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Interview with Gilles Peterson 世界屈指の“目利き”が語った
「いま注視すべきミュージシャンたち」
取材・文:原雅明
写真:則常智宏
通訳:木村真理

Gilles Peterson

INTERVIEW
INFORMATION

 5月4日にSTUDIO COAST(東京都江東区)で開催された「Gilles Peterson presents WORLDWIDE SESSION 2016」で来日したジャイルス・ピーターソンの最新のインタビューをお届けしよう。今回は、ジャイルスが現在注目している新しいアーティストと音楽シーンについての話を訊いた。自らが毎年選考し、音楽シーンに及ぼした新たな影響を讃える賞「Worldwide Awards」でもお馴染みのように、常に音楽の動向にアンテナを張り、DJとして世界を回ってシーンの変化もつぶさに見てきたジャイルスによる、2016年現在の音楽ガイドをどうぞ。


――まず、今日のWORLDWIDE SESSION 2016を振り返っていかがでしたか?
今日は本当にいいパーティーだったと思っています。STUDIO COASTは大きな会場だから、少し心配していたところもあったんだけど、パーティーが始まると、出演者、そしてオーディエンスからとてもいいエナジーを感じられたので、すぐに安心しました。マーシャル・アレンからは、たくさんのインスピレーションをもらいました。92歳なのに、タバコを吸いながらも元気にやっている。そして日野皓正! 彼はレジェンドだけど、若いファンが多くいることを今夜確認できましたよね。彼自身もそれにびっくりしたと思うし、刺激を受けたのではないでしょうか。
――今回はミゲル・アトウッド・ファーガソンを紹介したことも大きな意味があったと思います。ミゲルについてはいかがでしたか?
ミゲルは本当に熱心な音楽家です。これまでずっとロンドンに招待したいと思っていたのですが、オーケストラでの大編成の演奏が多いため、予算的にそれを叶えることができなかった。しかし今年は、ロンドンのオーケストラと共演という形で招待しようと思っています。彼はカマシ・ワシントンやセウ・ジョルジと演奏してきましたよね。アレンジャーの中では、アメリカ音楽シーンのキーパーソン的存在。そしてロサンゼルスという、いま、音楽がもっとも熱い土地で活躍して、ジャズのほかにヒップホップやソウルといった、さまざまなジャンルをつなぐ音楽の接点を作っています。私は、DJでそれをやっていますが、彼は音楽でそれをやっている。
――先頃来日したゴーゴー・ペンギンにインタビューした際に、ジャズとクラブ・ミュージックが昔から混じり合っている彼らの地元マンチェスターのシーンにも興味を持ちました。
マンチェスターの重要人物はミスター・スクラフ(Mr.Scruff)とマシュー・ハルソール(Matthew Halsall)です。マシューこそ、ゴーゴー・ペンギンを世の中に紹介した人物ですね。マンチェスターのクラブには独特なヴァイブレーションがある。少し日本と似ているといってもいいでしょう。みんなポジティブで大騒ぎしてくれるから、DJするのが楽しい街なんですよ。ジャズという意味では即興音楽がイギリス全体で栄えてきていると感じています。昔はジャズというとダーティーなイメージでしたが、最近人気がでてきました。“音楽がシェアできる”という状況の変化によって生まれてきたことかもしれません。音楽家自らが自分の音楽をオンラインでシェアできれば、レコード会社からのプレッシャーもない。自分たちが本当にやりたいことを表現できる環境になってきたことが、素晴らしい音楽の誕生に繋がっているのでしょう。
――カマシ・ワシントンに以前インタビューした際にも同様のことを言っていました。自分たちの音楽だけではなく、過去の音楽の情報や知識を作り手がシェアしていることも創造に繋がっているのだと。
自分たちで音楽をシェアしたりコネクトすることが、マーケットを作るということにも繋がる。それが可能な時代になったということなんですよね。



