Arban

Arban

Interview with 沖野修也×菊地成孔 立場は逆。でも同じ場所に立っている?
出演者ふたりが考える「東京JAZZ」
取材・文:田中公一朗
写真:大森えりこ

沖野修也×菊地成孔

INTERVIEW
INFORMATION

2015年4月、モダン・ジャズに正面から向き合ったアルバム『MISSION』をリリースしたDJの沖野修也と、そのアルバムに参加したサックス奏者の菊地成孔。9月4日(金)から9月6日(日)に東京・丸の内で開催されるジャズ・フェスティバル「第14回 東京JAZZ」で三度目の共演を果たす。DJとして、ミュージシャンとして、それぞれの視点をもつ両者に「東京JAZZ」に関することや、現在の日本のジャズ・シーンについて話を聞いた。
 
 
――まず、沖野さんは「東京JAZZ」に出演されるのは初めてだと思いますが、心境はいかがでしょうか?
沖野:僕自身、「Tokyo Crossover/Jazz Festival」というクラブ・ジャズとクロスオーバー・ミュージックの祭典を10年やってきたわけですが、「東京JAZZ」というオーセンティックなジャズを軸としたフェスティバルに出演することは感慨深いものがあります。KYOTO JAZZ SEXTETの結成で本格的なジャズにアプローチを試みたものの、僕の狙いが受け入れられるかどうかは未知数でしたからね。そういう意味では光栄ですし、耳の肥えたオーディエンスの皆さんを前に彼らを満足させる演奏ができるのかどうかという点で非常にプレッシャーを感じています。同時にDJにしかない発想で彼らを驚かせたいという気持ちもあります。
――また、「東京JAZZ」に対してどのようなイメージをお持ちですか?
沖野:レジェンドたちが集う本格派のジャズ・フェスティバル。出演できることが栄誉であり、世界のトップ・クラスと同じ舞台で演奏できるというまたとない機会です。会場の規模もとても大きいですし、実質的に日本でNo.1のジャズ・フェティバルですよね。
――菊地さんは、「東京JAZZ」へ過去に出演されていますが、どのようなイメージをお持ちですか?
80年代のジャズ・フェスティバルには、今でいうフジロックやサマソニが担っている側面がありました。私がやるようなストレートではないメインストリーム・ジャズは、こうしたフェスにも出演できるし、してきました。しかし「東京JAZZ」は、ジャズ・ミュージシャンとしてのホーム感に、会場もシチュエーションも忘れて演奏に没頭してしまいます。また、コンテンツの豪華さからも日本で最高級のジャズ・フェスティバルとして認識しています。
――沖野さんと菊地さんの関係に関してですが、お互いどのように思っていますか?
菊地:僕は、ジャズ・カルチャーのなかでクラブ・ミュージックにも興味があって、ラッパーでもあり、自分でも曲を作っている少数派です。また、沖野さんのようにDJでもあり、ハード・バップのバンドを率いるというのは、たぶん世界的に誰もいないでしょう。そういう意味で、「立場が逆という意味で同じ」ということはありますね。
沖野:僕は菊地さんの音楽はもちろん、文章を含めてファンですから。
――お二人は、現在の日本のジャズ・シーンをどのように感じていますか?
菊地:ロバート・グラスパー『Black Radio』のヒット以降は、景気いいです!
沖野:渋谷のタワーレコードに行ったのですが、ジャズのプッシュすごいですよ。DJをやって25年になりますが、ジャズがこれほど受け入れられているのは初めてです。アシッド・ジャズとかクラブ・ジャズではなくて、ロバート・グラスパー以降のジャズは、ほんとうに受け入れられていると思います。



