Arban

Arban

Interview with 原 摩利彦 京都在住の気鋭作曲家/ピアニスト
最新作で披露した「自画像」の描法
取材・文:青野賢一

 原 摩利彦

INTERVIEW
INFORMATION

 坂本龍一との即興セッションや、振付家/ダンサーのダミアン・ジャレと彫刻家・名和晃平による舞踊作品『VESSEL』の音楽、京都を拠点とするアーティスト・グループ「ダムタイプ」への参加と、自身の作品を発表するだけにとどまらず、アート、演劇とも深い関わりを持つ音楽家・原摩利彦。2013年のソロ・アルバム『Flora』では、自身の演奏したピアノに緻密なプロセッシングを施し、電子音やノイズを随所にあしらったアンビエント~エレクトロニカを展開したが、2017年2月にリリースされた最新作『Landscape in Portrait』は、ぐっと親密さが増し、ピアノによる曲のメロディラインや和声が明確に立ち上る作品となり、明らかに一皮剥けたような印象である。
 原はサウンドデザインとして携わっている野田秀樹「NODA・MAP第21回公演『足跡姫』~時代錯誤冬幽霊~」(宮沢りえ、妻夫木聡、古田新太らが出演)のため、京都を離れて東京に1か月ほど滞在しており、その際にインタビューしたものをまとめたのが本稿だ。
 
