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Column with 仕事を休んででも行くべきライブ #03 ヤン富田ライブ

仕事を休んででも行くべきライブ #03

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仕事を休んででも行きたいライブ #3

ヤン富田ライブ
2017年3月24日(金)ブルーノート東京

取材・文:河村鶴男

 絶対に見逃したくないライブがある。が、見逃してしまっても、その失敗にはしばらく気づかない。「あのライブ、結局行かなかったなぁ~」程度の話だ。しかし5年経ち、10年が経った頃に「取り返しのつかないミスをしてしまった」と思い知る。
 
 筆者の痛恨のミスはこうだ。『ライブ・アンダー・ザ・スカイ(パット・メセニー・グループ出演)』(92年)をキャンセルして友達と海に行ったこと。デートを優先して『さんピンCAMP』(96年)に行かなかったこと。そして、あれだけ暇を持て余していた90年代のはじめ頃『ヤン富田・コンサート』(90年代に唯一おこなったコンサート。当時のヤンさんはスタジオに篭って作品制作主体の活動だった)に行かなかったこと。
 さらにもっと昔。80年代前期のピテカントロプス・エレクトス(原宿にあった伝説のクラブ)や、インクスティック六本木(ライブハウス)での「国内音楽史における大事件の数々」に立ち会えなかったことを思うと、当時小学生だった自分をただ呪うしかない。そこには、現在につながるクラブカルチャーやヒップホップやエレクトロミュージックの萌芽があり、その中枢に、ヤン富田はいた。
 
 そんな“伝説のクリエイター”が3月24日、ブルーノート東京(東京都港区)に出演する。まずは、ヤン富田とはどんな音楽家なのか? というところだが、この公演のHP冒頭にはこう書かれている。
「最先端の前衛音楽からポップ・ソングまでを包括する音楽家」
 的確。要するに幅が広いのである。したがって、今回のステージでは「ヤン富田の、どの側面が披瀝されるのか」が非常に気になるところ。この件について本人はこう語る。
「普段のライブは3時間とか5時間とか、それくらいの時間でやっているんです。しかし今回は1セットが70分。これは今回、自分に課せられたテーマだと思っています。いずれにせよ、ちょっとやり方を変える必要があるんです」
 早くも出ました。“仕事を休んででも行きたい”要素。そうそう見ることのできない、特別な内容が示唆される。さらにこうも語る。
「“TPO”っていう概念あるでしょ? 時と場所と場合に応じて身だしなみや振る舞いを変える、っていう。今回(ブルーノート東京)のようなジャズクラブと、僕の音楽との距離感や関係性を考えると、その塩梅も(やる側としても観る側としても)面白さのひとつかな、と」
 
 では、具体的にどんなパフォーマンスを考えているのか。
「例えばショウケース・スタイルのライブにして、僕がドラム缶(スティールパン)叩いたり、ドゥーピーズが出てきたり、いとう(せいこう)くんと何かやったり。そういう感じとか、全く裏切る感じとか…アハハ」
 そう。今回の『ヤン富田ライブ』には、メンバーとして以下のアーティストがクレジットされているのだ。
 いとうせいこう/M.C. BOO/大野由美子/コンピューマ/椎名謙介/スージー・キム/ドゥーピーズ/HIPHOP最高会議−千葉隆史/ロボ宙
 このメンバーはそのまま「ヤン富田の素性」を表してもいる。まずは、いとうせいこう。氏は日本のヒップホップ/ラップ表現のオリジネイターであるが、ヤン富田もまた、日本で最初のヒップホップ・プロデューサーなのである。いわば“ジャパニーズ・ヒップホップの父”とも言える存在。同出演者のロボ宙、MC BOO、HIPHOP最高会議−千葉隆史もその系譜と考えてよいだろう(もちろん彼らは「ヒップホップの人」という枠組みの演者としてパフォーマンスするわけではないが)。しかし、氏はこう謙遜する。
「みんなね、お世話になりっぱなしの後輩たちです。本当に心から信頼できる人たち。音楽家としてはもちろんだけど。だから、細かいプレイについて、あれこれ言いません」
 
