Arban

Arban

Interview with GoGo Penguin 新たなコンテクストで「ジャズ」を表現
マンチェスターから来たペンギン
取材・文:原雅明
写真・古賀恒雄

GoGo Penguin

INTERVIEW
INFORMATION

 Blue Noteと契約してアルバム『Man Made Object』をリリースしたゴーゴー・ペンギンが初の来日公演をおこなった。ジャズの典型的な名前から抜け出したいと、スタジオに置いてあったペンギンの置物を見てグループ名を思い付いたという、このユニークな名前を纏ったアコースティックのみのピアノ・トリオは、まるでエレクトロニック・ミュージックのタイミング、サウンド、テクスチャーを正確にトレースするかのような演奏で、アルバム同様に新鮮な驚きを与えた。前作の『v2.0』はイギリスの権威ある音楽賞マーキュリー・プライズにノミネートを果たし、いまやジャズ以外のシーンからも大きな注目を集めている。3人のメンバー、ロブ・ターナー(ドラム)、ニック・ブラッカ(ベース)、クリス・アイリングワース(ピアノ)に、そのサウンドが生まれた背景にある地元、英マンチェスターのクロスオーヴァーしたシーンのこと、UKのクラブ・ミュージックからの影響、そしてゴーゴー・ペンギンにおけるジャズとエレクトロニック・ミュージックの関係など、さまざまな話を訊いた。


――あなたたちが登場したマンチェスターのジャズ・シーンに興味があります。まずその話から訊かせてください。
ニック・ブラッカ(以下:ニック) かなりしっかりしたシーンがあると思う。もちろん、ロンドンや東京みたいに大きな都市ではないけれど、良いプレイヤーも多い。みんな多様な音楽からいろんな要素を採って、それを自分の音楽に組み込んでいくことに抵抗がない。現在はヒップホップやエレクトロニカの要素をジャズに組み込んでいるスタイルが多いかな。もちろんストレート・アヘッドなジャズをやっている人も大勢いるよ。ちなみに、シネマティック・オーケストラのメンバーはマンチェスター出身が多かったんだよ。
――そのマンチェスターでGONDWANAレーベルを主宰し、ゴーゴー・ペンギンを世に紹介した、トランベット奏者のマシュー・ハルソールのことを教えてください。
ロブ・ターナー(以下:ロブ) マシューはほんとうに自分で道を切り開いていった人だね。マンチェスターは多くのバンドのメンバーがいろいろな組み合わせで他のバンドのメンバーともやっているんだけど、マシューは最初からやりたいビジョンをはっきり持っていて、そのビジョンの元に、多くのミュージシャンが彼のバンドに参加していた。彼は元々DJの方面に興味があったと思う。自分のレーベルをやる前も、Ninja Tuneナイトとかやっていたしね。独自の方向性でやっていた。彼と知り合ったのはどこだったか覚えていないんだけど、彼のバンドで欠員が出たときに手伝ったのがきっかけかな。お互い似た部分があって、何が好きかというところにもお互い理解があったね。彼はマンチェスターから、ああやってロンドンにコネクションを作っていって、そして花開かせていったというのは本当に素晴らしいよ。
――ゴーゴー・ペンギン結成時のコンセプトを教えてください。デビュー作『Fanfares』のときから変わらないものも感じます。
クリス・アイリングワース(以下:クリス) 1枚目のアルバムでベースを弾いていたのはニックではないんだけど、ニックがベースで加わったとき、最後のピースがはまった気がしたよ。『Fanfares』でやった音楽と、いまやってる音楽は違うかもしれないけど、元々のフィーリングは変わってないんじゃないかと思う。
――曲はLogicやAbleton Liveのようなシーケンス・ソフトで作られているそうですね?
ロブ 大半はそうしているね。以前よりいまの方がそういう作り方が多いと思うよ。
――ライブを観て思ったのですが、クリックを聴いて演奏しているわけでもないのに、なぜあんなにお互いに正確なタイミングで演奏できるのですか?
ロブ とにかく練習だね。エレクトロニック・ミュージックにはビートのクオンタイズ、タイミングの補正があるけど、それをも真似るようにしている。とはいえ、エレクトロニック・ミュージックのビートだってファンクから来ているものだしね。あと、間違ったときはお互い見つめ合ったりもしているよ(笑)。
――ジャズ・ミュージシャンが、エレクトロニック・ミュージックや打ち込みのビートを取り入れた従来のやり方と、ゴーゴー・ペンギンの取り組みとの違いは何ですか?
ロブ たぶん僕らはエレクトロニカありきのジャズなんだと思うんだ。自分たちの基軸はジャズにあって、エレクトロニカにも影響を受けている、というのとは少し違う。
クリス やりたいと思うことをやっている。これが正しいと思えばやる。つまりクラシックっぽいものの下にハウスっぽいアイディアを入れ込むというのが、音として合うと思ったらそれを絶対やる。だからバンドの個性が出ているんだと思う。それがいままでのジャズ・ミュージシャンのアプローチとの違いじゃないかな。もうひとつは、メンバーが一緒にアイディアを出して、一緒に曲を書いて、というのが大きい要素だと思う。ブラッド・メルドーがマーク・ジュリアナとメリアナでやっているように、シンセサイザーを研究したいというのもあるんだけど、僕はエレクトロニックな楽器をあくまでもアコースティックで再現するところが違う部分だと思うな。

