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Column with あの伝説のジャズクラブへ行ってみた シカゴ編 正統派モダンジャズに特化したシカゴ随一のクラブ

あの伝説のジャズクラブへ行ってみた シカゴ編

COLUMN
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あの伝説のジャズクラブへ行ってみた
——シカゴ「
JAZZ SHOW CASE」編——
 

アメリカの「伝説的ジャズクラブ」体験レポート(全3回)。第一弾は、全米でも指折りのミュージックタウン、シカゴ編です。70年の歴史を誇るジャズクラブ「ジャズ・ショウ・ケース」へ…。

取材・文/川瀬拓郎
写真/米田樹央


正統派モダンジャズに特化したシカゴ随一のクラブ

 音楽と深い結び付きを持った街シカゴは、全米第3位の人口を擁する大都市。1920年代、ニューオーリンズからこの地へ移住してきたルイ・アームストロングらの活躍によってジャズが根付いたことでも知られ、1950年代以降に人気を博したシカゴ・ブルースも多くの人に愛され続けている。

 また、ダンスミュージックのいちジャンルとして知られる「ハウス」も、シカゴにあったクラブ「ウェアハウス」の店名が由来だ。2000年代以降はトータスを率いるジョン・マッケンタイアの活躍によって、シカゴ音響派と呼ばれるコミュニティが形成されたことでも知られている。

 数々の有名映画の撮影場所にもなったシカゴのダウンタウン。2013年に完成したワールドトレードセンターの登場以前は、全米で最も高いビルであったウィリス・タワー(旧:シアーズ・タワー)を擁する摩天楼も、ニューヨークに引けを取らない。数多くの高級ホテルやブティック、大手企業が集まる中心街を環状に走るのが、CTAと呼ばれる高架鉄道(一部では地下鉄となる)である。今回取材したジャズ・ショーケースが構えるのは、シカゴ美術館やミレニアムパークからほど近い、サウスループと呼ばれるエリア。

 この地区はルーズヴェルト大学やデ・ポール大学などが密集するエリアで、昼夜問わず、多くの学生たちを目にする。その他にも大学のコンベンションホールや市の公共施設などが多いせいか、ダウンタウンの喧騒とは違い、落ち着いた雰囲気である。実際、夜中に出歩いて身の危険を感じたことは一瞬たりともない。今回訪れたジャズ・ショーケースは、赤いレンガ作りの大きな建物の一角にある。目印となる大きな丸い看板の下がエントランス。小規模なジャズクラブの多くは地下にあるが、ここは2、3段を上がった地階となる。

 エントランスのカウンターに座しているのは、このクラブのオーナーであり、シカゴのジャズシーンを牽引してきた重鎮、ジョー・シーゲル氏。ジャズとともに歩んできた70年の軌跡をまとめた一冊の本『Stay On It!』を上梓したばかりだ。1926年生まれの氏が、ジャズ・ショーケースをスタートさせたのは1947年。当時できたばかりのルーズヴェルト大学に通う学生たちの社交場を、週末のセッションの場として運営したことがきっかけであった。

 ホールに足を踏み入れるとまず目に飛び込んでくるのは、在りし日のチャーリー・パーカーの巨大なポートレイト。これは1949年にルーズヴェルト大学内のホールで、彼が演奏したことにちなんでいる。ジャズクラブとしては比較的大きなステージで、天井も高く、客席も広い。ステージ最前列からしばらくは、小さな丸テーブルに2脚ずつ椅子が添えられたエリアが続き、途中からは4〜5人で四角テーブルを囲むエリアとなる。その後ろに立ち見用のエリアとバーカウンターがある。キャパシティとしては200人程度で、ゆったりとしたムードの中でライブを満喫できる。


 ステージ下手側の通りに面した壁には大きな窓が並び、それ以外の壁面には、過去に出演したジャズマンたちの写真やフライヤーがびっしりと貼られている。50年代から60年代にかけては、ディジー・ガレスピー、マックス・ローチ、マイルス・デイビス、バド・パウエル、レスター・ヤングなど、ジャズ・ジャイアンツがこのステージで熱演を繰り広げていた。ブッキングにはジョー氏の趣味が反映されており、いわゆるフュージョン、クロスオーバー系が出演することはほぼないそうだ。

 80年代、ジャズ・ショーケースは閉鎖の危機に見舞われるものの、数多くのミュージシャンや関係者によって救われ、1992年に現在の形態に落ち着く。以後、歴史的ジャズスポットとして国内外で賞賛されるようになる。2004年には、ナショナル・ジオグラフィック・トラベラー誌によって、シカゴの名スポットとして表彰され、現在も多くの旅行者が訪れている。およそ国内観光客が20%、海外観光客が40%、地元客が40%だそう。また地元との結びつきを大切にしたいという、ジョー氏の意向により地元ジャズマンと学生の入場は無料。さらに子供たちのためにサンデーマチネーを開催し、ジャズに触れる機会を設けている。

 ジャズ・ショーケースの入場料は$20〜25。ニューヨークの有名クラブの入場料が$30〜50であること、厳選されたアーティストの生演奏を広いスペースで鑑賞できることを考えれば、これはかなり良心的な価格設定といえよう。取材時にステージでリハーサルをしていたのは、地元シカゴ出身のロバート・アーヴィング三世。マイルス・バンドに参加し、現在では作曲家としても活躍している。撮影時はスタインウェイのグランドピアノを前に、若いメンバーに指示を出しながら、出音のチェックをしていた。

 当日訪れていた客層は、こざっぱりとした身なりの年配客と30代半ばのカップルが多く、真剣な眼差しでステージを見つめていたのが印象的だった。いわゆるチャラい雰囲気の客を見かけることがなく、初めて訪れた人にも居心地が良い上品な雰囲気。それは決してかしこまったものではなく、ジョー氏が大切にしてきたジャズとミュージシャンへのリスペクトが、客の立ち振る舞いにも自然と現れているようだった。

モダンジャズへの愛とリスペクトが溢れる店内


 バーで供されるカクテルの定番は、ウィスキーベースの“オールドファッション”。女性に人気なのはウォッカベースの“プリティ・ピンク”と“パッション”。いずれも$12から楽しめる。同店ではフードの提供がないので、食事をしたい人には、提携している近隣のレストランMaggiano’s Little Italyでの食事付き入場券($43)が用意されている。スタッフたちの対応も非常に丁寧で、こちらの拙い英語にも嫌な顔ひとつせず店内の説明をしてくれる。ひっきりなしに海外旅行者がやってくるニューヨークのジャズクラブでの機械的な受け答えと違って、より温かでフレンドリーな対応が印象的。


 シカゴジャズの発展を支え続けてきたジョー氏の功績とともに、歴史的なスポットとなったジャズ・ショーケース。1950〜60年代のモダンジャズ黄金期を、原体験として持つファンが少なくなっている現在、そのスピリットを継承する希少な場所となっている。まさに私のようなジャズバー初心者にも最適で、居心地のいい空間。ジャズの最先端を体験できる刺激的な場所ではないけれど、それゆえ誰にでも安心してお奨めできるのがジャズ・ショーケースなのだ。

http://www.jazzshowcase.com/

 

PROFILE

川瀬拓郎
川瀬拓郎

1973年生まれ。東京都出身。 大学卒業後、出版社に勤務し『モノ・マガジン』、『リアル・デザイン』、『センス』などの編集部を経て、2011年よりフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。現在はメンズファッション誌を中心に、WEB、カタログ制作などを手がけている。