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PLAY VINYL 
アナログレコードがある生活
PLAY VINYL - アナログレコードのある生活 -
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 82年に登場したCDに駆逐され、その数年後には生産枚数で追い抜かれ、もはや風前の燈と思われていたアナログレコード。しかし、90年代末からジャズやロックのLPが少しずつ見直され、21世紀へ跨ぐ頃には息を吹き返し始める。そして、ここ数年の大ブーム。もはやアナログレコードは、老若男女のオーディオマニア、音楽ファンにおいて、完全復権を遂げたといってよい。アナログプレイヤーの新製品も登場してきているし、アナログレコードの生産枚数もここ数年うなぎ登りだ。
 では、一時は消滅寸前にあったアナログレコードがどうして蘇ることができたのか。それは、利便性を追求した当今のデジタルメディアでの音楽の聴き方に対するアンチテーゼとして、アナログプレイヤーを使って音楽を聴く一連の所作にも要因がありそうだ。

文:小原由夫
イラスト:YUKI FUJITA

STEP.1

プレイヤーを買う前に知っておくこと

 

アナログレコードの音の出る仕組みと魅力

なぜ“音がいい”と言われるのか

 昨今流行のイヤフォンとポータブルプレイヤーはもちろん、いまやスマホでも好きな時に好きな場所で音楽が楽しめる。ボタンひとつですぐに音楽はスタートするし、気分次第でシャッフルプレイもお手のモノだ。だが、そうした便利でイージーなデジタルメディアが、何だか味気ないと感じる人が増えてきたことも事実だ。CDにも飽きたという人さえ出てきている。
 そんな人たちに注目されたのがアナログレコードだ。曲間を飛ばして聴くのは容易ではないし、シャッフルプレイなど完全に不可。取り扱いには慎重さが要求され、何しろ重たい、嵩張る。もちろん屋外で聴くことなんてできない。しかし、じっくりと腰を落ち着かせてアナログプレイヤーにレコードを乗せ、針を降ろしてスピーカーと対峙して音楽を聴く。そんな音楽との接し方がいま支持されているのだ。何か他の作業をしながらなんて、とても聴けない。真剣に音楽と向かい合う。アナログレコードはそんな気にさせる。
 周波数特性やダイナミックレンジはもちろん、チャンネル間クロストークやひずみ率など、主要なスペックはどれもデジタルの方が優れている。しかし、多くの人がアナログレコードの音が心地よいと感じるのは、人はスペックで音楽を聴いているのではないという証だ。
 却って周波数特性が狭いため、アナログレコードは音に密度があり、濃く、強く聴こえるという意見がある。また、まろやかで柔らかく、耳に馴染みがいいという人もいる。どれも当たっていると私は思う。もしかすると、デジタルの細かく分断された音、ある周波数以上がバッサリ切り落とされた音を、人は耳だけでなく、感覚的に感知しているのかもしれない。
 一過性のファッションと片付けるには、今のアナログ復権のムーブメントは強大過ぎる。やはり耳の肥えたオーディオマニアや音楽ファンが、その魅力を再認識したとしか思えないのである。

音の出る仕組み

 アナログレコード(レコード)は直径17cmのEP盤と、30cmのLP盤が主流(他に12インチ・シングル盤がある)。それぞれに回転数は異なり、前者が1分間に45回転、後者が33・1/3回転になる(一部に例外あり)。
 レコードは塩化ビニールを主成分としており、表・裏の両面に記録されている。一般的にA面/B面、またはSIDE-1/SIDE-2と呼ぶ。片面しか記録されていないCDとはここが違う。しかも、CDはレーザー光線で読み取る『非接触式』。対するレコードは、カートリッジの針先が音溝に当たって振動を拾い、音楽(電気)信号に変換する『接触式』という大きな違いがある。
 音溝は、レコードの表面にちょうど45度/45度のV字型に刻まれている。レコードを上から見ると、ウネウネと細い線が這っているようにみえるが、その線は外周側から内周側に向かって切れ目なくつながっている。レコードの針は、この外周から内周に向かって溝に当たって進み、音楽信号を拾っていくわけだ。ちなみにCDは正反対。内周側から外周側に向かって音楽が記録されている。レコードの溝の断面をみると、ちょうど谷底のような形になっており、内周側の壁にL(左側)チャンネル、外周側の壁にR(右側)チャンネルの音が個別に記録されている。この原理は1957年に発明されたもので、『45-45 方式』と命名されている。この線(溝)は一定ではなく、壁の左右の形が違っていたり、大きく波打っている様子が肉眼でも確認できる。これが音の大小や、LチャンネルとRチャンネルで異なる音を記録する仕組みになっている(音の大小は縦の振動、左右チャンネルの音の違いは横の振動で発生する)。
 レコード針が拾った振動は、カートリッジ内の電気/磁気変換作用によって微小な電気信号に変換され、トーンアームを伝わり、フォノイコライザーアンプへと導かれて増幅され、アンプ(パワーアンプ)、スピーカーへと伝送されて音楽として再生されるわけだ。

