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原田和典(音楽記者)| 2016 The Best Albums あの人が選ぶ今年の3枚
 

原田和典
音楽記者

ジャズ誌編集長を経て、2005年からフリーランスのジャーナリストとして活動。音楽、映画、演劇などエンターテインメントに関する執筆取材に取り組む。新聞、雑誌、ウェブ、CDライナーノーツなどに寄稿を続ける。
http://kazzharada.exblog.jp/

19歳でこの仕事についてから幾星霜、一度も「今年は不作だった」とか「今年はつまらない」と思ったことはない。なので2016年も傑作の嵐。音楽を聴く喜びを、ありとあらゆるところから味わった。当コーナーではジャズ寄りのところを選んでみたが、この3枚は本当に氷山の一角。Mark Dresser、Ches Smith、Sam Crockatt、Fred Frith、Henry Threadgill(Jason MoranとDavid Virellesの2ピアノが圧巻!)、Andrew Cyrille、(英国では昨秋発売だが)Huw V Williamsの各アルバムにもしびれた。

  • Norah Jones
    Day Breaks

    こういうノラ・ジョーンズが聴きたかったのだ。キーワードは“ルイジアナ”、MVPはブライアン・ブレイドか。3分の1はブレイドのバンド“フェロウシップ”に通じる浮遊感&湿気ただよう音作り。もう3分の1はブレイドも参加している“ウェイン・ショーター・カルテット”のピアニストが、ダニーロ・ペレスからノラに入れ替わった趣。ほかの3分の1には、まあ、椎名林檎みたいな楽想もある。いろんなタイプの曲が、名手たちの精緻な伴奏と、ますます脂の乗ったノラの歌声で楽しめるわけだ。ホレス・シルヴァー作「ピース」の、約15年ぶりの再演も沁みる。

  • Amirtha Kidambi
    Holy Science

    YouTubeで知り、この夏に実演を見て、「フィジカルは出ないのかな」と気になっていたら遂に発売されたので購入したところ、尋常ならざる熱さ・濃さ・しつっこさに魅了された。これまでムハール・リチャード・エイブラムス、ダリウス・ジョーンズ、メアリー・ハルヴァーソンらと共演。低く伸びる声で淡々と歌うかと思えば、リンダ・シャーロックやオノ・ヨーコ風のスクリームも披露する。全4曲収録で、1曲あたりの所要時間が長い。何度も聴くと、その長さが快感になる。ウェイン・ショーターから品格を思いっきり取り去ったかのようなソプラノ・サックスの響きもすさまじい。

  • Donny McCaslin
    Beyond Now

    ドニーはキャリア20数年のベテラン。そんな彼が今、猛烈におもしろい。ハウイー・ケイシーやボビー・キーズなどロック系のサックス奏者が使いそうな細長いメタル・マウスピースを使ってビヤビヤ吹く。モダン・ジャズをやるときは、そのビヤビヤが個人的には過剰に感じられることもあったが、前作や本作での彼を聴いていると、「ついに自分の音色を最大限に生かす場所をみつけたのではないか」と感銘がこみあげる。タイトル曲の勇ましさを、何と表現しよう。ぼくの鼓動は高まり、いますぐに部屋を飛び出し全力でダッシュしたくなる。曲単位でいえば、この3曲目こそ2016年度最高のジャズ・ナンバーだ。