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Interview with エチエンヌ・コマール 『永遠のジャンゴ』監督が語る
「ジャンゴ・ラインハルトの隠された横顔」
取材・文/村尾泰郎
撮影/則常智宏

エチエンヌ・コマール

INTERVIEW
INFORMATION

 ジプシー音楽とジャズを融合させた伝説的ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト。1940年代、ヨーロッパで絶大な人気を得た彼には、知られざる葛藤の日々があった。ナチス占領下のフランスを舞台にした映画『永遠のジャンゴ』は、ジャンゴの秘められた横顔を明らかにする。

 本作でジャンゴを演じたのは、『預言者』『黒いスーツの男』などで注目を集めて『セロ・ダーク・サーティ』でハリウッドに進出したフランスの俳優、レダ・カテブ。

 現実と創作の間で揺れ動くミュージシャン。そして、物語を彩る音楽など、音楽好きにはひときわ興味深い物語だが、監督を務めたエチエンヌ・コマールはジャンゴの苦悩に何を見たのか。



——今回、どんなきっかけで、ジャンゴ・ラインハルトを題材に選んだのでしょうか?

「第二次世界大戦中、ヨーロッパではスウィング・ジャズはすごくポピュラーな音楽だったにも関わらず、ナチスはまったく評価していなかった。ジャズをアフリカ系アメリカ人の音楽だと捉えていたからね。でも、若い世代のドイツ人はスウィング・ジャズが大好きだったから、ナチスは完全に排除することはできずに条件をつけて演奏することを許していたんだ」

——スウィング・ボーイ(注1)と呼ばれる、ジャズ好きの若者たちがムーブメントを起こしていたようですね。

「そう、でも、ルールを設けて演奏するなんてジャズの自由な精神に反することだよね。そんな矛盾した状況の真っ只中に、ジャンゴはいたんだ。しかも彼はジプシー出身で、ジプシーはナチスに弾圧されていた。ジャンゴは有名人でありながら、迫害の対象でもあるという矛盾も抱えていたんだ。そんななかで、ジャンゴは自分が愛する音楽とどんな風に向き合ったのか? そこを描きたかったんだ」

注1:ナチス時代のドイツ主要都市で登場した「Swing-Jugend」と呼ばれるユース・カルチャー。ジャズとダンスを愛好する中産階級の若者を中心に勃興し、彼らの多くがナチス政権に批判的(あるいは無関心)な立場をとった。


——レダ・カテブがジャンゴを演じるにあたって、どんな指示や提案をしたんですか? 

「まず、音楽から入ってくれるように頼んだ。ジャンゴの曲のレパートリーや奏法を全部知っているコーチを彼につけて、1年間ギターに慣れ親しんでもらったんだ。ジャンゴはギター1本で、メランコリー、哀しみ、喜び、幸せ、そういうものを表現するからね。そして、クランクインの1~2か月前になってから、ようやく『ジャンゴに関する資料を読んでもいい』と彼に言ったんだ」


 
——そこにはどんな狙いがあった?

「私は役者が撮影前に役を作りこんでくるやり方は好きではなくて、現場では初々しさを出して欲しいと思っているんだ。レダはそのやり方に賛成してくれたよ」

——作中の演奏シーンを、ジャンゴの後継者ともいわれているストーケロ・ローゼンバーグが率いるローゼンバーグ・トリオが担当しています。彼らとはどんなふうに作業を進めていったのでしょうか。

「まず、私が映画用のために選曲したジャンゴの曲を彼らにレコーディングしてもらった。そこで重要だったのは、今でこそ私たちはジャンゴの音楽をヴィンテージなものとして聴いているけれど、当時の観客はリアルタイムでフレッシュな音楽として、しかも生で聴いていたということ。そういったライヴ感が伝わるような演奏にしてもらったんだ。そして、撮影の時は本物のミュージシャンに出演してもらって、ローゼンバーグ・トリオが録音した音楽にあわせて弾いてもらった。野営キャンプで歌っているジプシーも本物のミュージシャンを使ったんだ。だからこそ、音楽のシーンにリアリティが生まれて観客は映画に入り込むことができるんだ」



——映画のラストにはジャンゴが作曲した交響曲「レクイエム」が演奏されます。ジャンゴの知られざる一面にフォーカスしていて印象的でした。

「ジャンゴは自分のことを単なるジャズ・ギタリストとは思っていなくて、真の意味で〈ミュージシャン〉だと考えていた。だから彼はいつか交響楽を書いてみたいと思っていたんだ。また戦時中、ジャンゴは自分のことしか考えていなかったというネガティヴな評価もあるが、彼は戦争で命を落とした同胞たちのために『レクイエム』を作曲した。彼にはそういう一面もあったんだ。残念ながら、その楽譜は失われてしまったけどね」

——サントラを担当したウォーレン・エリスが、『レクイエム』を想像力豊かに再現していますね。彼はロック出身のミュージシャンですが、なぜ彼に依頼したのですか?

「私はエリスの音楽、特に彼がニック・ケイヴと一緒にやっていた頃の作品がすごく好きだった。『レクイエム』はジャンゴが初めて書いた交響楽だった。彼は楽譜を書けなかったから、必然的に彼の書く交響楽には完璧ではない部分が出てくる。そういう点で、これまで交響楽を書いたことのない作曲家に頼むのがいいんじゃないかなと思ったんだ」



——なるほど、エリス自身にジャンゴの姿を見た、と。

「そう、エリスはロック出身だから、ジャンゴと同じ立ち位置にいるようなものだからね。『レクイエム』は楽譜の一部が残っていて、それはオルガンの最初の和音だった。だからエリスには『きみのインスピレーションで作曲していいけど、オルガンとストリングスとコーラスのパートがあるということは念頭において作ってくれ』と頼んだんだ」

——結果、素晴らしい曲に仕上がりました。

「ひょっとすると、ジャンゴが実際に書いた『レクイエム』は、エリスが書いたものより混沌していたかもしれない。じつは、この曲をジャンゴの孫であるダヴィド・ラインハルトに聴いてもらったんだ。すると彼は『ジャンゴの雰囲気がこの曲にすごくある』と認めてくれた。彼はこの映画の準備段階で、ジャンゴに関するさまざまなエピソードを教えてくれたんだ。だからこそ、『レクイエム』についてやスイスへの亡命のことなど、あまり知られていない時期のエピソードを映画に盛り込むことができたんだ。ジャンゴの音楽は軽やかで陽気だと思われているが、じつはシリアスでディープな部分もあった。今回、そういった彼の隠れた横顔を映画で見せることが、私にとって重要だったんだ」




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http://arban-mag.com/music_detail/133


『永遠のジャンゴ』
http://www.eien-django.com/
11/25(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督/脚本:エチエンヌ・コマール(『チャップリンからの贈り物』『大統領の料理人』脚本)
音楽:ローゼンバーグ・トリオ
出演:レダ・カテブ(『預言者』『ゼロ・ダーク・サーティ』)、セシル・ドゥ・フランス(『ヒア アフター』『少年と自転車』)

2017年/フランス/シネマスコープ/117分/原題:Django/字幕翻訳:星加久実/協力:ユニフランス/配給:ブロードメディア・スタジオ 
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