区新宿6-14-1)
時間:OPEN 18:30/START 19:00
料金:S指定席 14,000円(税込)、直筆サイン入りリトグラフ付SS指定席 22,000円(税込) 


■チケット詳細
http://www.creativeman.co.jp/artist/2016/05patmetheny/
 
 
リリース情報
タイトル:The Unity Sessions
発売日:5月11日
価格:¥3,000(税抜)
 
■WARNER MUSIC JAPAN
http://wmg.jp/artist/pat_metheny/WPCR000017272.html
 
 
タイトル:Cuong Vu Trio Meets Pat Metheny
発売日:5月11日
価格:¥2,400(税抜)
 
■WARNER MUSIC JAPAN
http://wmg.jp/artist/cuongvu/WPCR000017275.html


PROFILE

熊谷美広
熊谷美広

 音楽ライター。ジャズライフ誌の編集部を経て、90年にフリーランスとなり、ジャズライフ、ADLIB、CDジャーナル、What's Inn、CDでーたなどをはじめとする音楽雑誌や、CDの解説などの執筆を中心に活動。本人が“ジャズからアイドルまで”と言っているように、どんなジャンル音楽でも幅広くこなし、その知識量の多さは業界内でも知る人ぞ知る存在である。また96年から、セッション・イベント「Jam For Joy」のプロデュースも手掛け、現在も年3回のライブを行ない、総出演者は300名を越えている。2000年には日本で初めてのフュージョン・ディスク・ガイド本『FUSION』(シンコー・ミュージック刊)を監修・執筆し、話題を呼んだ。