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Column with ジャズマンのファッション 川瀬拓郎
第3回 リー・モーガンのスーツスタイル

イラスト/シマジマサヒコ

ジャズマンのファッション

COLUMN
INFORMATION


英米ミックス・スタイルを
アフリカ系が着こなす


  英国調素材の代表であるヘリンボーンでありながら、ブルックスが得意とするナチュラルショルダーでボックス型の米国式シルエット。さらに“段返り3つボタンの中掛け”がアメリカントラッドの本流であるのに、ブリティッシュな3つボタンの上2つ掛け…。こうした英米のミックスによるデザインは、当時のアイビースタイルに欠かせないものであった。こうした3つボタン上2つ掛けの、いわゆるモッズ的なスーツを着こなしている名盤として、オーネット・コールマンの『ディス・イズ・アワ・ミュージック』についても触れなければならないだろう。

「まずこのジャケットが秀逸なのは、オーネット・コールマン本人だけがグレーで、他のメンバーはブラックのスーツを着ていることです。さらに、白人メンバーのチャーリー・ヘイデンを右端に立たせているのも面白い。やっぱり、リー・モーガンと同じことが言えるんですけど、彼らはVゾーンが狭いアイビースーツがよく似合いますよね。ちなみに、コールマンは香港に行きつけのテーラーがあって、そこでスーツを仕立てていたようです。これはDUGの中平さん(注4)から教わったのですけどね」(浜田氏)

 デザインや着こなしについてのセンスはもちろんだが、なんと言っても着る人の体型や顔付きが、スーツスタイルを大きく左右することは紛れもない事実だ。リー・モーガンにせよ、オーネット・コールマンにせよ、アフリカ系特有の体型が、スーツを特別なものにしていることは疑いの余地がない。
 
「セネガルやマリ出身の黒人がもつ、すらりと長身で筋肉質な身体なら、スーツ姿が違って見えてくるのは当然です。僕がフランスに留学していた頃も、こうしたアフリカ系移民をたくさん見てきましたから。だからこそ、あの身体をもって生まれたリー・モーガンのスーツ姿は別格なのです。90年代のオズワルド・ボーティング(注5)がそうであったように、アフリカ系の恵まれた体型を活かした主張あるスーツというのは、彼らの特権でもあると思います。彼らとは骨格からして違う日本人が着こなすのは無理ですよ。その点、例えばトム・ブラウン(注6)のスーツは日本人でも着こなしやすい。なぜならトム・ブラウン本人が、それほどスタイルがいいわけではないから(笑)。だから、黒人が着こなすモードなスーツよりも、アイビー的なスーツなら日本人にもなじみやすいんです」

 クールストラティンは、残念ながら2014年に終了してしまったが、日本人がかつてのジャズマンのように、スーツを粋に着こなす重要なヒントを与えてくれた。そして、スーツはビジネスマンの制服などではなく、男にとって最高のお洒落着であると。
 
「やっぱり、スーツさえ着ていれば安心という人が多いからではないでしょうか? スーツって本当はいろんな種類があるし、着こなし次第でいくらでも自分らしく見せることができます。でも、ちょっと変わったスーツを着て会社に行くと、やっぱり浮いちゃう。同調圧力に弱いんですよね、日本人って。だから、自分のスタイルを作ることすら難しいし、それを貫くことはもっと難しい。クールストラティンで表現したかったのは、自分のスーツスタイルを確立できていない人の背中をそっと押してあげること。そして自分のスタイルを持った人を力付けることができればいいと思ってデザインしていました。そういう機会があれば、いつかまた挑戦したいですね」
 
 いつの頃からか「ジャズマン=スーツ」のイメージは希薄になった。モーガンが亡くなる1年前に録音された最後のスタジオアルバム『The Last Session』(1972)のジャケット写真は、もはやオーソドックスなスーツスタイルではない。 

 これと同時期、他アーティストのジャケット写真を眺めてみても、ヒッピー風のサイケデリックな衣装や、アフリカ回帰を想起させる民族衣装、あるいはカジュアルな普段着で埋め尽くされる。
 
 スーツという白人が作り出した呪縛から、彼らのしなやかで野生的な身体は解放された。という見方もできるのかもしれないが、現代の多くの人が考える「ジャズ」のイメージはやはりスーツである。同時にそれは40〜60年代のモダンジャズとセットになっている。この期間を駆け足で生きたリー・モーガンは、その体躯やセンスも含めて「ジャズマン=スーツ」を象徴するような存在と言えるのではないだろうか。
 

​注4:新宿のジャズバー。1967年の開店以来、多くの文化人や芸能人に愛され、村上春樹が通っていたことでも有名。店のロゴデザインはイラストレーターの和田誠によるもので、オーナーの中平穂積はジャズ写真家としても知られている。

注5:1967年ロンドン生まれのファッションデザイナー。サヴィル・ロウの伝説的テーラーであるトミー・ナッターの下でスーツ作りを学ぶ。その後、独立して1995年のパリ・メンズコレクションにデビュー。2003年には、ジバンシーのメンズウェア初代クリエイティブ・ディレクターに就任。
 
注6:アメリカのファッションブランド。同ブランドの創業者でありデザイナーも務めるトム・ブラウンの名を冠し、50~60年代のアメリカン・トラディショナルをベースにした作風で人気を博す。


 

映画『I Called Him MORGAN 私が殺したリー・モーガン ~ヘレンは彼をモーガンと呼んだ~』より。Courtesy of FilmRise/Submarine Deluxe/Kasper Collin Produktion AB.
 


PROFILE

川瀬拓郎
川瀬拓郎

1973年生まれ。東京都出身。 大学卒業後、出版社に勤務し『モノ・マガジン』、『リアル・デザイン』、『センス』などの編集部を経て、2011年よりフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。現在はメンズファッション誌を中心に、WEB、カタログ制作などを手がけている。