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Column with 仕事を休んででも行くべきライブ #02 ハイエイタス・カイヨーテ

仕事を休んででも行くべきライブ #02

COLUMN
INFORMATION

 会社や学校を休んででも行きたいライブがある。そんな「見逃せないステージ」や「いま見ておくべきミュージシャン」を紹介するこのコーナー。今回の物件は、ハイエイタス・カイヨーテ。
 一般的には「無名」のこのバンドを、いま世界中のミュージシャンやハードコアな音楽ファンが注視している。彼らを虜にする要因は何なのか? 謎多きハイエイタス・カイヨーテとは何者なのか。そこは「事情通同士で対談してもらうのが手っ取り早いし、解りやすい」ということで、ジャズ評論家の後藤雅洋氏と柳樂光隆氏を招き、語ってもらいました。
 いま、なぜ「このバンドのライブを観るべき」なのか。
 アーティスト写真:
Wilk
 
――まずは基本的な情報から。ハイエイタス・カイヨーテってどんなバンドなのか? という話から始めたいと思います。
柳樂:彼らはオーストラリアのメルボルン出身で、バンド結成は2011年。メンバーは、ボーカルとギターのネイ・パーム。ベースのポール・ベンダー。キーボードのサイモン・マーヴィン。ドラムとパーカッションのペリン・モスの4人です。
――ボーカルのネイ・パームは、唯一の女性メンバーですね。
柳樂:そうですね。ただしリーダーは不在で、4人の共同プロジェクトという形態です。サウンドの特徴を一言で表すのは難しいですが、まず、エリカ・バドゥ的なネオソウルの雰囲気。それから、J・ディラ経由のズレたビート感。ブレインフィーダー的なビートミュージックのコズミックなフィーリング。さらには、インドやアフリカの音楽のエスニックな感覚。TVゲームやジブリのアニメからインスパイアされたファンタジックな世界観など、いろんなものが詰まっている音楽ですね。
――ちなみに後藤さんが、ハイエイタス・カイヨーテを知るきっかけは何でしたか?
後藤:昨年行われていた「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN」に行ったとき、偶然、ハイエイタスのライブを見たんですよ。そしたらけっこう面白くて驚きました。このときフェスに出演していたパット・メセニーやロバート・グラスパーはもちろん知っていたけど、ハイエイタスについては、名前は聞いたことあるけど、このときまでちゃんと聴いたことがありませんでした。見た印象で言うと、いわゆる“ジャズ”って感じではない。あ、僕のような還暦を過ぎたジャズ喫茶の頑固親父が“これはジャズじゃない”って言うと否定的に聞こえるかもしれないけど、けっしてそういう意味ではないんですね。ジャズじゃなくたっていい音楽はたくさんあるんですから。あれからハイエイタスの音源を聴き込んだわけじゃないから、今日は柳樂さんに、ハイエイタスの魅力や聴きどころを教えてもらえるということで来ました。
――そもそも、このバンドがブレイクする契機は何だったのでしょうか?
柳樂:まず、ネットを通じて「Nakamarra」という曲が爆発的に広まったことが挙げられます。この曲が収録されていたアルバム『Tawk Tomahawk』(2012年)はデジタルリリースのみだったんですが、翌年にCDでリリースされた。このとき「Nakamarra」のQティップ・リミックスが収録され、ハイエイタス・カイヨーテという名前は広がりました。あと、プリンスやエリカ・バドゥ、クエストラブに紹介されたり、ジャイルス・ピーターソンのコンピレーションに収録されたり、テイラー・マクファーリンがネイ・パームをゲストボーカルに起用したり。これだけのビッグネームが推していたこともあって話題になっていましたね。

