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Interview with Marcus Miller 「そうやってジャズは生き続けているんだよ」 取材・文:熊谷美広
写真:古賀恒雄

Marcus Miller

INTERVIEW
INFORMATION

 現在、世界最高峰のベーシストであり、またプロデューサーとしても、マイルス・デイヴィス、ルーサー・ヴァンドロスなどをはじめとする数多くのアーティストを手がけているマーカス・ミラー。2015年にリリースした、現時点での最新作『アフロディジア』では、アフリカ音楽をはじめとする世界各地の音楽を取り入れたサウンドを展開。この作品で披露した楽曲や楽器を携え、先日、日本でのライブを敢行した。
“巨匠”であるにもかかわらず、まだまだ成長を続けようとしている彼の言葉に耳を傾けてみよう。
 
——あなたの最新作『アフロディジア』では、アフリカ音楽を取り入れていますが、それには何かきっかけのようなものはあったのでしょうか?
「6年前、セネガルのフェスティバルに出演したとき、現地の“Slave House”というところに行ったんだ。そこは、かつて捕らえられた奴隷たちを収容して、人数を数えて、健康状態をチェックするための施設で、現在はミュージアムになっている。そこのツアー・ガイドが、当時の様子を話してくれたんだけど、ほんとうに悲惨な話で、自分の遠い先祖たちの話だから、とても感傷的になったんだけど、そんな状況の中で、自分たちの言語も、文化も失ってしまった彼らにとって、唯一の心の拠り所が音楽だったという話も聞いた。それで、先祖たちにとっても、家族たちにとっても、自分にとっても、音楽というものの存在が大きなものなんだと再認識して、このアルバムで、その音楽というものを讃えたいと思ったんだ」
——アルバムの音を聴く限り、そんな悲しいテーマがあったとは思いませんでした。
「すごく喜びに満ちた音楽だと思うよ。“奴隷”というのが大きなテーマだけど、彼らにとって音楽というものが、生きていることの喜びを表現できる唯一のものだったということを伝えたかったんだ。奴隷たちはセネガルを船で発ったあと、ブラジル、カリブなどを経てアメリカに到着したので、アフリカ音楽だけではなく、それぞれの土地の音楽的要素も取り入れている」
——最近ライブで弾いている“四角いボディの弦楽器”も、アフリカの民族楽器なんですか?
「あれはギンブリ(Gimbri)といってね、アルバムの“アイ・キャント・ブリーズ”という曲でも弾いているよ。モロッコでライブをやったときに共演した現地のミュージシャンがプレゼントしてくれたんだ。3万人の観客が集まったコンサートで、僕のバンドとモロッコのバンドとが共演したんだけど、モロッコの音楽はグナワ(Gnawa)といって、11人の奏者がクラケブ(Qraqeb)という、金属製のカスタネットのような楽器を一斉に鳴らして、1人がギンブリをプレイするんだ。あとはダンサーもいた。僕はそこでベースを弾いたんだけど、ちゃんと音楽で会話ができた。『(クラケブのビートを真似て)ンダッダ、ンダッダ、ンダッダ』ってね」


——アルバムでは、テンプテーションズの「パパ・ワズ・ア・ローリング・ストーン」をカバーしていますが、この曲を取り上げた意図は?
「アルバムでは、奴隷としてアメリカに連れてこられた先祖たちが旅した、それぞれの“停留所”を辿って、音楽で表現している。最初の2曲で、アフリカのイメージが強くなってしまっているのかもしれないけど、アルバム全体がひとつの旅になっているんだよ。セネガル、ブラジル、カリブ、アメリカ南部、そしてニューヨーク、シカゴ、デトロイトという大都市。“パパ・ワズ・ア・ローリング・ストーン”はモータウン=デトロイトを表わしている。そしてデトロイトで旅が終わったかなと思ったんだけど、アルバムをミキシングしているときに、アメリカで白人警官による黒人射殺事件が起こって、まだ苦しんでいる黒人たちもいるんだということを実感して、“アイ・キャント・ブリーズ”という曲を最後に加えた。『まだこの話は続いているんだよ』ってね」
——今回のライブ(ブルーノート東京)でも演奏していた、あなたがマイルス・デイヴィスに提供した「TUTU」も、このアルバムに近いスピリットを持った曲ですね。
「そうだね。“TUTU”は、1980年代の南アフリカで、ネルソン・マンデラと共にアパルトヘイトに反対して戦っていた、デズモンド・ムピロ・ツツに向けて書いた曲で、マイルスもそれに強く共感してくれた。だからこのアルバムの曲と一緒にプレイしても、共鳴できるんだ。弾いていると、やっぱりマイルスを思い出すしね」
——あなたは、「TUTU」や「ジャン・ピエール」といったマイルスのレパートリーを、ずっとライブで演奏し続けていますが、自分はマイルス・ミュージックの継承者である、といった意識はあるのでしょうか?
「やっててしっくりくるから、というのがいちばんの理由かな。“TUTU”は、一時期やり過ぎて、時代的にもしっくりこないと感じたから、やらなかった時期もあったけど、今はまたやっている。例えば、オシャレなパンツを買って、すごく気に入っていたんだけど、穿いていくうちに、ちょっと流行遅れかなって思うことってあるよね。でも時間が経って、いま穿いたらまたカッコいいなって思える、という感じかな(笑)」



