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Interview with ジェイコブ・コリアー 「全部ひとりでやってみた」でグラミー2部門受賞!
子供部屋から世界に打って出た“若き天才”の本音
取材・文/山下 実

ジェイコブ・コリアー

INTERVIEW
INFORMATION

 楽器だらけの自室で、ひとり多重録音を繰り返し、完成した楽曲をYouTubeにアップ。すると、あっという間に話題沸騰し、かのクインシー・ジョーンズまでもがこう漏らした。
「これほどの才能に出会ったのは初めてだ。地球上でもっとも好きな若手アーティスト」
 ロンドンの子供部屋から“世界の桧舞台”に飛び出したジェイコブ・コリアーは現在23歳。デビューアルバム『イン・マイ・ルーム』(2016)を経て、ついに2017年、グラミー2部門を受賞。いまや、ハービー・ハンコックをはじめチック・コリアやパット・メセニーなど、ジャズ界の名匠たちも賞嘆する、若き偉才である。
 この秋に来日した彼は、やはりライブやテレビ、ラジオ出演などで大忙し。ようやく取れたインタビューで語ったのは、意外な本音だった。

——さっきまでラジオに出演していたそうですが、どうでした?

「楽しかった! 自分が書いた曲を聴きながら、それをどうやって作ったのか? とか、子供の頃の話とか」

——5年ほど前に「天才現る!」みたいな感じで話題になって、その後、クインシー・ジョーンズのレーベルと契約。特に、今年2月の“グラミー2部門獲得”後は、急に忙しくなったのでは?

「うん。いろんな国に行く機会も増えて、すごく楽しいよ」

——こうやってインタビューを受ける機会も増えたと思うけど、いつも同じ質問ばかりでウンザリすることはない?

「じつは、さっきネガティブ・ハーモニー(注1)に関する質問をされて『ああ、またその話か…』ってなった(笑)」

注1:スイスの作曲家エルンスト・レヴィが提唱した話声理論。ジェイコブ・コリアーのYouTube動画で近年にわかに脚光を浴びる。


●「ネガティブ・ハーモニー」について語るジェイコブ

——あはは。じつはその話も聞きたかったんだけど…時間がないので、またの機会にします。

「でも、質問に答えるのは全然苦痛じゃないんだ。こうやって話をするのは、音楽を作る脳とは違う脳を使う行為だし、自分としてはすごく楽しいんだよ。知らない人と出会って、話をするのは刺激的なことだし」

——じゃ、最近出会った人で、いちばん刺激的だったのは誰?

「スティービー・ワンダーだね」

——ここだけの話、スティービー・ワンダーと一緒に、何かプロジェクトを起こす計画はある? 

「これまでに3回くらい会っているんだけど、そのたびに『一緒に何か作れたらいいね』って話はしていて、もし実現したら本当に素晴らしいことになると思うよ」

——ちなみに、あなたが注目されるきっかけになった曲のひとつに、スティービー楽曲のカバーがありました。あの曲はスティービー本人も聴いたのかな?

「聴いてくれてた。会ったときに褒めてもらえて、すごく幸せだった」

——曲について具体的な話はしましたか?

「彼と最初に会ったのはLAだった。同じイベントでプレーしていて、彼に会うために舞台裏で待ってたんだよね。で、やっと会えて、自己紹介して『会いたかったんです!』って言ったんだ。すると彼は『きみは私の曲をカバーした子だな』って。そのときの会話はそれだけだったけどさ、感激しちゃった(笑)」

——まさにその曲を納めたアルバム『ピュア・イマジネーション ~ヒット・カヴァーズ・コレクション~』が、今回リリースされました。

「このアルバムに入ってる曲は、5年前くらいに作り始めたもので、スティービー・ワンダーやマイケル・ジャクソン、あと、古いジャズのカバーだったり、僕が子どもの頃から好きだった曲をアレンジして作り上げた。当時は自分の部屋でコツコツやりながらYouTubeにアップしてたんだけど、まさにその頃の曲が、このアルバムに収録されてます」

——当時、あらゆる楽器とボーカルセクションを「全部ひとりでやった」という点でも大きな話題になりましたが、演奏していて最も自分らしさを発揮できる楽器は何?

「うわ!それは難しい質問だな。たとえば、ドラムって本当に楽しくて、なんかもうスポーツみたいな面白さがある。ピアノでハーモニーを奏でるのは絵を描くような楽しさがあるし、ベースにもギターにも、それぞれ違った楽しさがあるから…」

——ボーカルもね。

「そう! 自分にとっては、声こそががすべてを実現することができるものだと思うし、すごく大事。いちばん気に入っている要素かもな…、いや、やっぱ選べないや(笑)」

——声楽の訓練は受けていた?

