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Interview with 小曽根真 2台のピアノはどんな邂逅を果たすのか?
チック・コリアと交わした20年越しの「約束」
取材・文:熊谷美広
写真:難波里美

小曽根真

INTERVIEW
INFORMATION

 日本のみならず、世界を股にかけて活躍しているピアニストの小曽根真が、ジャズ・ピアノのレジェンドともいうべきチック・コリアと、デュオ・ツアーを行う。アコースティック・ピアノ2台だけで繰り広げられる二人の会話は、他にはない、超上質で特別な音楽の体験を提供してくれることだろう。まさにピアノを極めた二人による、スピリチュアルな体験だ。そこで小曽根真に今回のコンサートのいきさつや、意気込みを聞いた。
 
 
――5月に、チック・コリアとのアコースティック・ピアノ・デュオでのツアーが予定されていますが、そもそもこのデュオ・ツアーをやることになった経緯は?
じつは20年越しの計画なんです。1996年にチックと二人でモーツァルトを弾くというイベントがあって、そのときが初共演だったんですけど、また二人で何かできるといいなという感覚は、漠然とありました。でも二人ともいろいろなプロジェクトをやっているので、なかなか時間がとれなくて、2002年にぼくが『TREASURE』というアルバムを作った時に、チックとのデュオを2曲レコーディングして、そのあと二人で食事をしながら、これは本格的にやろうよ、っていう話をしたんです。
――それが今回、ようやく実現したわけですね。
2年前にチックがソロ・ピアノのコンサートで来日したときに、3日間ぐらい連続で食事をして(笑)、そろそろ二人のプロジェクトをやらないと、時間切れになっちゃうねって話しました。2016年にNHK交響楽団が創立90周年で、モーツァルトをやりませんかという話をいただいていたので、チックも一緒にやらない? って話をしたんです。そうしたら彼が、デュオ・ツアーもそのときにやろうと言い出して、20年越しの計画がようやく実現することになりました。
――小曽根さんが初めてチック・コリアに会ったのは、いつ頃ですか?
1982年です。そのときぼくはバークリー音楽大学の学生で、学生とプロとが出演するコンサートがあって、そこにチックと、ぼくも出ることになっていたんです。ぼくが学校のホールでウォームアップしていたら、チックが入って来て、“わ、本物のチック・コリアだよ”とか思っていたら(笑)、ぼくのところに真っ直ぐ歩いてきて、「ピアノはどう?」って聞いてきたんです。でもぼくなんかがそれを言うのはおこがましいと思って、「弾いてみます?」って言ったら、チックは、「ぼくは君に、ピアノはどうかって聞いたんだよ」って。それでドキッとして、「いいピアノだと思います」って言ったら、チックは「Oh, good」って言ってピアノを弾き出して、「うん、いいピアノだ」って。けっきょく、ぼくの最初の答えは、自分がいいと思ったものを、チックにダメって言われるのが嫌だっただけなんですね。でもそれじゃないということを、チックは、初対面で、たった20秒くらいの会話で教えてくれたんです。
――衝撃の出逢いですね。
じつはそれって、アドリブをやる上でとても大事なことで、たとえばぼくが弾いたアドリブに対して、音楽的に分析して返してくる人はいっぱいいるんですけど、そうじゃなくて、その弾いたことに対して真摯に応えるというのが、最高のアドリブなんですよね。だから初対面でそれを教わったという。彼は、学生だからといって見下さないで、ピアニスト同士として会話をしてくれていたんです。
――小曽根さんは、学生時代からチック・コリアの研究などはしていたのですか?
ところが全然そうじゃなくて、デビューするまでは、オスカー・ピーターソンみたいに弾ければ良かったので、ほかのピアニストには全然興味がなかったし、チックのレコードも持っていませんでした。先生から「自分のスタイルを作れ、いろいろな音楽を聴け」って言われても、“ぼくはピーターソンみたいに弾くことが幸せだから、それでいいんです”っていう、どうしようもないヤツでした(笑)。でもデビューが決まって、自分のスタイルを作らなきゃいけないと慌てふためいていたときに、プロコフィエフ(ロシアのクラシック作曲家/ピアニスト)を聴いて、“これだ!”と思ってクラシックを聴き始めました。自分のやってきた音楽を、クラシックのハーモニーや構築の仕方でできないだろうかって試行錯誤しながら曲を書き始めた時に、ゲイリー・バートン(小曽根真のバークリー時代の恩師でもあるヴァイブ奏者。チックとのデュオでも活動している)が、「チックとこんなアルバムを作ったんだ」って、チックとゲイリーが弦楽四重奏と共演した『セクステットの為の抒情組曲』を聴かせてくれたんです。それを聴いてすごくショックを受けました。せっかく自分の道を見つけたと思ったら、オレの書いている曲よりも何百倍もいいことをやってる、って。
――そこからチックを聴き始めたわけですね。
そうです。『セクステットの為の抒情組曲』を毎日聴いて、そこからチックの作品を鬼のように聴きまくりました。ぼくは好きになるととことんいっちゃうタイプというか、同じ中華料理屋で3年間酢豚しか注文しない、みたいな(笑)。そこからデビューに至ったので、デビュー・アルバムのレビューでは、チック・コリアの影響大、クラシックの影響大って書かれていました(笑)。