――後藤さんは、ハイエイタスのどんなところに面白みを感じましたか?
後藤:ネイ・パームのボーカルが面白いなって思いましたね。彼女のボーカルには典型的なアメリカン・ロックやブリティッシュ・ロックの流れとは違うテイストがあるよね。
僕はボーカルを聴くとき、メロディーよりも、ある種の“引っ掛かり”を聴いているんです。それは声の質だとかリズム感が“すんなり流れていかない何か変な感じ”のことで、そこが面白いんですね。ネイ・パームの“引っ掛かり”がなんだったのか、もう一回ライブで聴いてみたいな。
柳樂:ネイ・パームを例えるときによく言われるのは「ビョークとエリカ・バドゥを合わせたボーカル」。
後藤:なるほど。ジャズしか聴いていないから、そんな発想は湧かないなあ。
柳樂:ハイエイタスの音楽って、リズムもわざとズラしているし、ボーカルもすごくひっかけて歌うっていうか、レイドバックというより、もはやズレてるくらいのタイミングで歌う。要は普通じゃない歌い方。ネイ・パームのルーツにはヒップホップ、ネオソウルのほかに、アフリカのマリの音楽やインド音楽もあるってインタビューで聞きました。インドやパキスタンの音楽って変拍子の音楽が多いから、そういうものに自然に触れていたんだと思う。だから、ネイ・パームの歌をよく聴いていると、演奏のどこに合っているかさっぱりわからないんですよ。
後藤:それが聴き手にとっては“引っ掛かり”になって、心地よい違和感になるんだな。
柳樂:ネイ・パームって普段はノリノリに歌う人だと思われているけど、ピアノの伴奏だけで歌っても、めちゃくちゃ上手かった。去年、ロバート・グラスパーがBlue Note Tokyoでやったとき、アンコールで彼女が飛び入りで歌ったんです。テンポがあるのかないのか、わからないようなバラードを歌った。それがものすごく上手くて、みんなびっくりしたんですよ。
後藤:それは聴いてみたいな。そういう歌い方は歌唱技術がないと出来ないからね。問題は技術に何を託すかで、気持ちがありゃ感動させられるわけじゃないからね。ところで今回のステージでは、去年、柳樂さんが観たようなバラードも見せてくれるかな?
柳樂:どうでしょうね。去年はロバート・グラスパーがいたからだと思うんですけど、やってくれたらラッキーですね。