 ここでもうひとつ“日本で最初”を挙げるなら、ヤン富田は「日本で最初のプロのスティールパン奏者」である。これは出演者のドゥーピーズとゆかりの深い部分でもあり、80年代のWATER MELON GROUP(中西俊夫や屋敷豪太、バカボン鈴木らのユニット)や、個人名義でもその手腕を発揮してきた。さらに、また別の要素もある。
「一応(ライブの)サブタイトルとして『音楽による意識の拡大を求めて』っていう大層なタイトルを打っちゃったわけだから、限られた時間の中で“そういうこと”もやりますけど、べつに、難しいことをやることが目的ではないんです」
 氏の言う“そういうこと”とか“難しいこと”というのは、冒頭の紹介文にあった「最先端の前衛音楽」に該当する部分だ。今回のライブの“メンバー紹介”には、ヤン富田の名とともに“マインド・エキスパンダー・システム”がクレジットされている。この装置の内訳はこうだ。
 ブックラ・ボックス/サージ・モジュラー/ラジオ・ネット/スティールパン、その他電子楽器
 
 ヤン富田は、電子音楽の世界においても国内におけるフロンティアのひとりである。無論、現時においても第一級のクリエイターだ。
「これは、意識を拡大するための道具なんです。それを総称してマインド・エキスパンダー・システムと呼んでます。例えば、化学薬剤を使って、意識を拡大する方法があるけど、それを“音楽”によって達成しよう、と考えています」
 それは、普段の我々が考える「音楽体験」とは少し離れたところにある。
「純粋に音楽だけで意識を拡大しようとすると、結構大変です。これまでの発想を超えたところで捉えないと、うまくいきません。だから最初に解説というか“入り口のヒント”みたいなものを入れます。そうすると楽しめるってことに気づいてもらえるんです。気づいたら、その幅の分『意識が拡がっている』わけなんです、簡単でしょ、アハハ」
 
 これは決して“難解であること”が目的の音楽ではない。ある目的に向かって、きちんと設計された音楽なのである。ならば、その目的とは何か。
「それはね『人生や世の中の“楽しみ方”が拡がる』っていうことなんです。そこから『あ! 世の中って、ちょっと面白いこともあるんだな』っていうところに繋がっていくと思います」
 本人の話を聞いて、ようやくわかった。どうやら今回の「ヤン富田ライブ」は、まさに冒頭の「最先端の前衛音楽からポップ・ソングまでを包括する音楽家」を一晩で堪能できる内容なのではないか? だとしたら“ヤン富田ミュージック”の熱狂的ファンにとっても、ビギナーにとっても喜ばしい、ユニークで稀有なライブになるはずだ。
「僕はいつも、僕のことを初めて見るお客さんを意識してプレイするんですけど、それは今回のステージでも変わらない。わざわざ来てくださるんだから、やはり楽しんでもらうことは大前提なんです。何をやってるのかわからないまま終わってしまうのは、お互いにとって不幸なことですよね。どうすればお互いにエンジョイできるかって部分は、とっても大切なことなんです」
 
 ちなみにこのライブは3月24日(金)に開催されるのだが、前日までブルーノート東京のステージに(3日間)立っているのは、なんとあのレジデンツ(前衛音楽集団。32年ぶりの来日公演)である。この週、青山界隈の磁場が狂うことは間違いないのだが、「あの週(2017年3月4週目)のブルーノート東京は本当にヤバかった」と、のちの語り草になるのも確定。「うっかり行かなかった」などという失敗は許されないのである。

 
 
【演目】
ヤン富田ライブ
 
【会場】
ブルーノート東京
 
【日時】
3月24日(金)
 
《1st》Open 5:30 pm  Start 6:30 pm 
《2nd》Open 8:20 pm  Start 9:00 pm
※1st Showと2nd Showは別プログラム
 
 
【公演詳細】
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/yann-tomita/