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Interview with Esperanza Spalding 「演劇だと思って観てもらいたいの」
もうひとりの自分“Emily”が創出する音楽
取材・文:熊谷美広
通訳:Muramatsu Kana
写真:Holly Andres

Esperanza Spalding

INTERVIEW
INFORMATION

 2010年に、ジャズ系のミュージシャンとして初めてグラミー賞“Best New Artist”を受賞。2012年にリリースしたアルバム『Radio Music Society』も、グラミー賞“Best Jazz Vocal Album”を受賞するなど、音楽シーンから大きな注目を集めてきたエスペランサ。そんな彼女のニュー・アルバム『Emily's D + Evolution』がリリースされた。彼女がEmilyというキャラクターを演じ、ロックン・ロール、オールド・ポップス、R&B、ミュージカルなど、さまざまな音楽の要素を独自のセンスでミックスした、彼女にとっては異色作ともいうべきこのアルバムには、どのような思いが込められているのだろうか。


――あなたのニュー・プロジェクト『Emily's D + Evolution』は、どんなきっかけで始まったのでしょうか?
数年前にインスピレーションを受けたのがきっかけね。あるバンドでツアーをしてたんだけど、コンサート後の夜遅くに、あるキャラクターがふと浮かんできて、サウンドが聴こえてきたの。それがどういう意味かを知るためにもやってみようと思って、聴こえてくるサウンドでデモ作りを始めて、それがプロジェクトとして発展していって、『Emily’s D + Evolution』ができ上がったのよ。私はベース奏者で、ボーカリストで、コンポーザーで、Emilyというキャラクター。Emilyという存在のために動いているの。彼女が何者かをみんなに知ってもらうためにね。
――突然浮かんできたキャラクターとサウンドから、このプロジェクトが始まったと。
音楽が全部聴こえてきたわけじゃなくて、“可能性”が聴こえてきたという感じかしら。想像で浮かんだものを、サウンドとして組み立てようと模索した、という感じかな。パッと浮かんだというわけではなくて、実際にサウンドにするにはどうしたらいいのか、とても長い時間をかけて取り組んだわ。初めて頭に浮かんだときには、それがとてもパワフルなエネルギーに満ちていて、ほかとは違うサウンドだというのはわかったのだけど、実際にどんなサウンドかは、まだ見当がついていなかった。でも、何とかしてこのキャラクターを動かさなきゃいけないと感じたのよ。それだけは間違いないと思った。
――メガネをかけた、カラフルな衣装のキャラクターが、Emilyだということですよね。“Emily”はあなたのミドル・ネームでもあるということですが、このキャラクターは、あなたの別人格という感じなのでしょうか?
考えたわけではなくて、頭に浮かんだキャラクターはEmilyだって自然に思ったのよ。彼女の名前はEmilyだって。だから私はEmilyというキャラクターを演じてるの。私の身体を貸してあげることで、Emilyがやりたいことを経験できるためにね。

――曲作りやアルバム作りに関しては、メイン・テーマのようなものはあったのでしょうか?
それは最初から明確だったわ。夢中になってのめり込むエネルギー。大声で叫んで、自由になること。そして、これまで自分が目を背けてきたり、邪険にしてきた一面と向き合って発散すること。
――『D + Evolution』というタイトルには、どのような意味が込められているのですか?
『D + Evolution』は、“devolution=退化”と“evolution=進化”のような真逆の要素が共存したときに生まれる可能性を、Emilyの視点で表現したもの。まぁ、いろいろな意味に捉えられるから、それだけとは言えないけれど、ライブでこの“D + Evolution”を表現するのは、そういう意味ね。これは私の意思ではなくて、Emilyの世界であり、Emilyが表現すること。Emilyが何を考え、何を見て、どう感じているかが表現されているの。私はただ、彼女のためのスペースを作って、彼女の経験や、こういう世界観があるということを伝えるツールになってあげているの。俳優がそのときそのとき演じているキャラクターになりきって、私たちもその役の人だと思い込む。でも、その役を創り上げたのは、その俳優だとみんなわかっている。それと同じ感覚ね。
――アルバムは、デヴィッド・ボウイの作品などで知られているトニー・ヴィスコンティとの共同プロデュースになっていますが、彼が参加するようになったいきさつは?
デヴィッド・ボウイの『The Next Day』というアルバムが大好きで、サウンド的に、私がやりたい音と繋がっているというか、音質的に近い存在だって感じたの。とてもナチュラルで、楽器の音を感じることができる、人がちゃんと弾いているってことがわかる音。壮大なんだけど、とても繊細で濃密な音なの。それが、今回私が求めていたクオリティにピッタリだと思ったのよ。それで彼のスタジオに行って、それまでレコーディングした曲を聴いてもらって、参加をお願いしたの。実際のレコーディングには、彼はスタジオにはあまりいなかったけど、ボーカル録りのときにはいたし、ミックスは彼がほとんどやってくれたわ。音のクオリティは彼のおかげね。
――このアルバムに、彼が与えた最も大きな影響は何でしょうか?
“自信”ね。私が音楽的にやろうとしたことを、彼は変えようとはしなかった。私が音楽を聴かせると、“あぁ、わかるわかる”とか、“オレは理解できる”って、私の自信を高めてくれたの。私らしくやり続けていいんだって思わせてくれた。彼の判断や評価を信頼していたし、これでいいのよね、私はクレイジーじゃないわよね、って。私が求めていたのはチャンピオン。私以外で、今回の音を信じてくれる人であり、そしてもちろん私が信じられる人。