柳樂光隆氏(写真左)と後藤雅洋氏(写真右)。後藤氏が経営するジャズ喫茶いーぐるにて取材。 撮影:山崎瑠惟

――演奏の面で、注目すべきポイントはありますか?
柳樂:これはハイエイタスだけじゃなく、世界で活躍している現行のジャズ・ミュージシャンに共通して言えることなんですけど、かつて、技術とは「見せる」ものだった。ところが、いまはそれを「見せない」ことが主流なんです。後藤さんみたいにジャズを聴きこんだ人やリテラシーが高い人が聴くと、とんでもないことをやっていると分かるはず。逆に普段ジャズをあまり聴いていない人が聴くとスムースで聴きやすいものにも聴こえる。
後藤:そこが昔のフュージョンとは違うんだな。フュージョン・ミュージシャンは上手いことは分かるし、気持ちよく聴けるんだけど、だからどうしたってところもありましたね。要するにさっき言った“引っ掛かり”がまったく無いんですよ。もっともフュージョンって“引っ掛かりがあっちゃいけない音楽”だったからね。まあフュージョンって言っても幅広いから、ひとつにくくっちゃいけないけど。ところで4月にゴーゴー・ペンギンのライブを見たんだけど、彼らも凄くいいね。ピアノのラインを聴いているとあまりジャズ的ではないんだけど、チームとしての音を聴いているとジャズ以外の何者でもないんだよね。
柳樂:ジャズってこれまで“個人の足し算の音楽”だったと思うんです。ウェザー・リポートは、ジョー・ザヴィヌルとウェイン・ショーターとミロスラフ・ヴィトウスの足し算の音楽だった。それがいまはグループの音楽のためにミュージシャンが集まって何かをするかって方向に変わってきた。それってハイエイタスにも言えることで、ベーシストはもともとヘビメタのバンドをやっていた。それからジャズに興味を持って、パット・メセニーも通っていたマイアミ大学を出た。ヘビメタのこのフレーズをどれだけ早く弾けるか、テクニック全開! みたいなことをやっていた人が、それをやらずに演奏しているんですね。
――他のメンバーについてはどうですか?
柳樂:キーボードのサイモン・マーヴィンはメルボルンのモナシュ大学でジャズや現代音楽を学んだクラシック出身。卒業後はバンブースなどの著名なクラブ系の生バンドで演奏しています。ドラムのペリン・モスはもともとドラマーではなく、オーストラリアのヒップホップシーンで活動するビートメイカー。J・ディラの影響を受けたビートメイカーがドラムの演奏を始めて、いまに至るという特殊な経歴です。技術的にもスーパーバンドなのに、スーパーバンド感を出していない(笑)。
後藤:なるほどね。それって昔のジャズメンにはないよね。
柳樂:もともとロック・バンドのやり方ですよね。いま、ロバート・グラスパーにしてもそうですが、表面的にはポップなサウンドでも、すごく高い技術をもったミュージシャンが、理論的にも高度なことを採用しながら音楽を作っていたりします。
後藤:ここ2、3年くらい、ジャズシーンは物凄く面白くなってきてますね。ほかのミュージシャンを挙げると、マーク・ジュリアナ、ゴーゴー・ペンギン、ホセ・ジェイムズ、スナーキー・パピー、アントニオ・サンチェス、いくらでも挙げられる。ジャズの範囲ってどんどん広がってきていますね。そういったジャズの新たな可能性ってジャズに隣接する音楽の中にあると思うし、いまジャズがいちばん恩恵を受けているように思うな。
――そんなハイエイタス・カイヨーテを実際に体感するチャンスが到来します。直近では「GREENROOM FESTIVAL’16」と、東京・名古屋のBlue Note公演。サマーソニックの出演も決定したようですね。
柳樂:野外フェスって音が大きいから気持ちいい。それが醍醐味ですよね。Blue Noteは、ジャズを聴くための場所だから、それぞれの楽器がちゃんと聴こえるってことを念頭においてセッティングされている。楽器すべてがクリアに聴こえる会場ってなかなかないので、音楽的なものを聴き取るのは良い体験になりますよ。
――ライブを前に、ビギナーが予習するとしたらどんな曲がオススメですか?
柳樂ネイ・パームが日本好きで、日本の文化をモチーフにしている部分も多いんです。「Laputa」って曲は、映画『天空の城ラピュタ』へのオマージュですし、ゲームの音を使ったりした曲もあるから親近感がわくと思いますよ。
後藤:じゃあ私にオススメする曲は?
柳樂「Swamp Thing」、「Jekyll」、「Molasses」とかかな。どの曲もだけど、突然リズムが変わってまた戻る。それが自然に行われている。特に「Swamp Thing」はすごくて、ズレたリズムが幾重にも重なってて、それぞれの楽器を演奏しているミュージシャンのタイム感が違っていて、すごく気持ちが悪いのが癖になります。こんな演奏ができるっていうことが、そもそもすごいし、しかもそれで普通の歌モノとして成立させているのがすごい。このいい意味での「違和感」はジャズリスナーにぴったりだと思います。
後藤:改めて聴くとネイ・パームの個性的なボーカルがハイエイタスの聴きどころになっているね。そしてそれを支えているのが、ユニークな曲想と多彩なリズム・パターンにあるとも感じます。ロック、クラシック、ワールドミュージックなど、他ジャンルの音楽手法を使いつつも、それが“ジャズ”として高度に結実しているような演奏だな。柳樂さんの解説を頭に入れて、みんなで仕事を休んでハイエイタス・カイヨーテのライブを観に行きますか(笑)。

 
■GREENROOM FESTIVAL '16 (5月22日出演)
http://greenroom.jp/
 
■Blue Note Nagoya(5月23日出演)
http://www.nagoya-bluenote.com/
 
■Blue Note Tokyo(5月25日、26日出演)
http://www.bluenote.co.jp/jp/
 
■SUMMER SONIC 2016(8月20日出演)
http://www.summersonic.com/2016/


■ハイエイタス・カイヨーテ 日本公式サイト
http://www.sonymusic.co.jp/artist/hiatuskaiyote/

PROFILE

後藤雅洋×柳樂光隆
後藤雅洋×柳樂光隆

後藤雅洋
東京四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐる店主。ジャズ評論家。隔週刊CD付きムック『ジャズ・ヴォーカル・コレクション』(小学館)を監修。そのほか多数執筆。

■いーぐる公式サイト
http://www.jazz-eagle.com/

柳樂光隆
島根県出身。音楽評論家。現在進行形のジャズガイドブック『Jazz the New Chapter』(シンコー・ミュージック)監修者。CDジャーナル、JAZZ JAPAN、intoxicate、ミュージック・マガジンなどに執筆。ライナーノーツも多数。

■シンコー・ミュージック
http://www.shinko-music.co.jp/main/ProductDetail.do?pid=1639529