――そのエレクトロニック・ミュージックへの拘りというのは、ジャズよりもそれらからの影響が大きいからなのでしょうか
ニック いまバンドとしてやりたいことはこれであって、もちろんみんなジャズからは影響を受けているよ。だけど、いま作りたいのはこういう音楽なんだ。
ロブ 音楽のスタイルは変わっていく中で、例えばクラシック音楽のようにある程度の年数を経てしまうとピークを迎えてそこで透明さを持つものになっていく。クラシックは350年前に完成してしまったものだから、いまの時代にピアノのソナタを作る人はそういない。あとジャズにしても自分たちが学び始めた時には“ジャズというのはこういうものなんだ”という、すごく厳しくがんじがらめなところがあった。そのなかで個性を維持するというのはとても難しい。エレクトロニック・ミュージックはそうではない。ときにUKでは水のように流れている。エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーが登場しても、規則はあまりないんじゃないかと思う。とはいえ、いまはひとつの規則が出来つつあるとも思うけどね。
クリス エレクトロニカというのは非常に幅広いタームだと思う。だから何でもあり得る。エレクトロニカの中にもちょっとクラシックっぽいものもあれば、R&Bっぽいものもある。だから繋がっている部分もあるんだ。自分が演奏するときはどちらかというとロックのコードに近いものがあるんだけど、この3人で合わせると最後にはエレクトロニカのような響きになっているんだ。
――あなたたちよりも上の世代のプロデューサーの試みから影響は受けましたか? たとえば、フォー・テットとスティーヴ・リードのコラボや、マシュー・ハーバートのビッグバンド、あるいはシネマティック・オーケストラのように、積極的にミュージシャンと絡んでいった人たちもいますが。
ロブ それはあるね。特にシネマティック・オーケストラの最初の2枚のアルバム(註:『Motion』と『Every Day』)は本当に聴き込んだし、確実に影響は受けていると思う。
――マーキュリー・プライズへのノミネートなど、ジャズ・グループとしては異例とも言える注目を集めたことは、ある程度、想定内のことだったのでしょうか?
ニック バンド結成当初は、アントワープ・マンションという、ベルギーの領事館だったところを改造したアンダーグラウンドのパーティ会場でよくギグをやっていた。それとマンチェスターのジャズ・クラブでもやっていたから、当初からその両方のフィールドでやれるようにしていたんだ。だから、ノミネートも意外なことではなかったね。
クリス 自分たちが最初に演奏していたその会場は、音楽関係者やミュージシャンもよく来る場所だったんだ。そういう人たちはオープンマインドで、ジャズだろうと何だろうと関係ないと言ってくる人たちだったので、そういう人たちの前で自由に演奏できたのはよかったよね。
ニック あと自分が学生だった18歳のときに先生だったのが、ラム(Lamb)というエレクトロニック・ミュージック、ドラムンベースのユニットをやっていた人(註:アンディ・バーロウ)だったんだ。ラムをやりながら、学校ではコテコテのビバップを教えたりしてた。BBC Radio1でラムとして演奏しながら、水曜には年配の人向けにジャズを演奏していたりもしてたよ。それはすごくいいなと思うことだったよ。


