Arban

Arban

DIG 散歩

WHAT's DIGGER

ご存知の方も多いと思いますが、アナログレコードのコレクター界隈では「中古レコードを探す行為」を「ディグ(Dig=掘る)」と形容することがあります。ディグらない、ディグります、ディグる、ディグるとき、ディグれば、ディグれ、ディグろう。いわゆる、ラ行五段活用です。

言葉としては「サボる」とか「ググる」とか「ディスる」と同じ“外来語+日本語語尾”の動詞。ただし、この手の言葉ではあまり見られない、名詞的な使用もOKで、ディグる人を「ディガー(Digger)」と呼んだりします。これは英語圏でも共通です。ただし、日常的にレコードを掘ってる本格派のディガーさんたちは、話し言葉で「ディグる」なんて動詞はあまり使いません。理由は簡単です。「掘る」と言った方が早いからです。2文字分の時間も節約したい。それほど、ディガーの皆さんは忙しいのです。

彼らは、価値ある中古レコードを安く、早く、数多く探し当てるために、あらゆる手を尽くします。レコード店の営業時間や入荷情報はもとより、曜日や時間帯による人の動き、気候や地理まで考慮して“ディグり”ます。ひたすら歩いてレコード店を何軒もハシゴし、店に着いたら両腕フル稼働。ものすごいスピードでレコードジャケットをめくり、買うべきレコードを判別するのです。オリジナル盤と再発盤の差異や、アメリカ盤とイギリス盤の違いも0.2秒で見分けます。あの動体視力をもってすれば、きっと球技や格闘技の世界でも大成したことでしょう。

もちろん、動体視力や体力だけではありません。「レコード作品」に対する知識も必要です。一流ディガーさんの脳内には、あらゆるレコードのジャケットデザインとタイトルがインプットされていて、その内容やレア度はもちろん、作品ごとの相場(価格)や、人気の変動までも把握しています。ジャケを見た途端、脳内に“日経平均株価のグラフ”みたいなビジョンが現れて「このレコードは今が底値だな」とか「1年後には相場が上がるはず」とか「今が“買い”だ!!」みたいなことまで分析します。これも0.2秒。本当にあきれた人たちです。

さらには、交渉力や勘や嗅覚みたいなものまで発動させて、まさに五感のすべてを総動員してレコードを発掘するのです。しかも、場所はレコード店に限りません。リサイクルショップや古書店、友達の実家など、中古レコードがありそうな場所ならどこへでも行きます。そして彼らは(本当に)指が真っ黒になるまで掘り続けるのです。こうした日々の“ディギン(Digging)=掘り”は「ポケモンGO」なんて比較にならないほどの運動量と興奮をもたらすのは言わずもがな。これはもう、本物の金鉱掘りや石油の採掘、あるいは狩猟や遠洋漁業に近いものがあります。

さて、これから始めようとする企画は、そんな“本格派のディガーさん”に登場してもらいます。まず、彼らに「ディグ資金(要するに現金です)」を託します。で、レコードを掘ってもらいます。良いレコードが欲しいけれど、時間も知識も体力も嗅覚も運もない。そんな私たちビギナーの代わりに、安くて良いレコードを探してもらうのです。そして、彼らが“ディグった”レコードを、読者の皆さんにプレゼントしよう、というのがこの連載企画『ディグ散歩』の全貌です。

とはいえ、これはディガーさんにとって“意味不明のオファー”だと思います。なにしろ、他人のお金でレコード掘って(買って)、そのレコードは、さらに見知らぬ誰かの手に渡るのですから。ディガー本人には何のメリットもない。本誌にとっても痛い出費。得するのは読者の皆さんだけなのです。

でも心配はご無用。度量の狭い本誌はさておき、ディガーさんは寛大で男気あふれる人たちばかり。自分が買ったレコードを所有するとかしないとか、そんなことは大した問題ではないのです。彼らは、とにかくレコードを買うのが大好き。レコード店にいるだけで何だか心地よい。レコードの匂いを嗅ぐと気分が高揚する。もしくは安堵する。レコード盤をいじくってるのが楽しくて仕方がない。ディガーとは、そんな症状を指す「病名」でもあるのです。