——アルバムにはロバート・グラスパーも参加していて、彼らはジャズとヒップ・ホップとを融合させた音楽をやっていますよね。あなたは1980年代からすでにそれをやっていて、いわば先駆者のような存在だと思うのですが、近年のジャズとヒップ・ホップとの融合については、どのように感じていますか?
「そうやってジャズは生き続けているんだよ。常に新しいものが生まれ、それを取り入れて進化させていく。1960年代にはボサ・ノヴァやブーガルーを取り入れて、1970年代にはロックやファンクを取り入れてフュージョンになった。でも1980年代には、みんなピュアなジャズを求めて、その進化が止まってしまった。でもピュアなジャズって何だよ、って思う。ジャズというのは、元々アフリカ、カリブ、フランスなどの音楽が混じり合ってできた音楽で、そういった様々な人種が集まってきたアメリカだからこそ生まれた音楽だよね。今の若いミュージシャンたちは、EDMやヒップ・ホップを積極的に取り入れていて、でもうまく取り入れるのはすごく難しいんだけど、それをがんばってやっていると思う」
——あなたがプロデュースした、マイルスの『TUTU』というアルバムは、現在活動している若いブラック・ミュージックのアーティストたちに、とてつもなく大きな影響を与えたと思うのですが、それについてはどう感じますか?
「そんなことは考えていないよ(笑)。たまに若いミュージシャンから『僕はTUTUを聴いて育ちました』って言われるけど、マジ?って(笑)。自分の作った音楽が、人に大きな影響を与えて、その人の音楽の礎になっていることを知るのは、すごく嬉しいことだけど、『師匠!』とか言われて敬われると、勘弁してよ〜って思うね(笑)。キミが僕たちから学んだように、僕もキミたちから学んでいるんだよ、って言いたいよ。以前、あるライブに向かう車の中で、若いミュージシャンにいま流行のヒップ・ホップを聴かせてもらったんだ。で、そのフレーズをその日のライブで弾いてみたら『いま弾いたの、すごくカッコいいけど、何?』って尋かれたんだけど、これはキミが教えてくれたんじゃないか! って(笑)。あ、ちなみに昨日のライブでは、最近知った“I have a pen〜”ってやつ(PPAP)を弾いたよ」
——(笑)日本には何度も来ていると思いますが、必ず行くところとか、食べるものとかあります?
「2度目に日本に来たとき、渡辺香津美さんのツアーだったんだけど、僕は牛肉と豚肉は食べないので、何を食べていいか迷っていた。そんな時に駅の売店でおにぎりを見つけて、これだったら安全だとわかって、それからはおにぎりばっかり食べているよ。あれも日本の立派なテクノロジーだよね(笑)」
——あなたのトレードマークにもなっている「帽子」について教えて欲しいんですけど、お気に入りのブランドなどはあるのですか?
「じつは、M2という自分のブランドがあって、サイトでも販売しているから、僕のライブにはこの帽子を被った人がいっぱい来るよ(笑)。元々はアルバムのジャケットで被って、これはいいねということになって、2回目も被ってジャケットを撮ったら、3回目から外せなくなっちゃった(笑)。たぶんみんなも『マーカス・ミラーは帽子を被っているベースの人』というイメージが強いと思う。あ、そういえばね、パリで演奏した時、終演後に楽屋の出口にファンの人が殺到して、ツアー・バスまで行けなくなってしまったことがあったんだ。で、試しに帽子を脱いで外に出てみたら、誰にも気付かれずにバスまでたどり着くことができた(笑)。それから、ある空港では……その時は帽子を被っていなかったんだけど、一緒にいた息子が『帽子を被ってみてよ』と言うから、被ったんだ。すると、途端に周りの人が『マーカス・ミラーだ!』って言い始めて、人々がいっぱい寄ってきたこともあったね(笑)」


 

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