──プロフィールを拝見すると、坂本龍一さんとの仕事が目を引きます。坂本さんとの出会いはいつ頃、どういった経緯で?
「最初にお会いしたのは2009年頃に法然院でおこなったシークレット・ライブのときですね。そこでデモを直接お渡ししました。そのとき弟(原瑠璃彦。日本庭園や能の研究者でありドラマトゥルク)も一緒だったんですけど、彼は坂本さんがやっているラジオ番組に音源を送っていて、何回か入選しているんですね。覚えやすい名前なので坂本さんも記憶していらして、『あ、瑠璃彦。じゃあもしかして君は摩利彦?』という感じで。僕も番組に音源を送っていたんですけど、いつも選から漏れていましたね(笑)。お仕事でご一緒したのはNHK-FMの即興セッション(2014年)に呼んでもらったのが最初です。僕が音楽を担当している『VESSEL』は企画書段階では坂本龍一さんがやる予定だったんですが、都合でできなくなって『ちょっと手伝ってあげてくれるかな』とメールが来て、『わかりました!』と参加することになりました」
──『VESSEL』の音楽はどういった手法で制作されましたか?
「『VESSEL』では基本的にはフィールドレコーディング音と、ピアノの残響音だけを使っていますね。今やっている野田秀樹さんの公演はピアノも入っていたりします。名和晃平さんが僕のことを野田さんへ紹介してくださったんですけど、野田さんは僕の経歴を見て『こいつ、アタマ堅いんじゃないか?』って思ったそうなんです。でも名和さんが『大丈夫です。彼はジャッキー・チェン好きです』っていって、それで『じゃあOK!』となったと聞きました(笑)」
──ダムタイプとの関わりというのも独特な活動だと思います。
「京都という町は狭いですから、イベントに行くとダムタイプの人たちが観にきていたりして、そのうち顔見知りになって少しずつ話すようになり、『今度手伝ってよ』みたいな感じから音響の見習いをやるようになりました。それで2012年のパフォーマンス作品『CHROMA』のときに正式なクリエイション・メンバーとして参加することになったんです。僕と『Landscape in Portrait』のデザインをしてくださった南琢也さんとイギリスからサイモン・フィッシャー・ターナーの3名で音楽を担当しました。今のダムタイプはメンバーがそれぞれの活動を行っていまして、僕は高谷さんと一緒にやっていますね」
──高谷さん、坂本さん、野田さんといった大御所とご一緒することで自作へのフィードバックというのはなにかありましたか?
「高谷さんは音じゃない立場からのアドバイスをいただきます。自分では思ってもみないようなことをいってくださるんですが、それが怖いくらいに的確なんですよね。例えば曲の展開の仕方だと、自分は音楽的思考でやってしまうんですけど、アート的というかサイエンス的というか、ある意味、無感情な展開の仕方を示唆してくれることもあります。それは自分では気づかない部分なので、一緒にやって初めて成立するものだと思います。坂本さんからは言葉としてはあまりもらったことがないんですが、セッションのとき無言で音がバーッとやってきて、その音から『お前、本当にこれでやっていくのか? 覚悟しろよ』みたいなのを感じました。なんというか暖かくて愛がある感じで、それで大学院を中退する決心がつきましたね。音で叱咤激励してくださったので、身が引き締まる思いでした」
──坂本さんの音楽に触れたのは、いつ頃でしたか?
「子どもの頃、ピアノ教室に通っていたんですけど、すごい劣等生で。その後、個人レッスンに行くようになったんですが、そのときもピアノの下に隠れたりとかして(笑)、結局10歳あたりで見事に辞めることに成功しまして、ふたたびピアノを弾くようになるのは中学生になってからですね。そのきっかけが、1996年、中一のときに大阪のフェスティバルホールで観た坂本龍一さんのトリオのコンサートなんです。アルバム『1996』のツアーのひとつで、ジャキス・モレレンバウムとエバートン・ネルソンが共演していました。知人から『チケットあるけど行かない?』と言われて、なにもわからなかったんですけど連れて行ってもらいました。それで、聴いたら『かっこいいなぁ』と思いまして。それとは別の話になりますが、家にピアノがあったので、誰かの曲の一部分だけを繰り返し弾いては『この音とこの音を組み合わせると、どうしてこんなに美しく響くのだろう』と考えていました。和音に強い興味を持ったのでピアノを毎日弾きながら自分の好みの和音を探していました。そして作曲をすればわかるということが判明して、漠然とですがそこから作曲家を目指すようになりました」
──そこから作曲法などを学んでいくわけですね。
「はい。中三の終わりか高校一年のはじめだったか、作曲の個人レッスンを受けるようになって3年間続けました。音大に行きたかったので。和声は得意だったんですけど、ピアノの演奏とかソルフェージュ(譜面の読み書きやリズムの学習といった音楽理論の基礎の訓練)はあんまり得意じゃなかったですねぇ。高校三年のときに進路を考えたんですが、京都に住んでいるというのもあって総合的に判断して東京の音大に行くのはやめて、結局二浪して京都大学に入りました。大学では教育学部で生涯教育学というのをやっていました。大学に入ってからはMacを買っていわゆるDTMを始めます。中学くらいから作曲はしていて、高校あたりでサンプラーとかシンセとかシーケンサーなんかを使い始め、大学に入ってコンピューターに移行したという感じです」
──DTMをやり始めた頃に影響を受けた作品はありますか?
「PLOPってレーベルから出ていたSoraさんの『re.sort』(2003年)、まさにエレクトロニカっていう感じで。曲の質感が天才的で『エレクトロニカってこんなにいいものなんだ!』と思って、ほかにもいろいろ探すようになりました。でも、そこまでど真ん中の作品ってあんまりないんですよね。それで、自分でもこういう音楽をやってみようと思ったんです。あとは同時期にカールステン・ニコライなんかは聴いていましたね。クラブミュージックだとブレイク・リフォームというロンドンのグループが好きでした」
──自分の名義で作品を出すのは2005年ですね。
「そうですね。CDR(『for a silent space』)を出しました。で、2007年にイタリアのネットレーベルから出して、翌年にCDRとDVDの4チャンネルのものをスイスとベルギーで出して、2010年には朗読の人との共作をフランスで、トマス・フィリップスっていうカナダの作曲家との共作をアメリカでリリースしたりもしました。そんな感じでちょこちょこ出していたんですが、日本流通となると2011年の『Credo』というビートもののアルバムが最初ですね。2012年にもビートものの作品を出していますが、ピアノをやっていてアンビエントも好きなのに、なかなかそういった作品が出せないなぁと思ってようやくリリースしたのが2013年の『Flora』です。でも、そのときにはまだピアノとちゃんと向き合っていないんですよね。今回のアルバムはちゃんとピアノの音を録音して、しっかりメロディのある“曲”にしたいなという思いがありました」
──ピアノに向き合おうと思ったのはどうしてですか?
「舞台音楽とかですと基本的にピアノは封印しているんですね。ですけど自分の作曲スタイルはピアノとコンピューターなので、それをしっかりとまとめた作品を発表したいなと思ったからです」
──今回のアルバム『Landscape in Portrait』はピアノの響きがじつに自然に収められていますよね。録音はどういった環境ですか?
「録音は全部自分でやっています。ピアノは実家で録ってあとは自分のスタジオですね。ピアノは安価なマイク二本を自分の両サイドに立てて、オーディオインターフェース直結にして録りました。今回の作品は音域が比較的狭くて、すごく低い音なんかはあんまり使っていないんですけど、そうしたさまざまな条件が相まって気持ちのいい音で録音することができましたね」
──アルバムタイトルに込められた意味、思いを聞かせてください。
「“Portrait”という言葉を使ったのは、自分の音楽はこれです、と提示したいという思いがあってのことなんですけど、直接的に自画像みたいなもので主張するのではなくて、背景を描いていったら自画像が浮かび上がるような、ちょっと引きのスタンスを取って、このタイトルになっています。アルバムの出だしはピアノでメロディもしっかりある曲が続くんですけど、だんだん即興的に崩れていくものとか抽象的な曲が出てきて、自分としてはそういった楽曲も聴いてもらいたいんですね。いろんな人にドローンとか電子音楽も聴いてもらいたいので、聴きやすいピアノ曲を入り口にして、徐々に深い世界に誘うような構成にしています。全曲通して聴いていただけたら『原摩利彦という男はこういう音楽を作るんだな』というのがわかってもらえる、そんなアルバムがようやくできたんじゃないかと思います」
 



 
 
 
作品情報
アーティスト:原 摩利彦
タイトル:Landscape in Portrait
レーベル:Beat Records
発売日:2017年2月3日
 
Official Site:http://www.marihikohara.com/
Beatkart:http://www.beatink.com/Labels/Beat-Records/Marihiko-Hara/BRC-523/
amazon:amzn.asia/etCExLI
Tower Records:tower.jp/item/4411585
HMV:bit.ly/2h4kZ4o
iTunes Store:http://apple.co/2fapr2u

LATEST
ARTICLE

ニルス・ラン・ドーキー&デビー・スレッジ
INTERVIEW2017.07.21

ニルス・ラン・ドーキー&デビー・スレッジ

デンマークを代表するジャズ・ピアニスト、ニルス・ラン・ドーキーの最新作『Improvisation on Life』。ベーシストのトビアス・ダル、ドラマーのニコラス・バルデレベンとのピアノ・トリオで吹き込んだアルバムだ。今作では、ニルスのオリジナルに加えて、マイケル・ジャクソンの「Man In The Mirror」や、ラベルの代表曲「Lady Marmalade」、ノラ・ジョーンズで知られる「Don’t Know Why」、ビージーズの「How Deep Is Your Love」などのカバーも収録。

VIEW MORE