というわけで、ディガーさんの病気につけ込んだこの企画。記念すべき「第一回」にご登場いただく、素敵なハード・ディガーはこの人です。

本日のディガーさん

社長
SOIL&“PIMP”SESSIONSメンバー。バンド内では、アジテーター(扇動者)として、バンドとオーディエンスを融合させる「媒介」の役割を担う。DJとしての活動も精力的で、ド派手な巨大パーティから、ドープなカルトイベントまで、オールラウンド&クロスオーバーに大活躍中。今回のオファーに対し「キミたち、バカじゃないの?」と呆れながらも即座にOKするという、重度のバイナル愛好者。
Today's Digger
ディグ散歩の掟 予算は1万円以内 制限時間は3時間 購入対象はアナログレコードに限る 購入枚数に制限なし 購入店舗に制限なし

DIG START

――昨日、モントリオール(カナダ)から帰ってきたばかりだそうで。
「はい。ジャズフェスに出てました」
――お疲れのところ、すみません。
「いえいえ。他人のお金でレコード買って、そのレコードが、さらに他人の手に渡る。っていう、奇妙な企画に呼んでいただいて光栄です」
――しかも記念すべき第一回ですよ。
「はい! 良き前例となるように、がんばります」
ELLA record ELLA record
ELLA RECORDS

〒151-0013

東京都渋谷区西原1-14-10

03-6407-0013

http://www.ella-records.com/

――さっそく最初のお店。ELLA recordsさん。場所は東京・幡ヶ谷です。この店を選んだ理由は?
「ここの店主とは古い付き合いでね。以前は違う場所でレコード店をやっていたんだけど、つい先週、この場所にリニューアル・オープンした」
――ということは、メディア初登場になるかもしれませんね。しかも、オープンしたばかりということは“掘れる”可能性も高い。
「まずはこのロープライスの箱を掘ってみよう」
――結構、数がありますね。
「さすが、新鮮な良いネタが揃ってる雰囲気……ほら、さっそく出た。これが100円ですよ!?」
――おお、これはいい作品です。しかも盤質良好で、この値段。買わない理由が見つからない。
「だよねぇ」
ELLA RECORDS

〒151-0013

東京都渋谷区西原1-14-10

03-6407-0013

http://www.ella-records.com/

 
――ところで社長、今回の『ディグ散歩』ですが、何かテーマはあるんですか?
「あるよ。“人生を共にする完璧なレコードコレクションの1ピースを探す”って感じですかね」
――つまり“死ぬまでずっと持っていたいレコード”ってことですか?
「そう。長年レコード買ってますけどね、最近、自分の購入ポイントもそうなりつつあるんですよ。DJ的な即戦力も重要なんですけど、ずっと聴き続けられる、本当に良い音楽を探すようになった」
 
――なるほど。確かに、昔買ったレア盤とか眺めてると「なんでこれ買ったんだろう…」ってことありますね。
「あるね。熟考して買ってるはずなんだけどね。たまに家で聴いたり、DJで使ったりもするし、希少価値もあるんだけど、結局『自分にとって、そんなに重要じゃないな…』って思うレコードってあるよね」
――今日のディグで「安くて一生楽しめるレコードはいっぱいあるよ」ってことも伝えたい、と。
「そうですね。普遍的な魅力を備えたレコードを丹念に掘りたいですね。じゃ、とりあえず、ここはひとしきり見終わったので、この辺でお会計を……」
――あっ! 社長、支払いは我々にお任せください!!
「あ、そっか。なんか変な気分だな(笑)」
――いやいや、ここは我々が。(本誌スタッフに)おい、なにボケっと突っ立ってんだ。社長のレコードをレジまでお運びしろ!
「なにその、三流ドラマの接待シーンみたいなやつ(笑)。ってか、このくだり、毎回やるつもりでしょ」
――はい、お約束ということで。
「もう(笑)面倒だから、僕が全額預かりますよ」
――社長……。かしこまりました。
 

最初のお店で5枚のレコードを購入。次は渋谷のレコード店、next recordsさんへ移動。

最初のお店で5枚のレコードを購入。次は渋谷のレコード店、next recordsさんへ移動。

next records next records
next. records

〒150-0042

東京都渋谷区宇田川町11-11
柳光ビル本館2階

03-5428-3501

http://www.nextrecordsjapan.net/

――ついに来ましたよ、社長。世界最大級のバイナル鉱脈を擁する渋谷です。ちなみにここは12インチシングルの専門店ですね。
「そう、この店が扱ってるのはシングル盤のみ」
――膨大な数のレコードが整然と並ぶ、このレイアウト。ワクワクしますねぇ。掘り甲斐がある、っていうのも然ることながら「え!? この曲って、シングル盤が存在するんだ!!」っていう驚きも体験できる、これはもうヴァイナル・アミューズメント・パークと言っても過言ではない。
「過言ですね」
――すいません、言いすぎました。
 

