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Column with ジャズマンのファッション 川瀬拓郎
第3回 リー・モーガンのスーツスタイル

イラスト/シマジマサヒコ

ジャズマンのファッション

COLUMN
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ジャズマンのファッション

川瀬拓郎

第3回
「リー・モーガンのスーツスタイル」

イラスト/シマジマサヒコ

 現在のハリウッドスターやポップスターがそうであるように、かつてジャズマンはファッションリーダーだった。彼らのスタイルは、その音楽と同様、現代でもさかんに引用されている。本連載では、そんなジャズマンたちが残した名盤とともに記憶された、彼らのファッションについて、さまざまなテーマで考察していきたい。

現代のデザイナーをも魅了する
リー・モーガンのスタイル

 

 昨年のヴェネチア、ストックホルム、トロント国際映画祭で上映されたドキュメンタリー映画『I Called Him MORGAN 私が殺したリー・モーガン ~ヘレンは彼をモーガンと呼んだ~』が、いよいよ日本でも公開される。『マイルス・アヘッド』、『ブルーに生まれついて』といった、ジャズマンを題材にした映画が立て続けに公開されていることもあり、一般的な映画ファンからの注目も高まっているのかもしれない。


 1972年、NYのジャズクラブ・スラッグスで演奏をしていたリー・モーガンは、第2ステージと第3ステージの休憩時間中に内縁の妻に銃撃され、搬入先の病院で死亡が確認された。享年33歳。18歳でデビューし、一気にスターダムへと上り詰め、その後ドラッグにのめり込みスランプへ。再起を果たせぬまま帰らぬ人となった、天才トランペッターのあまりにドラマティックな生涯と最期は、まさに映画向けとも言えよう。
 
 さて、ここに一冊のカタログがある。COOL STRUTTIN’ & Co(以下、クールストラティン)という日本のファッションブランドが、2005年に配布した小冊子だ。ブランド名はもちろん、ソニー・クラークのアルバム名にちなんでいる。
 
 一般的にファッションブランドのカタログといえば、モデルが着用したポートレートで幕を開け、途中から商品写真の羅列となるが、このカタログではほとんど自社商品は紹介されていない。カタログの前半は、ブルーノートを中心に厳選されたジャズの名盤と、いわゆるシネ・ジャズの名シーンが並べられ、同ブランドのデザイナーである浜田比左志氏のコメントが添えられている。さらに読み進めると、DJ・プロデューサーの沖野修也氏やUFOのラファエル・セバーグ氏などのインタビューが続き、ソリマチアキラ氏によるイラストが華を添える。

 職業柄、大量のカタログやヴィジュアルブックが送付され、シーズンが終わると廃棄してしまうのだが、このカタログは大切に所蔵していた。今回の「ジャズマンのスーツ」という難題を前に、改めてこの冊子を広げると、リー・モーガンのレコードジャケットが目に留まったのである。本コラムを執筆するようになってからというものの、いつかは浜田氏にインタビューをしなければと思っていたところでもあった。まずは、なぜ、自身が手がけるブランドのブックで、リー・モーガンを大きく取り上げたのか聞いてみた。
 
「だってほら、リー・モーガンってジャズマンの中でも、いちばんスタイルが良くてかっこいいでしょう? 音楽性はもちろん、自分の容姿にも自信があるということが、このアルバムジャケットの顔付きからもよく分かりますよね。背の低いマイルスと違って、長身ですらっとしたリー・モーガンなら、どんなスーツだってかっこよく着こなしてしまうから」

 自身の名前を冠した本作『LEE MORGAN』(1956)のジャケット写真で彼が着用しているのは、ヘリンボーン(注1)のジャケットである。てっきり上下そろいのスーツかと思いきや、前方へ突き出した左膝が少しだけ見えており、これがコーデュロイのパンツであることがはっきりと確認できる。「スーツスタイル」ではなく「ジャケット+パンツ」。いわゆる“ジャケパン”なのである。

 当時のジャズクラブでは、演者にスーツ(=上下そろいの生地で仕立てられた)の着用を義務付けていたという証言もあるが、これがもし本当で、彼が意図的にスーツを着崩したのであれば、なかなか興味深い。1960年発表の『Here’s Lee Morgan』や『Expoobident』では、すらりと伸びた肢体、9頭身はあろうかという抜群のスタイルを活かし、完璧なスーツスタイルを披露しているというのに…。

「あらためて、アルバム『LEE MORGAN』の写真を見てみると、本人はかっこいいけれど着こなし的にはアウトですよね(笑)。まずシャツの袖が出ていないし、コーデュロイのパンツが写り込んでいますから。撮影前に、おそらくバストアップ写真だと油断していたのでしょう。たぶんシャツは半袖だろうし、ヘリンボーンとコーデュロイという“柄素材”の組み合わせもトゥーマッチです。本来の着こなしではないから、彼自身は不本意だったかもしれませんね」

 結果的にあの“ジャケパン”スタイルは偶然の産物であったようだが、Vゾーンが狭く“3つボタンの上2つ掛け”のジャケットは、いま見ても古臭さを感じない。“段返り3つボタンの中掛け(注2)”がスーツの基本となった現代では、逆に新鮮でもある。クールストラティンでは、かつてこのデザインを元にした「リー・モーガン」というモデル名のスーツを販売していた。
『LEE MORGAN』(1956)でモーガンが着ているジャケットについて、浜田氏は語る。 
「高めのウエスト位置に、狭いVゾーンが特徴のこのジャケットは、ラペル(注3)の縁に入ったアウトステッチにも注目です。高級スーツのラペルに入るステッチは手縫いが基本ですが、この直線的で均一な運針から、ミシンで仕上げたことが分かります。当時、マイルス・デイヴィスが他のジャズマンに奨めていたのがブルックス・ブラザーズだったこともあるので、おそらくブルックスの既製スーツのジャケットか、安価なテーラーでしつらえたと推測できます」

 

注1:直訳するとニシンの骨。その名の通り、魚の骨のようにV字状に並ぶ織り柄のこと。杉綾とも呼ばれ、床材や壁材といった建築にも用いられるパターン。英国調のスーツやジャケットに欠かせない織りとして現在でも広く普及し、高い人気を誇る。

注2: “段返り”とは、ジャケットの一番上のボタンがラペルの裏側(折り返した部分)にくる仕様のこと。トラッドスタイルの基本形とされ、普段このボタンは使用せず、第二ボタンで留める。

注3:ジャケットの“襟の折り返し”の下襟部分。上襟はカラーと呼び、ラペルとカラーの刻みをゴージラインと呼ぶ。

 

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PROFILE

川瀬拓郎
川瀬拓郎

1973年生まれ。東京都出身。 大学卒業後、出版社に勤務し『モノ・マガジン』、『リアル・デザイン』、『センス』などの編集部を経て、2011年よりフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。現在はメンズファッション誌を中心に、WEB、カタログ制作などを手がけている。