アナログレコードを聴くために必要なもの

レコードプレイヤー

プレイヤーの重要な役割は、規定の回転数を正しくかつ安定に維持することと、レコード針(カートリッジ)が拾い上げた信号を忠実にトーンアームに導き、アンプ(フォノイコライザーアンプ)に送り出すことだ。この他、レコード針が正確に音溝に接するよう、振動しにくい構造と、水平をきっちりと保つ機能が要求される。規定の回転数を得る方式として考案されたのが、リムドライブ、ベルトドライブ、ダイレクトドライブの3種類の駆動方式。現在の主流は、ベルトドライブとダイレクトドライブだ。ベルトは輪になったゴムや化学材料製のベルトを介してターンテーブルを回す。比較的入手しやすい汎用的なモーターが使われる。また、ベルトの代わりに糸を使って駆動するモデルもある。ダイレクトドライブは、文字通りモーターが直接ターンテーブルを駆動する方式で、別称「DD方式」。ベルト・ドライブに対して、強いトルクと規定回転数に達する早さがセールスポイントだ。回転数の正確さはモーターの制御方式に依存し、専用設計のモーターが必要になる。このターンテーブルやモーター、トーンアームを搭載する台は、キャビネットと呼ばれ、振動しにくい強固さが望まれる。そのため、脚部には振動しにくいゴム系や、振動をよせつけない金属性のものなどが使われる。ダストカバーは、デリケートなプレイヤーを保護し、レコード再生中はホコリを防ぐ目的もある。

針/カートリッジ

レコードの音溝を正確にトレース(沿って動く)するには、針先(専門的にはスタイラスと呼ばれ、主にダイヤモンドが使われる)が自由に動けなければならず、また大きな振幅から小さな振幅に戻る際にも、ブレずに速やかに元に収まるような動作が要求される。針先のそうした動きを支えるのが『カンチレバー』と呼ばれる部分で、細い針金のような形状をしている。レコード針の振動は、このカンチレバーを経由してカートリッジのボディ内にある磁石やコイルに導かれる。カンチレバーの振動を受けて磁石が動いて発電する方式を「MM(ムービング・マグネット)型」と呼び、コイルが動いて発電する方式を「MC(ムービング・コイル)型」と呼んでいる。いずれの方式でも、カートリッジからの出力は4つの端子から取り出される。白/赤/青/緑に色分け表示されるのが一般的で、LチャンネルとRチャンネルの(+)端子、およびそれぞれのコールド(-)端子という分け方だ。このつなぎ方を間違えると、左右のステレオ音声が逆になったり、ハムノイズ(ブーンという大きなノイズ)が発生するので要注意。端子の色分けや取扱説明書にしたがって、カートリッジの出力端子と、それをトーンアームに固定する際に不可欠なヘッドシェルの端子を正しく接続することが肝心だ。

フォノイコライザーアンプ

レコードの音溝に記録された音楽信号は、実はそのまま再生すると、蚊の鳴くような小さな音で、そのうえ低域が小さく、高域が大きな、何ともバランスの悪い音なのだ。これは直径30cmのLP片面に20分以上の音楽を効率よく記録するために考えられたもので、「RIAAカーブ」という特性(フィルター)をかけて記録している。RIAAとは、「レコーディング・インダストリー・アソシエーション・オブ・アメリカ」の頭文字を略したもので、アメリカレコード工業会が制定した特性に基づく。音楽信号をそのまま刻むと、低域の振幅が大きいために溝の幅を大きくとってしまって針先がトレースできない。高域は振幅が小さいためにノイズの影響を受けやすく、意図的に大きくして記録する。その記録の大小の境目の周波数を1kHzに定め、20Hzから20kHzまでの特定の周波数ポイントの増減のレベルも厳格に制定している。フォノイコライザーアンプは、このRIAA特性のまったく逆の周波数特性を有した特殊なフィルター回路を内蔵し、なおかつ微小な信号を大きくするためのアンプが搭載されている。一般にこれを『逆RIAA特性』といい、レコードから拾い上げられた信号は、この回路を通すことで、初めて平坦(フラット)な特性に戻り、正しい音楽再生ができるのである。

アンプ

フォノイコライザーアンプの出力だけでは、まだスピーカーを駆動できるほどの電力は得られていない。この段階の電気信号は、CDプレイヤーやチューナーの出力とほぼ同等。この信号をスピーカーに送って、音楽として聴ける音量まで高めるのが、プリアンプやパワーアンプ(プリメインアンプ)の役割だ。具体的には、プリアンプはパワーアンプに電気信号を送り込むまでの増幅を行なうと共に、いろいろな機器から接続された信号の“交通整理”的な役割も担う。また、好みの音色に合わせるための低音や高音の調整『トーンコントロール』も行なう。パワーアンプは、文字通りスピーカーを駆動するまでパワーを上げる部分。定格出力○○Wというのは、大きな音が出せるというスペックである。プリメインアンプは、プリアンプとパワーアンプを1台にまとめたもの。『インテグレーテッドアンプ』ともいい、昨今のアナログレコードのブームを受けて、優れたフォノイコライザーアンプを内蔵したものも登場している。プリアンプやパワーアンプを個別に設置できないケースなど、省スペースで機器をまとめたい際にも好都合だ。