「8歳から12歳まで、クラシックのボイストレーニングを受けてました。呼吸や発声の方法とか。専門的なトレーニングを受けたのはボイスだけ。あとはすべて独学です」

——遊びながら体得した感じ? 

「子供の頃から、ロックとかパンクとかソウル、ゴスペルとか…あらゆる音楽に囲まれていたので、それをスポンジのように吸い込みながら、さまざまなフレーズをいろんな楽器で弾いていた。たとえば、あるピアニストのメロディーを聴いて、いいなと思ったら、それを自分でどうにかやってみる。で、それをレコーディングするっていうのが自分の楽器の学び方。レコーディングすることによってパフォーマンスの仕方も学んだ」

——そういう録音を積み重ねて、ひとつの音楽を作り上げ、結果的に世間に認められた。しかし、そうした作業は、かなりの根気が必要だと思います。これを達成するには、何か強い動機があったと思うんだけど。

「いや、単純に楽しいから、できたことだと思う。自分が子供の頃からずっと過ごしてきた部屋で、楽器に囲まれて、今でもそこで音楽を作るのが好きなんだ。『きみのアルバムをプロデュースしたい』っていうオファーもあったりするけど、この自分の制作空間や手法は壊したくないし、子供の頃からの遊び場で、あの頃の気持ちを忘れずに堂々と作るってことが、自分に喜びをもたらしてくれるし、生きている実感を得られるんだ」

——音楽以外で「生きてる実感」を得ることはある?

「本を読んだり、物語を書いたりするのが好き。あと、バドミントンね」

——バドミントン? 本格的にやってたの? 

「さあ、どうだろう。いまでも妹たちと実家の庭でよくやってるんだ。少なくとも、あなたに勝つ自信はあるね(笑)」

——あははは。じゃ、バドミントンのラリーやステップが、あなたの音楽に影響を与えることもあるかも?

「ある。あらゆるものにアイディアやヒントがあるんだ。たとえば、僕は自分の身の回りの音をボイスメモに録っておくのが好きで、それを音楽に反映させることも多い。デビューアルバムに入ってる曲で、船着き場で聞こえた音を落とし込んだりとか、このアルバムだと“大学の講義が終わったときに皆が一斉に本を閉じる音”を使ってみたりとかね。そういうチャレンジを反映できるのが“音楽の面白さ”であり、魅力だと思う」

——ならば聞きますが、あなたが考える「良い音楽」の定義は?

「うーん…。人の感情をストレッチさせるもの、かな。もちろん、それは音楽に限らずフィルムも絵画も彫刻も、すべてそう。自分がこれまでに感じたことのないような『感情』が湧きだすもの、自分の新たな感覚を呼び起こすもの、知覚を拡張してくれるもの。それが、僕が考える『優れた音楽やアート』の定義」

——そういう音楽を作るために、いまあなたがやるべきことは何だと思う?

「自分自身が、新しいフィーリングを体験することだと思う」

——その点に関して、あなたは貪欲ですよね。ポップミュージックだけでなく、少数民族の音楽や、さまざまな音楽理論の研究にも余念がない。

「それはね、好奇心も大きいんだ。たとえば最近発見したんだけど、モロッコのグナワっていう音楽。あと、ボリビアのワイニョていう音楽。体験したことのないグルーヴが、そこにはあった。僕にとっては、まさに新しいフィーリング。うまく言えないけど……いわゆる西洋音楽とは“回り方”が違うんだ」

——回り方とは?

「ビートの回り方。真球のボールが回ってるんじゃなくて、タマゴが回っているような…普通の球体じゃないものがゴロゴロ転がる感じ。それによって体の動かし方とか、面白いステップが生まれていて、すごい面白みを感じたよ」

——日本の伝統音楽にも、いろんなヒントがあるかも。

「だよね! ぜひ研究したい。さっき例に挙げた音楽は、リズムの面白さが際立っているけど、日本やインド、中国、モンゴルの音楽は、ハーモニーの面ですごく面白い。なかでも、日本の伝統音楽はスケールが他と全然ちがうからね」

——日本の伝統音楽が、いつの日かあなたの楽曲に反映されることを楽しみにしていますよ。あと、いつの日か、バドミントンで勝負しましょうね。

「ああ、いいよ。僕が勝つけどね(笑)」


JACOB COLLIER
『Pure Imagination -the hit covers collection-』

http://p-vine.jp/music/pcd-22404