――ラムは僕も好きで聴いていたので懐かしいですが、そんなバックボーンがあり、あなたたちと繋がってもいるとは初めて知りました。では、一方であなたたちにジャズ・ミュージシャンというアイデンティティはありますか?
クリス 自分はミュージシャンとしてのアイデンティティしかないね。ビアノを弾くミュージシャンとしてのね。
ロブ 興味深い質問だね。学校に通っていた時ってグループに分かれていて、全身黒ずくめでマリリン・マンソン聴いてるヤツもいれば、髪の毛全部剃り落としてハッピー・ハードコアを聴いてるのもいた(笑)。それに合わせてファッションもタグ付けされていたね。だけど結局、人というものが自分のアイデンティティを作っていくんだよね。そのアイデンティティをしっかりしたものにするために、洋服だったり音楽だったりライフスタイルをそれに付随させていくものなんだと思う。音楽から学べることは「じつはアイデンティティというものは存在しない。自分で作るものなんだ」ということだね。ほんとうに音楽を突き詰めていこうと思うんだったら、上に行こうと思うんだったら、アイデンティティを全部失わないといけないんだ。そして、音楽はみんな繋がっている、すべてのジャンルは似通っているということを理解しないといけないんだ。
――現在、共感を寄せる同時代の音楽家はいますか?
ロブ (三人で話し合いながら)エレクトロニカだとフラコかな。あと、ジョン・ホプキンス、それにティグラン・ハマシアン。あと、バッドバッドノットグッドはビースティ・ボーイズより楽器の演奏が上手いよね(笑)。
――では、最後にBlue Noteというレーベルの現在について意見を訊かせてください。
クリス ドン・ウォズがCEOになってからやっぱり変わったよね。まだまだこれから新しいものがいろいろ出てくると思う。Blue Noteはある時代にとても有名になったけど、未来を見据えていかないといけない。たぶん、いまはそれを見据えている時じゃないかな。新しいものを取り入れていくという気持ちになっているようだし、自分たちのようなバンドと契約するリスクも犯すようになってきている。すごくオープンにやっていると思うよ。A&Rのニコラス・プルークも自分たちの音楽にとてもエキサイトしてくれているんだ。
 
 
作品情報
アーティスト:Gogo Penguin
タイトル:Man Made Object
レーベル:Blue Note
価格:2,484円(税込)
発売日:2016年1月27日
 
■Universal Music公式サイト
http://www.universal-music.co.jp/gogo-penguin/

LATEST
ARTICLE

ジャズマンのファッション
COLUMN2017.08.04

ジャズマンのファッション

現在のハリウッドスターやポップスターがそうであるように、かつてジャズマンはファッションリーダーとしての役割も担っていた。そんな彼らのスタイルは、その音楽と同様、現代でもさかんに引用されている。本連載では、そんな「ジャズの名盤レコードのジャケット写真として遺され名演とともに記憶されたファッション」について、さまざまなテーマで考察していきたい。

VIEW MORE
小曽根 真
INTERVIEW2017.08.03

小曽根 真

 ジャズ・フィールドでの華麗な経歴はいまさら説明するまでもない。近年は交響楽団や室内管弦楽団とも共演を重ね、いわゆるクラシックの世界でも国際的な活躍をみせる小曽根真。こう書くと“優艶なピアニスト”のイメージだが、この8月に発売される最新アルバム『ディメンションズ』を聴くと、氏が“奔放で気骨あふれるジャズマン”であることを改めて思い知らされる。

VIEW MORE