投稿日 : 2015.11.12 更新日 : 2019.02.22

【モッキー】マルチな才能を育んだ「制約」と「出会い」 モッキーが旅を続けた理由

取材/松浦俊夫 編集/Arban編集部 写真/青木勇策

モッキー

ベースとドラムを主軸に、ピアノ、フルートの演奏や、ボーカル、ラップまでをこなし、マルチな才能をみせるカナダ出身のアーティスト、モッキー。ロンドン、アムステルダム、ベルリン、そして現在はロサンゼルスで音楽活動を続けている。今年は6月に6年ぶりのアルバム『Key Change』をリリースし、待望の初来日ツアー「Mocky Japan Tour」を行った。ツアー初日、「モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン 2015」のライブ前に、バンドメンバーのニア・アンドリューズ、ジョーイ・ドシクも交え話を聞いた。

——最新アルバム『Key Change』は、前作『Saskamodie』(2009年)から6年ぶりのアルバムになりますが、どのような6年間だったのでしょうか?

モッキー アルバムを作る時は、いろいろな経験をしてそれらすべてをレコーディングに捧げるんだ。今回の場合は、ベルリンからロサンゼルスに引っ越して、息子が生まれたことが大きい。ロサンゼルスでは、素晴らしいアーティストにもたくさん出会えたよ。Mocky Japan Tourで同行してくれるニア・アンドリューズ、ジョーイ・ドシクともロサンゼルスで出会ったんだ。生きて経験してこそ、音楽で何かを語ることができるんだ。まさにジャーニーだよね。

——これまでの作品も含めて、ずっと“旅”が作品の根底にある気がします。

モッキー そうだね、旅は僕にとって、家のような“帰る場所”を探すためのプロセスでもあるんだ。僕がまだ赤ん坊だった時に家族でカナダに引っ越して、その後はロンドン、アムステルダム、ベルリン、ロサンゼルスと、いろいろな場所に移り住んできた。今、このアルバムを完成させたことで、初めて気がついたことがあるんだ。それは、僕は生まれてからずっと“家”を探し求めているということ。“家”というのは、ミュージシャンのコミュニティーであり、どこに住もうと僕にはそれを見つける必要があるんだよ。

——フルアルバムとしては今作で5枚になりますが、アルバムごとに制作地は違いますか?
モッキー ファーストアルバムの『In Mesopotamia』(2001年)はロンドンと少しだけアムステルダムで収録した。常に旅をしていてキーボードケースで寝て、旅人みたいな生活をしていた頃だね。そのあとの3作はベルリンとパリが拠点だったな。

——あなたは、ロンドン、アムステルダム、ベルリン、ロサンゼルスという音楽都市にいつもいます。しかも音楽のムーブメントと一緒に動いているようにもみえますが、いかがですか?

モッキー たぶん偶然だね。注目が集まる都市を追っていたわけではないよ。友達のピーチズとチリー・ゴンザレスとツアーをしていて、5、6年前に仕事でロサンゼルスに来た時、「何かが変わった」と、はっきり感じたよ。アンダーグラウンドミュージックシーンがとにかく盛り上がってた。世界的に知られているロサンゼルスのミュージックシーンは、ハリウッドとかメジャーレーベルとか、ごく一部だったんだ。かなりのミュージックファンじゃないと、レーベルのStones Throwとか、ダイレイテッド・ピープルズみたいなアーティストを知らなかった。ベルリンでエレクトロニック・ミュージックが栄えていた時、僕も含めてベルリンで活動していたアーティストはたくさんいたはずだよ。シーン自体が世界から注目されていたから、ローカルを突き抜けて世界に向けて音楽を発信することができたんだ。今、ロサンゼルスで同じ現象が起こりつつある。ロサンゼルスのインディペンデントシーンが世界的に注目されているから、メジャーレーベルと契約していないアーティストでも、ロサンゼルスでリリースすれば世界のオーディエンスに聴いてもらうことができるんだよ。ボン・イベールというアーティストは、8年前にウィスコンシン州で3か月も車で生活しながら、素晴らしいアルバムを完成させたんだ。現在のロサンゼルスのシーンでは考えられないけど、当時はそんなすごいことをやってのけるアーティストがいた。そんなシーンだったんだ。結果としてそういった素晴らしい作品は、ロサンゼルスのローカルシーンを突き抜けて世界で評価されたけどね。

10月1日(木)に開催された「モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン 2015」でのライブ模様

——今までの作品を聴きかえすと、どんどん洗練されてきているように思いました。

モッキー エレクトロニック・ミュージックをやっていた時は、とにかく物が無かったんだ。キーボードケースで寝てたくらいだし、サンプラーとマイクしか持っていなかった。あえてシンプルにしていたわけじゃなく、物理的な制限があったんだよ。でも制限があることによって、よりクリエイティブになれることもある。その時期は、実験音楽っぽいこともしていたよ。今、EDMが世界的なブームになっているけど、以前はヨーロッパのローカルなシーンで楽しまれていたジャンルだったんだ。EDMの前身にあたるジャンルなんだけど、僕は個人的にこれをPre-DM(プリ・ディーエム)と呼んでる。僕はミュージシャンとしてすごくそのシーンが好きだった。“音楽なんてクソくらえ”みたいな、パンクロック精神がそこにはあったんだよ。しばらくしてたくさんの人がエレクトロニック・ミュージックをやるようになった。僕はそれからも曲を書きアレンジを続けて、ようやくアコースティックなアルバムを作ることができた。僕にとってこういった音楽を作るほうが自然に感じるから、たどり着けて嬉しいよ。シンプルかはわからないけど、自分にとって『Key Change』は、自然な作品になったと思うよ。

——音楽を始めたきっかけは何ですか?