――実際にチックと共演してみた感想は、いかがでしたか?
自分の小ささが見え、自分はこんなにどうでもいいことにこだわって音楽をやっていたんだ、と思い知らされました。ぼくがどんな音を弾いても、“そう来る? OK!”という答えが常に返ってくるんです。“そうじゃなくて、こうだよ”というのは一度もなくて、だから逆に、出す音に責任を持たないといけなくなるんです。どこに向かって、何の意味で弾いているのか、ということを、しっかり考えないといけないし、音楽の深さを見せてくれたのがチックでした。
――チックからは、ほんとうにいろいろなことを教わっているわけですね。
そうですね。それで、ぼくがチックをはじめとする、たくさんの偉大な音楽家たちから教えてもらったことを次の世代にも伝えなきゃと思って、国立音楽大学で教えることを始めました。学生には、生きることはすべて即興なんだから、何をやってもいい。でも即興で音を出すというのは、すごく怖いことなんだよ。自分が意図しないことをポッと口に出したら、どれだけの人が傷つくか、あるいはどれだけ人を幸せにできるかっていうことを考えたことある? って話しています。これは音楽に限らず、たとえば板前さんだったら、包丁の研ぎ方ではなくて、その先に誰がいるのか、写真家なら、観ている先に誰がいるのか、ということが大切じゃないですか。音楽も、どこに向かっているのかが重要なんです。
――二人のデュオを聴いていると、同じピアノという楽器なのに、まったく音が違うというのがすごく面白いですね。
ピアノは弾く人によって音が変わるから怖いですよ。人によって、弦が鳴る場所も違うし。ポップス系の人は、弦を叩くハンマーのあたりで鳴らすんですけど、クラシックの人は奥のほうで鳴らすんです。あとピアノという楽器は、ペダルを踏むとすべての弦が開放されるので、カーンと弾いたら、最初はその音しか鳴っていないんですけど、時間とともにほかの弦が共鳴し始めるんです。いろいろな色が唸ってきて、いいピアノであの音を聴くことほど至福の時間はないですよ。たとえばラとミの音だけを、ペダルを踏んだままカーンと弾いて、それが唸ってくる瞬間はすごく気持ち良くて、まさに宇宙に連れて行かれます。ぜひ一度ピアノで試してみてください(笑)。
――今回のツアーに合わせて、お二人の共演したトラックを集めたコンピレーション・アルバム『Chick & Makoto -Duets-』がリリースされます。
『TREASURE』を録ったときに、予定の2曲はすぐに録れて時間が余ったので、なんかやってみようって録ったのが、今回収録した4曲の「デュエット・インプロヴィゼーション」です。「お前から何か始めろ」って言われて、ぼくからなんとなく始めたのが1曲目で、次はチックから、その次はまたぼくから、そしてチックから、という形で録っていきました。ぼくとしてはすごく内容が濃くて、気に入っていたんですけど、まったくの即興だったので、ぼくの宝物として取っておいたんです。それと、ぼくのビッグ・バンドNo Name Horsesでチックの「クリスタル・サイレンス」を録っていて、それも未発表だったので、それにこれまでの二人の共演トラックを合わせたコンピレーション盤にしようと。
――ではツアーに向けての、意気込みを。
以前チックが書いた「ファンタジー -2台のピアノのための-」という曲はやりたいと思っています。それと新曲も書こうという話をしていて、あとはその場でまたどちらかが何かを弾き始めてそのまま即興で1曲、という感じになると思います。二人がピアノで会話しながらも、じつは同時進行でお客さんとも会話をしていて、それが音楽の魔法なんですけど、みなさんが頭で考えるのではなく、何かを感じていただけるような演奏をしたいと思います。言葉ではなく、エネルギー、波動レベルでみんなで共有して、そして明日からがんばるエネルギーを持って帰っていただけるようなコンサートにしたいと思います。
 
 


リリース情報
アーティスト:チック・コリア/小曽根真
タイトル:Chick & Makoto -Duets-
レーベル:Universal Music
発売日:4月20日
 
■Universal Music
http://www.universal-music.co.jp/makoto-ozone/
 
 
ツアー情報
チック・コリア&小曽根真 ピアノデュオ プレイズ・アコースティック/Japan Tour in 2016
 
5月7日(土)神奈川県・よこすか芸術劇場
5月8日(日)鹿児島県・みやまコンセール(霧島国際音楽ホール)【チック・コリア ソロ公演】
5月10日(火)岩手県・盛岡市民文化ホール
5月14日(土)東京都・NHKホール【NHK交響楽団定期演奏会】
5月15日(日)東京都・NHKホール【NHK交響楽団定期演奏会】
5月18日(水)長野県・長野市芸術館
5月19日(木)東京都・サントリーホール
5月21日(土)広島県・三原市芸術文化センター ポポロ
5月22日(日)兵庫県・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
5月25日(水)長野県・松本市音楽文化ホール ザ・ハーモニーホール【チック・コリア ソロ公演】
5月26日(木)滋賀県・滋賀・守山市民ホール
5月27日(金)愛知県・愛知県芸術劇場 コンサートホール
5月29日(日)福岡県・アクロス福岡 シンフォニーホール
5月31日(火)富山県・高岡文化ホール【チック・コリア ソロ公演】

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