シングル盤1枚を買い足して、計6枚に。ここまで残金は6800円。そして次の店へ。

シングル盤1枚を買い足して、計6枚に。ここまで残金は6800円。そして次の店へ。

Nothing but records Nothing but records
NOTHIN’BUT RECORDS

〒150-0041

東京都渋谷区神南1-11-5
ダイネス壱番館渋谷901

03-3477-0040

――やってきました。ここはNOTHIN’BUT RECORDSですね。
「あれ? ドアが開かない。定休日なのかな?」
――うーん、残念。ここ、僕も大好きな店なんですけどね。アットホームな雰囲気で。
「そう、たまにビールとか飲みながらね」
――気づくと夜中になってて、そのままレコード持ってクラブに行く、みたいなパターンですよね。
「ああ、それは“ナッシン・バットあるある”ですよね」
――あと、なぜかエレベータで妖艶なお姉さんと乗り合わせることが多いですよね。
「それも“ナッシン・バットあるある”ね。あの現象は“渋谷レコード珍百景”の一つに数えられています」
――ははは。まあ、ここで詳しい話はしませんが。
「とりあえず、近所のHMVに行ってみましょうか。制限時間的にも、もう最後かなぁ……」
 
 

というわけで、現在も残金6800円。残り時間は40分という状況で入店。店内を時間いっぱい探索し、数枚の購入候補盤を手にした社長。いよいよ、ラストスパート・ディギン。

というわけで、現在も残金6800円。残り時間は40分という状況で入店。店内を時間いっぱい探索し、数枚の購入候補盤を手にした社長。いよいよ、ラストスパート・ディギン。

――社長、制限時間が迫ってますよ!
「もう候補は決まってるんだけどね、金額的にはあと1枚くらいは買えるはずなんだ……よし、これに決めた!」
――お、コルテックスですか。
「これは再発盤ですけどね、値段も手頃だし、なによりアルバムとして内容がいい。昔、この再発が出たときのことをよく覚えてますよ」
――もう、10年以上前の話ですね。
「DMR(レコード店)の壁が、一面このジャケで埋め尽くされてね。壁が真っ白になったという」
――はい。あれも“渋谷レコード珍百景”の一つに数えられています。
「あはは。じゃあこの辺で会計お願いします。たぶんこれでピッタリくらいになるはずなんだ。ほら、9880円!!」
――お見事です、社長! ナイス・ディグで~す!!
「なにその、接待ゴルフみたいなやつ」
HMV HMV
HMV record shop Shibuya

〒150-0042

東京都渋谷区宇田川町36-2
ノア渋谷1F/2F

03-5784-1390

http://recordshop.hmv.co.jp/category/shibuya

 
――社長、制限時間が迫ってますよ!
「もう候補は決まってるんだけどね、金額的にはあと1枚くらいは買えるはずなんだ……よし、これに決めた!」
――お、コルテックスですか。
「これは再発盤ですけどね、値段も手頃だし、なによりアルバムとして内容がいい。昔、この再発が出たときのことをよく覚えてますよ」
――もう、10年以上前の話ですね。
「DMR(レコード店)の壁が、一面このジャケで埋め尽くされてね。壁が真っ白になったという」
――はい。あれも“渋谷レコード珍百景”の一つに数えられています。
――あはは。じゃあこの辺で会計お願いします。たぶんこれでピッタリくらいになるはずなんだ。ほら、9880円!!」
――お見事です、社長! ナイス・ディグで~す!!
「なにその、接待ゴルフみたいなやつ」

