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Interview with Colin Vallon 「ジャズをやりたいとは思っていなかった…」
孤高のピアニストが追求する“壊れた美しさ”
取材・文:熊谷美広
写真:則常智宏

Colin Vallon

INTERVIEW
INFORMATION

 スイス(ローザンヌ)出身のピアニスト、コリン・ヴァロン。自身のトリオで、ドイツのECMレーベルよりアルバム『LE VENT』(2014年)を発表。この時代なりの(ジャズ的)トレンドには一線を引き、独創的なビートとハーモナイズで自作曲を演奏している。表面的には「保守本流のピアノ・トリオ」だが、その本質はきわめてプログレッシブなものだ。耽美と退廃と官能を、至妙のバランスで並存させる、稀代の“ジャズ・コンダクター”はいま、何を考えるのか。
 
――まずはあなたとジャズとの出会いを教えてください。
「私の家族は、クラシックやシャンソンをよく聴いていたんだけど、母親は教会でオルガンを弾いていて、叔父がジャズ好きだったこともあって、ジャズのCDも何枚か家にあったんだ。私も最初はクラシック・ピアノから始めたんだけど、譜面を読むのがすごく嫌いでね(笑)。そんなときに、叔父さんがジャズやブルースを聴かせてくれて、即興で弾くことがすごく面白そうだったから、自分もジャズをやり始めたんだ」
――スイスといえば、モントルー・ジャズ・フェスティバルが有名ですけど、行ったことはありますか?
「子供の頃に行ったことあるよ。最初に観たのがミシェル・ペトルチアーニで、次にハービー・ハンコックとウェイン・ショーターを観て、すごく感動したことを覚えている」
――あなたの音楽を聴いていると、誰から影響を受けたのか、まったくわからないのですが、実際に影響を受けたピアニストは?
「それは嬉しい褒め言葉だね(笑)。強く影響を受けたのは、ビル・エヴァンス、キース・ジャレット、セロニアス・モンクなど、他のジャズ・ピアニストと同じだよ。ただし、音楽大学でジャズも勉強したけど、ジャズをやりたいとは思っていなかった。他の音楽ばかり聴いていたんだ。『自分の音楽を追究したかったら、ひとつの音楽だけを聴くな』って誰かに言われたことがあるけど、いろいろな音楽を聴いていると、それぞれにいいところ、好きなところが見つかって、そういったところから自分の音楽が見つけられるんじゃないかなって思っているよ。いくらいい演奏がしたいと思っても、ハービー・ハンコックばかりを聴いていたら、自分の声は聴こえてこないだろうし」
——あなたのプロフィールを見ていると、ニルヴァーナやレディオヘッドも大好きだと書いてありますね。
「その通りだよ。ニルヴァーナのエネルギーや、ラフなところが好きだったし、レディオヘッドのメロディやハーモニー、そしてサウンドのテクスチャーも大好きだ」
——普段は、あなたのピアノ・トリオで活動することが多いのですか?
「現在はパトリス・モレ(b)とジュリアン・サルトリウス(ds)とのトリオが活動の中心だけど、それ以外にもいろいろなグループで演奏している。ソロ・ピアノもやっているけど、1999年から自分のトリオを始めて、そこから17年間ずっと続けているから、人生の半分はトリオをやっていることになるね(笑)」
――このトリオで表現したい音楽というのは、具体的にはどういうものなのでしょうか?
「彼らと一緒に演奏していると“壊れた美しさ”を表現できるんだ。それはこのトリオでしかできないことだと思う。彼らと一緒に演奏したいという思いがずっと続いていて、それは彼らの持っているいろいろな引き出しとか、音楽の方向性とかにすごく感銘していて、それがこのトリオをやる動機づけにもなっているね」


――マンフレート・アイヒャー(ECMレーベルの創始者)と出会って、アルバムをリリースするようになった経緯を教えてください。
「以前、私のトリオのドラマーだったサミュエル・ローラーが、女性シンガーのスザンヌ・アビュールとのアルバムをECMから出していて、ある日マンフレートがサミュエルに、面白いプロジェクトはないかって電話してきたんだ。それで、私とサミュエルがあるフェスティバルに出ていたときのプレイを彼が聴いてくれて、ECMからアルバムを出さないかって言ってきてくれたんだよ」
――今回あなたは、アルバニア出身の女性シンガー、エリーナ・ドゥニのカルテットのメンバーとして来日しました。彼女に「アルバニアの音楽をやらないか?」と勧めたのはあなただということですが、どんな意図があったのですか?
「スイスの音楽家には、自分たちの深いルーツというものが、あまりないように思えるんだ。スイスで過ごしてきて、クラシック、ポップス、ロック、ジャズなども聴いてきたけど、スイスの伝統的な音楽で、自分が共鳴できるものや、自分のルーツだと感じられるものはなかった。だから私は世界中の音楽に興味があったし、世界のいろいろな音楽を聴いてきて、すごく面白い音楽もたくさんあったから、それが私にとっての音楽の大切なエッセンスになっているんだよ」

――先ほど「あなたのピアノは誰の影響下にあるのかわからない」と言いました。つまり“〇〇風”というような、例えるものがないな、と感じるわけです。その原因の一つは、いまおっしゃった「深いルーツがない」ということなのでしょうか?
「私の音楽は、そんなに特別だとは思っていないから、オリジナリティがある、って言ってもらえるのは嬉しいね。自分のいちばん最初のアルバムを聴くと、その頃から変わっていない部分というのもあるんだけど、いろいろな音楽を聴いていると、そのたびに新しい発見があって、それが自分の音楽の新しい要素になっていくんだ」
――では、あなたがこれからクリエイトしたいと考えている音楽のプランなどはありますか?
「まずは、このトリオをずっと続けていきたいし、それは私にとってすごく重要なことだと考えているよ。ジャズ・トリオというのは、世界中にものすごくたくさんあって、でもそれで可能性をあきらめるのではなくて、どんどん新しいことにトライしていきたいと思っている。あと、次に登ろうとしている“いちばん高い山”は、たぶんソロ・ピアノのアルバムを制作することで、それがいまいちばんやりたいことでもあるね。さらにこの間、ドラム、トランペット、エレクトリック・ベース、そして私はアコースティックとエレクトリックのピアノをプレイするという、現在よりもエレクトリックの要素が強いカルテットで演奏したんだけど、それもすごく面白かったから、もっと発展させていきたいと思っている。去年は、大編成のアンサンブルの作曲もしたし、これからももっといろいろなことをやっていきたいね」