――昨年の「東京JAZZ」での『Emily’s D + Evolution』のパフォーマンスでは、演劇的な要素も感じました。
パフォーマンス自体を演劇だと思って観てもらいたいの。ステージ上の人たちが、ある世界の様子を音楽を通して表現しているってね。だから、演劇的要素は確実にあるわね。
――前回の日本公演では、言葉の壁もあって、歌詞が理解できなかったり、戸惑っていたファンの人たちもいたようですが、アメリカやヨーロッパでのツアーの、お客さんの反応はいかがでしたか?
すっごく嫌がった人たちもいたし、すっごく気に入ってくれた人たちもいるけど、私たちは気に入ってるわ。いちばん重要なのは、私の正直な気持ち、私の誠実さを伝えているということ。だから、ある曲が好きでなかったり、ある曲に反応できなかったり、ある曲が心に響かなかったとしても、私の誠実さだけは伝わって、その部分で繋がることはできていると思う。正直な気持ちを表現してるんだもの。それだけは保証できるし、最高のパフォーマンスだけは約束できる。過去には、最高でなくてもいいと妥協したときもあったけど、もう二度とそんなことはしない。このプロジェクトを通して決意したの。私のすべてをかけてパフォーマンスして、私が心から本物であり、美しいと信じているものを表現しようって。毎回、最高のパフォーマンスをするしか選択肢はないと思ってるわ。そして観客の人たちも、そういう要素をサポートしてくれていると思ってる。いくらファンの人でも、好きな曲と嫌いな曲があると思うし、それはどんなプロジェクトをやっても同じよね。
――あなた自身、Emilyを演じていて楽しいですか?
すっごく楽しいわ。彼女が私を通じて現れてくれたおかげで、私の人生の新たな章が始まったって気分ね。100%満足していて、誇りに思える初めてのプロジェクトよ。私もまだまだ学ばなきゃいけないことはたくさんあるけど、このプロジェクトのおかげで、安定しながらもパワフルなパフォーマーになれた気がするし、それは永遠に私の中に残っていく。これから私が何をするかはわからないけど、何をしようとも、そういうパフォーマーとしてやっていける。それって大事なことだと思うの。だからEmilyには感謝してるわ。
――この『Emily's D + Evolution』は、今後、あなたの中心的なプロジェクトのひとつになっていくのでしょうか? それとも、今回のみのスペシャル・プロジェクトなのでしょうか?
今回Emilyは、あることをやり遂げたくて来たの。それは、ひとつのドアを開けること。そしてそのドアが開いたら、彼女はここに留まる必要はない。彼女はこのプロジェクトのために現れて、このプロジェクトが成功したら、もう去って行ってもいいの。だけどそのためには、私がすべてを捧げる必要がある。そして私たちは、彼女が開けたドアを、開け続けておくこともできるのよ。
――今月末に来日公演が予定されていますが、どのようなステージになりそうですか? 
今回はEmilyのショーをやるわ。『Emily’s D + Evolution』のショーを。アルバムもそのままショーでできるように組み立てられていて、すべて演出されてるの。ただ歌を歌うだけじゃなくて、物語を聴いてもらうステージだから、逆に言葉が通じなくても、もっと感じてもらいやすくなるんじゃないかと思う。曲の世界観やアイディアを演劇的に表現するわけだから。
――ではあなたが、このアルバムで、リスナーに最も伝えたいことは何でしょうか?
そうねぇ……。自分の中から湧き上がるものを、自然に任せて湧き上がらせたとき、素晴らしいことが起こる。いや、素晴らしいことが起こるとは保証できないわね。私がそう断言しちゃいけないけど、自分の中から湧き上がるエネルギーを抑え込まず、自然に放出させてあげる必要があると思うの。そうすることで、たくさんのことを学ぶだろうし、成長する可能性や、よりクリエイティヴになれる可能性が広がると思う。そこから生まれるものによって、美しい経験がたくさんできる気がするわ。


公演情報
大阪公演
開催日:5月30日(月)
会場:UMEDA CLUB QUATTRO(大阪府大阪市 北区太融寺町8-17)
時間:開場18:00/開演19:00
料金:前売り7,000円(スタンディング/ドリンク代別)

■お問い合わせ
SMASH WEST 06-6535-5569


東京公演
開催日:5月31日(火)
会場:ZEPP DiverCity Tokyo (東京都江東区青海 1-1-10 ダイバーシティ東京プラザ)
時間:開場18:00/開演19:00
料金:前売り 7,000円(1F スタンディング、2F 指定席ともに)

■お問い合わせ
SMASH 03-3444-6751

SMASH公式サイト
http://www.smash-jpn.com/live/?id=2460


リリース情報
アーティスト:Esperanza Spalding
タイトル:Emily’s D+Evolution
レーベル:Concord Records
価格:2,700円(税込)
発売日:2016年3月4日(金)
 
■ユニバーサルミュージック公式サイト
http://www.universal-music.co.jp/esperanza-spalding/

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