モッキー 小さい頃によくミュージックビデオを見ていたんだけど、コマーシャルの間に兄が持っていたドラムセットでビートを練習したのがきっかけだよ。

——ご自身でいろいろな楽器を演奏されるのは何故ですか?

モッキー 自分で演奏することが僕の音楽に対するコンセプトの一部なんだ。そうすることで自分だけの音を作れるからね。もともとラップトップですべての楽器の音を作っていたから、生演奏の作品であっても自分で演奏することは自然な流れなんだ。でもロサンゼルスに行った時、ここにいるニア・アンドリューズ、ジョーイ・ドシクに出会ったんだ。ジョーイは、『Key Change』のほとんどの曲をキーボードで弾いていて、ニアは歌ってくれている。最初はすべてのパートを自分で演奏するんだけど、その後にジョーイにピアノを、ニアにボーカルを担当してもらって曲を上書きしていく。この2人とは強い信頼関係があって、来年リリースする予定の2人の新しい楽曲にも僕が参加しているよ。ロサンゼルスでは、いろいろなミュージシャンと良い音楽コミュニティーが築けているんだ。

——ニアとジョーイは、モッキーとのセッションをどのように感じていますか?

ニア 一緒に曲を作るということは、誰とでもできることじゃないと思うの。でもモッキーと私は一緒に作業していて全然苦じゃない。彼が演奏して私が歌ってみて、自然なかたちで曲が生まれていくのよ。一緒に作ることで相乗効果があるわ。あと、音の聴こえ方が同じだから、私がたどり着きたいと思う場所にちゃんと着地してくれる。他のミュージシャンとだったらどんな音にしたいかを伝えるのにすごく時間がかかるの。

ジョーイ モッキーと出会ったことで自分一人ではたどり着けなかった場所に連れて行ってくれたんだよね。とても良い関係を築いているからお互いに話す言葉の意味がよく理解できるし、そういったことが積み重なっていい作品が生まれていると思う。

モッキー このメンバーで楽曲を作る時、僕はアーティストなんだ。デスクに座って「ニア、演奏して。何か違うな、もう一回だ」なんて指示するようなプロデューサーじゃない。デリケートなアーティストなんだよ。長年アーティストとしてやってきて、ステージ上で演奏するっていうことがどういうことなのかよく理解している。だから自分のやり方を人に押し付けるようなことはしないんだ。その人が頭の中でどんなことをしたいと思っているのかを見極めて、それを引き出すんだよ。プロデューサーには自分の思い通りにしたがる人が多いと思うけど、僕は僕自身がアーティストでもあるから、メンバーがどういう過程を経て今どう感じているかを理解することができる。だからプロデューサーにならないようにしているんだ。僕たちはそうやって音楽を作ってるんだよ。

——作品のなかで象徴的なのが、口笛を使っている曲が多いということが挙げられますが、その理由は何ですか?

モッキー キャッチーなサウンドだから使ってる。たぶん僕がベースやドラム、ピアノみたいなリズム隊をメインにやるから、どこかのタイミングでメロディーが必要になる。ちょっとは歌えるし、フルートも吹けるけど。よくフルート、口笛、オルガンを重ねて使うよ。この3つが重なった音がすごく好きだから。

——最後にあなたの人生を大きく変えるきっかけになった曲を1つ挙げてください。

モッキー 難題だなあ……。スティーヴィー・ワンダーの初期のアルバム『Fulfillingness’ First Finale』(1974年)なんだけど、どの曲にしようかな。子どもの頃に、このアルバムを毎日演奏してたんだ。名曲ばかりで選べないけど「Boogie on Reggae Woman」かな……。でも1曲は無理だよ。だから、マイルス・デイビスの『’Round About Midnight』(1956年)に収録されている「Bye Bye Blackbird」も追加で(笑)。

– リリース情報 –

タイトル:Key Change
アーティスト:Mocky
レーベル:Heavy Sheet/Wind Bell
発売日:2015年6月22日(月)

■Wind Bell
http://windbelljournal.blogspot.jp/2015/08/mocky-japan-tour-2015.html

トラックリスト

1. Upbeat Thing
2. When Paulie Gets Mad
3. Soulful Beat
4. Weather Any Storm
5. Whistlin
6. Living In The Snow
7. Late Night Interlude
8. Time Inflation (Message to R2)
9. Tomorrow Maker
10. Soulful Beat Reprise
11. Head In The Clouds
12. Hymme (For Murka)
Bonus Tracks for Japanese edition
13. Closer to the edge
14. The Touch