TIME UP

というわけで、今回の『ディグ散歩』は無事に終了。
そして、お楽しみの「本日の成果」はこちら。

すべて、読者の皆様にプレゼントとして進呈しますので、奮ってご応募ください。
※応募方法は別項をご確認ください。

ディスク紹介

  • MUSIC INC
    Charles Tolliver
    トランペットのチャールズ・トレヴァーと、ピアノのスタンリー・カウエルによるリーダー作。セシル・マクビーや、クリフォード・ジョーダン、カーティス・フラーなど、参加ミュージシャンも豪華。チャールズ・トレヴァーが創設したレーベル、ストラタ・イーストの第一弾作品としても有名。1971年/日本(トリオ)盤LP。
    「ダイナミックなホーン。ファンキーなビート。スリリングな曲展開。すべてが素晴らしい」(社長談)
  • Voice In The Rain
    Joe Sample
    クルセイダーズとしての活動でも知られるジョー・サンプルによる81年のアルバム。クロスオーバー盛期の傑作。1981年/日本(ビクター)。
    「言わずと知れた“バーニング・アップ・ザ・カーニバル”収録。ジャズファンク的な曲でありながら、大箱でもかけられるパワーと華やかさがある。アルバムとしても優れていて、全編通してリリカルなジョーサンプル節を楽しめる1枚です」(社長談)。
  • Mister Mysterious
    Mickey Tucker
    ミッキー・タッカー(ピアノ)によるアルバム。1979年/US(MUSE)オリジナル盤。フランク・フォスターらが参加したスピリチュアル・ジャズファンク好盤。
    「僕が人生で初めて“サンプリング”というものをやったレコードですね。セシル・マクビーのベースがとにかくカッコいい。プレイしすぎて(好き過ぎて)盤がざらついてきて、自分用にもう一枚買いたいところなんだけど、ここは我慢して、読者の皆さんに」(社長談)。
  • Soul Searching
    Average White Band
    イギリス出身のファンク&ソウル・バンドによる4枚目のアルバム。無骨なファンクネスと、スイートで洒脱なソウルが見事に調和。有名サンプリングソースとしても知られる「ラブ・ユア・ライフ」ほか、「クイーン・オブ・マイ・ソウル」などの人気曲を収録。1976年/US(Atrantic)オリジナル盤。
    「大好きな1枚。明け方にかける“クイーン・オブ・マイ・ソウル”は最高に気持ちいい」(社長談)
  • As One
    BAR-KAYS
    60年代半ばから活動するファンクバンドの80年発表作品。
    タイトル曲をはじめ、アルバム全体的にシャープなディスコ・ファンクを展開。「オープン・ユア・ハート」切なくもドリーミーなメロウダンサー。1980年/US(Mercury)オリジナル盤。
    「“オープン・ユア・ハート”は、今回一緒に買ったアベレージ・ホワイト・バンドの“クイーン・オブ・マイ・ソウル”に繋げてかけたい」(社長談)。
  • Brazilia
    John Klemmer
    60年代より活躍するサックス奏者によるリーダーアルバム。ブラジリアン・フュージョンの傑作「ブラジリア」収録。ほか、アルバム全体を通してブラジリアン・フレイバーの佳曲がふんだんに盛り込まれる。1979年/US(ABC Records)オリジナル盤。
    「気持ちいいブラジリアン・フュージョン。アシッドジャズ全盛期のダンサーたちがピークタイムにこれで踊りまくっていたことを想像すると胸が熱くなる」(社長談)
  • Troupeau Bleu
    CORTEX
    1975年発表のフランス産クロスオーバー。ジャズ、ロック、ソウル、ファンク、ラテンそれぞれの風味が渾然一体となったアルバム。発表当時は“ジャズロック”や“プログレッシブ・ロック”の文脈で語られた作品だが、90年代のレアグルーブ・ムーブメントで再び脚光を浴びた。
    2012年/再発盤。
    「フレンチ・レアグルーブの傑作。アルバム全体としても素晴らしい内容です」(社長談)
  • Space Princess/Quiet Moments
    Lonnie Liston Smith
    78年発表のアルバム『Exotic Mysteries』収録の2曲をカップリングした12インチシングル。「Space Princess」はアップリフティングなクロスオーバーディスコ。「Quiet Moments」は優しいボッサ調のスピリチュアル・フュージョン。1978年/US(Columbia)オリジナル盤。
    「ロニー・リストン・スミス作品の中で、たぶん現場でいちばん使ってるであろうレコード。使う回数も多いので、いま所有しているのは3枚目。これも自分のものにしたいくらいです」(社長談)。
| 盤質について
本誌の機材で「針飛び」のチェックを行っていますが、再生環境によって針飛びの可能性もあります。
また、盤によっては多少のスクラッチノイズが発生する可能性もあります。あらかじめご了承ください。

応募要項

■ 応募の方法
プレゼントに応募するにはARBAN MEMBERSへの会員登録(無料)が必要です。
下記URLより所定の手続きにそって登録してください。
https://www.arban-mag.com/entry

登録後は下記URLのプレゼントページよりお申し込みください。
応募フォームの備考欄にレコード番号、作品名タイトルを第3希望まで明記してください。
http://arban-mag.com/present
■ 応募締め切り
11月13日まで。当選の発表は、当選者へのみ11月下旬にメールでご連絡いたします。