――あなたはDJとして世界各地を回っていますが、特にいま注目している国や場所はありますか?
フランスの音楽シーンはここ最近よくなってきていると感じています。パリの音楽シーンには、ここ数年、特に魅力を感じていなかったのですが……、この前テロがありましたよね。そういった戦争だったり社会的に難しいことが起こると音楽やクラブ・シーンは、いいエネルギーを生み出そうとする傾向があるんですよね。クラブ・カルチャーでいうとイギリスが一番だと思っています。特に現在ロンドンだけではなく、マンチェスターやシェフィールドといった街でクラブ・シーンが栄えています。カリブー(Caribou)、フォー・テット(Four Tet)、フローティング・ポインツ(Floating Points)やジェイミーXX(Jamie xx)だったり、彼らは大物DJになりましたね。彼らが提示するユニークな音楽に若者たちが反応して、その音楽のルーツを探ろうとする。そういった現象がクラブ・カルチャーをよくしているんです。特に、フローティング・ポインツの活躍は頼もしいですね。あと、ブラジルのサンパウロもいいシーンができていると思います。あの街を代表するのがDJナッツ(DJ NUTS)ですね。ロサンゼルスは説明無用ですよね。それからオーストラリアのメルボルンにも注目している。
――メルボルンはどのあたりが面白いと思っていますか?
メルボルンのクラブ・シーンはどんどんよくなっていますね。去年クリスマスにDJをしたんですが、あのパーティーは去年の公演の中でもハイライトのひとつともいえるほどに盛り上がった。メルボルンはDJも多いのですが、その理由には、ルールが変わったということが挙げられるでしょう。同じオーストラリアでも、シドニーは深夜2時までしか営業できないけど、メルボルンは日本のように遅くまで営業できるから、それがクラブ・シーンを活性化させるのではないでしょうか。
他には、サウス・ロンドンもいま面白いですよ。ヘンリー・ウー(Henry Wu)、テンダロニアス(Tenderlonious)やモー・カラーズ(Mo Kolours)といったアーティストは、これまでと違った感覚作りをしています。
――では、日本についてはいかがですか?
日本はいま、変化の時期を迎えていますね。それは3.11だったり風営法だったり、レコードショップの閉店も何軒かありましたよね。そのような理由で一度、世代が失われたように感じましたが、またゆっくりとカムバックしてきているのではないでしょうか。私は2005年から7年に渡ってJ-WAVEで「Worldwide 15/Worldwide 60 」を放送していましたが、とてもやりがいがありました。なぜなら番組を届けることで日本の音楽シーンをサポートできていたからです。いまはあの時に比べると、日本の音楽シーンに元気がないようにも感じます。そういったなかでいま私は、日本のアーティストをヨーロッパに呼ぶという形でシーンをサポートしたいと思っています。去年は「Worldwide Festival」で日本人によるステージ「JAPAN NIGHT」を開催してYosi HorikawaやDaisuke Tanabeに出演してもらいました。今年は、Kan Sano、Mitsu The Beats、須永辰緒、Dazzle Drumsという人たちを招待する予定です。こうやってヨーロッパに日本人のアーティストを紹介することも意味があり、何かを生むことに繋がると信じています。いま、日本に期待しているのはJazzy Sport以後の世代がどんな音楽シーンを作るかということです。たとえば、フォー・テットやジェイミーXXのような、次のアーティストを生んでくれることを期待しています。必ず面白い何かが生まれると信じていますよ。

――最後に、いまお勧めのアーティストの紹介をお願いします。
最初に紹介したいのはヨセフ・カマル・トリオ(Yussef Kamaal Trio)というイギリスの新しいジャズ・グループ。今年のWorldwide Awardsにも出演してもらいました。カマシ・ワシントンがやってきたことに対してロンドンから回答しているようなアーティストです。
(註:ドラムのYussef Dayes、キーボードのKamaal Williams、ベースのTom Driesslerからなるサウス・ロンドンのグループ)



その他にも、シャバカ・ハチングス(Shabaka Hutchings)。
(註:シャバカ・ハチングスはカリブ~アフリカ音楽を意識したジャズ・グループ、サンズ・オブ・ケメットを主宰するサックス奏者/作曲家)

モーゼス・ボイド(Moses Boyd)なんかもエキサイティングなイギリス・ジャズ・シーンのニューカマーだと思います。
(モーゼス・ボイドはアフロ・バンド、モーゼス・ボイド・エクソダスを率いるジャズ・ドラマー)


もうひとりはジェイムスズー(Jameszoo)。オランダのエレクトロニック・シーンで活躍するアーティストで、ポスト・フライング・ロータスといった感じです。私が毎年南仏のセットで開催している音楽フェスティバルWorldwide Festivalにも出演してもらうことが決定していて4~5人の編成でのライブバンドでパフォーマンスを予定しているのですが、今から楽しみです!
(註:今年Brainfeederからデビュー・アルバム『Fool』をリリース。サンダーキャットからアルトゥール・ヴェロカイまでがゲスト参加した)


ダイメ・アロセナ(Daymé Arocena)。キューバのアーティストで、私がここ7年くらい力をいれているアーティストです。アルバムやコンサートを制作してきましたが、本当に宝石のようなアーティストです。これまでは比較的小規模なコンサートをやってきましたが、彼女はこれから本当にスターになると思っています。
(註:昨年、ジャイルスのBrownswoodからデビュー・アルバム『Nueva Era』をリリースした) 

アディー・ソリモン(Ady Suleiman)。どちらかというと、これまで紹介してきたアーティストよりコマーシャルな音楽性で、ジャンルでいうとR&B、ソウル。イギリス出身。今年の年末に盤が発売になる予定。いろんなジャンルをクロスオーヴァーするアーティストになると思うから、注目してください。
(註:ジョーイ・バッダスをフィーチャーした“What's The Score”で注目されたノッティンガムのシンガーソングライター)

ロージー・ロウ(Rosie Lowe)というイギリスのボーカリストにも注目しています。彼女は、女性版ジェイムス・ブレイクみたいな感じで、ここから活躍していくような予感がする楽しみなアーティストのひとりです。
(註:今年デビュー・アルバム『Control』をリリースしたロンドンのシンガーソングライター) 

最後に、ケイトリン・アウレリア・スミス(Kaitlyn Aurelia Smith)も素晴らしいですね。3枚目となる最新作『EARS』はとても気に入っています。
(註:ワシントン州オーカス島出身の女性モジュラー・シンセ奏者/シンガー) 

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