――そのなかで、菊地さんは、KYOTO JAZZ SEXTETのアルバム『MISSION』のコンセプトをどう受け取られたんですか?
菊地:DJカルチャーの肝としてのマッシュアップとサンプリングを生バンドでやるんだと。これは、よほどうまくプレゼンテーションしないと、リテラシーが低い人が聴いたらただのアレンジ違いに聴こえると思いました。マッシュアップやサンプリングは、音楽を物質化したものなので、わかりやすいし訴求力もある。でもそれを「生」でやると意味が伝わりにくい面はある。マニアックな人は聴けばわかるけど。
沖野:元来くっついていないものをくっつけているので、音楽的な整合性は取っていますが、どうしても隙間ができるんです。だからこそ、そこに原曲にはないものが生まれます。それを良しととるか、違和感ととるかは、人によるでしょうけれど。
――マッシュアップやサンプリングでジャズを物質化させたとしたら、沖野さんも一人でもできると思うんですよ。
沖野:そうすると、コミュニケーションがないんです……。
――でも、その機械によってできた音楽がかっこいいわけですよね?
沖野:その快感、打ち込まれた音楽にしかないグルーヴ感はたしかに心地いいです。でも生バンドにしかないグルーヴもまた気持ちいいですよね。この2つは比較できない。まったく別物です。
菊地:単純なことで、クラブ・ミュージックの帰結として、「生バンドもやってみたい」と打ち込みしている側は思うわけですよね。やったらどうなるだろうと。フライング・ロータスやスクエアプッシャーがそうなように。その考え方を反転させれば、ジャズ・ミュージシャンとしては、打ち込みをしてみたくなるということです。問題は、いつそれをどういう形でやるのかということですね。いまはロバート・グラスパー以降の時代。それはジャズ側がクラブ・ジャズに憧れて作ったという面があるんじゃないかな。打ち込みをやっているような感じで、生楽器がそれを凌駕してゆくのが『Black Radio』以降の肝ですよね。あとは「アメリカがジャズの本場なんだ」というヒエラルキーを回復する動きともとらえられると思う。ネットによって、世界が均等化してしまったので。フュージョンは、ジャズが売れなくなったころに出てきた。アシッド・ジャズやクラブ・ジャズは、フュージョンが売れなくなったときに売れた。そしてクラブ・ジャズが衰退してきたころに、生演奏側からフュージョン・リバイバルがきているということだと思います。いまは「今ジャズ」の時代だけど、その特異点は「日本のグラスパー」「日本のクリス・デイヴ」「日本のヴィジェイ・アイヤー」が出てきてないというのが特徴でしょう。少数ですが、いることはいるけれど。そこはフュージョンのときとは違う。
――日本のミュージシャンは技能はあると思いますが、なぜでしょうか?
菊地:細かい話になるけれど、『Black Radio』は、スタジオ・テクノロジーの面が大きいんです。ドラムの録り音とか。フュージョンは、必ずドラムの録り音が変わったときに起きるんです。スティーヴ・ガッドが出てきたときに、みなリズム・ボックスだと思った。クリス・デイヴは打ち込みだと思ったけどなんと生だった。そのショックがフュージョンなんです。それができる日本人ミュージシャンは少数で。ちなみにクラブ・ジャズのときは、コンピュータからリズムが出てました。そして沖野さんがやっているのは、1960年代の新主流派のジャズを演奏して、そこにDJカルチャーの肝であるところのマッシュアップ、サンプリングをしているということが面白いんですよ。
――面白いですよね、ほんとに。
沖野:でも、なかなか伝わらないんですよ。生だからわかりにくい。
菊地:ジャズはカバーする文化だから、伝わりにくいとは思う。
沖野:「Speak No Evil」を演奏するときに、ベースラインは「Footprints」なんです。で、曲を「Footprints」で終える。すると「あれっ?」ってなるでしょう。そこまですればわかると思うんですが。そこからは僕のジャッジで演奏を決めることになりますね。



――「東京JAZZ」のメンバーですが、ツインドラムですね。
沖野:石若駿という若手とリチャード・スペイヴン。石若君は小泉克人さんの熱烈な紹介です。リチャードは個人的に以前から知ってました。それこそフライング・ロータスで叩いているので、まさに「今ジャズ」系の人なのでぜひ、と。サックスも2本になります。2管にするかどうかは、いま考えています。
――セットリストは『MISSION』からですか?
沖野:そうです。でも50分で8曲はできません。1曲がかなり長いので。ただそのなかに、サンプリングとマッシュアップをいままで以上にはっきり出したい、そういう曲を選びたいですね。
――ちなみに、今年はハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターの2人も来ます。
沖野:その2人の曲は外せません。
――共演の可能性もあるんじゃないですか?
沖野:(プロデューサーに向かって)お願いします!(笑)
――では、最後にお二人が注目しているプログラムを教えてください。
菊地:「日野さんのグループで大西順子氏が復帰」につきるでしょう。私は彼女の復帰後のアルバムをプロデュースしますし、当日の演奏も観に行きます。
沖野:エスペランサ・スポルディング。新プロジェクトでの彼女のライブは、演劇風とだけしか聞いていないんですが興味津々です。彼女のプログラムは僕らの後なので、ストイックな演奏で音楽面での実験を試みるKYOTO JAZZ SEXTETと面白い対比になるのではないでしょうか。果たして彼女の試みはジャズの可能性をどう拡張しているのか? エンターテインメントとしての音楽をどんな方向に持って行くのか? と興味はつきません。そのうえで彼女の演奏がどう活かされているのかを注視したいと思います。
 
沖野が指揮をとり菊地が参加するKYOTO JAZZ SEXTETの音楽は、オーセンティックなジャズをマッシュアップとサンプリングを用いてアレンジするかというところが核となっている。アルバム『MISSION』に収録されている、オリジナル楽曲を事前に聴いておくと、彼らの演奏をもっと楽しめることだろう。なお、KYOTO JAZZ SEXTETの出演は9月5日(土)の17:30(夜の部)から東京国際フォーラム ホールAとなっている。
 
■東京JAZZ
http://www.tokyo-jazz.com/

LATEST
ARTICLE

ジョイス・モレーノ
INTERVIEW2017.10.17

ジョイス・モレーノ

ボサノヴァを体現する女性シンガーソングライター、ジョイス。毎年この時期に来日する彼女は、日本人にとって最も馴染みのあるブラジル人音楽家である。2017年9月に行われた来日公演(コットンクラブとブルーノート)、そしてブラジルを代表する作曲家ドリヴァル・カイミを取り上げた最新作『Fiz Uma Viagem ある旅をした』について話を聞いた。

VIEW MORE