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Interview with José James BN史上初?の“警告表示”はジャズシーン変革の号砲か…
艶やかに赤裸々に「情愛」をうたうボーカル・アルバム
取材・文:林 剛
写真:Shervin Lainez

José James

INTERVIEW
INFORMATION

 ブルーノート第4弾となる通算7作目のアルバム『Love In A Time Of Madness』はR&Bに方向転換したことが謳われている。ここ数年は新しいジャズ・ムーブメントの担い手として紹介されてきたホセ・ジェイムズだが、今作では打ち込みを中心としたトラックで、アンビエントやトラップ、ブギー・ディスコまでを視野に入れた、より現代的で拡張性のあるR&Bを目指したようだ。これまでの作品と比べると大胆な変化にも思えるが、実際のところはどうなのだろう? 来日したホセに話を訊いた。
 

──これまでも「ジャズ・シンガーという枠に収まりたくないんだ」と発言されていましたが、今回は新作のプレス・リリースに「僕のジャズのキャリアの終わりを告げる作品だ」とあって、なかなかに衝撃的でした。
「二度とジャズを歌わないって言ってるわけじゃないよ。ただ、フル・バンドでジャズのスタイルでアルバムを作ってツアーをすることはもうないと思う。それはジャズが嫌だとかジャズから離れたいということではなくて、例えばテラス・マーティンがケンドリック・ラマーに曲を書いたりするのと同じことだよ。ジャズの側からは『ヒップホップをやるのか?』ってビックリされたようだけど、それって(ジャズ出身の)クインシー・ジョーンズがマイケル・ジャクソンの『Off The Wall』を手掛けることになった時、エピックが大反対したみたいな話と一緒で。昔からよくある話だけど、そういう狭い考え方を変えたいっていう気持ちがあったんだ。今回はこういう(R&B寄りの)アルバムにしたけど、決して『R&Bがクールでファッショナブルだからちょっとやってみるか』みたいな生半可な気持ちでやったわけではない。真剣に取り組んだよ」

──新作の影響源として、カニエ・ウェスト、FKAツイッグス、ジ・インターネット、ブライソン・ティラーなどの名前を挙げていましたが、個人的にはドレイクのOVOサウンドに近いかなという印象を受けました。
「まさにそうで、特に“What Good Is Love”はドレイクっぽいよね。“Closer”もケラーニとかドレイクみたいな感じがあると思ってるよ。ただ、これも最近知ったばかりの音を取り入れたわけではない。昔(ブラウンズウッド在籍時)からジャイルス・ピーターソンがいつも新しい音楽を紹介してくれて、2008年の頃からダブステップ、例えばジョイ・オービソンなんかの音楽に親しんでいたからね。ジャズの人が、なんとなくその上にエレクトロニックな音を乗っけたみたいな感じとは違うんだ」

──そう考えると、広い意味で原点回帰と言えなくもないですよね?
「まさしくそうだね。その通りだよ」

──“Closer”や“Last Night”は歌詞も含めてセクシャルでドラッギーな曲でもありますが、そのせいか〈Parental Advisory(※1)〉のマークも入っています。ブルーノートでは珍しいケースですが、反応はどうでした?
「キャピトルのオフィスで“Closer”を(現ブルーノート社長の)ドン・ウォズに聴いてもらって感想を求めたら、胸に付けていた缶バッチの〈Fxxx Yeah!〉という文字を指差していたよ(笑)。ブルーノートで〈Parental Advisory〉のマークが入った作品は、オリジナルのアルバムとしては初めてになるのかもしれない。だからブルーノートにとっても大きなステップになると思うけど、1940〜50年代だって、例えばセロニアス・モンクが出した作品は斬新すぎてジャズとは言えないからタイトルを『Genius Of Modern Music』にしたりとか、ブルーノートにはそういう伝統があった。だからブルースもソウルもゴスペルもR&Bもポップスも歌う自分の音楽も、弱点ではなく強みとして受け止めてくれる。そういうレーベルにいることを誇りに思っているよ」
※1:ペアレンタル・アドバイザリー=未成年にとって不適切な表現が含まれることを喚起する表示。全米レコード協会(RIAA)による勧告。
──一方で、“To Be With You”は以前のようなジャズ調のラブ・バラードですが。
「そう聞こえるのはインストゥルメンテーションのせいだね。ジャズ好きな人はそう言うだろうと思った(笑)」

──いや、個人的にはこの“R&B要素”の方に注目していて、『While You Were Sleeping』(2014年)にも関わっていたタリア・ビリグやソロモン・ドーシーといった旧知の仲間と共作しながら、プロデューサーにはR&B方面で活躍するタリオことアンタリオ・ホームズやライクマインズが関わっていて面白いなと思ったんです。
「ライクマインズはNYブルックリンのプロデューサー・チームで、ソロモン・ドーシーを通して知り合ったんだ。彼らは曲も書けるけど、どんな楽器もこなせるミュージシャンであることが何よりも良かった。タリオはタリアから推薦されたんだ。“Closer”のデモを聴かせてもらって、自分が探してたのはこの人だ!と。音楽的なストラクチャーの理解が凄かったし、ヘッドフォンで聴いてもらうと細かい部分へのこだわりが分かると思う。最近は昔のようにバンドとセッションするというより、イン・ハウス的な感じでAbletonみたいなソフトウェアを駆使して音を作るという、それはまあ善し悪しなんだけど、今回はその半々という感じかな」

──“Let It Fall”で共演したマリ・ミュージックとの共同作業も大きなトピックかと思います。マリはゴスペルから世俗(R&B)に移って“Beautiful”のヒットで名声を得たシンガーですが、彼とは4曲を一緒に書いていますよね。
「彼はタリオと仲が良くて、タリオから『お前はマリとやらなきゃダメだ』って紹介されたんだ。“Let It Fall”のデモを聴いたらすごく良くてね、未完成のデモを20〜30曲聴かせてもらって、そのうちのいくつかをもらったんだ。彼は磁石のように心を惹きつける力がある。で、“Let It Fall”は僕が仕上げたやつをマリが気に入ってくれて、彼は自分のレコーディング中だったけどセッションもしてくれて一緒に曲も書くようになったんだ。マジカルな体験だったよ」

──あなたの甘くしなやかな声は相変わらず魅力的ですが、今回はレコーディングの前にボーカル・レッスンを受けたとも聞いていまして、これが何か新作に影響を及ぼしましたか?
「クインシー・ジョーンズの自伝を読んでいたら、クインシーがマイケル・ジャクソンの『Off The Wall』をプロデュースする時にマイケルに最初に言ったことが、『ボーカル・レッスンを受けなさい』ということだったらしくて。子供の頃から活躍していたマイケルはその時点でスーパースターだったけど、マイケルはそれを謙虚に受け入れたんだ。それを読んだ時に、だったら自分も同じことをやってみようと思って、ジム・カーソンっていうオペラからポップスまでを教えている70代後半のトレーナーにお願いしたんだ。プリンスのバック・シンガーも彼に教わったみたいでね。自分は20年間くらい独学で歌ってきたから、今後も大きな問題はないだろうけど、そのまま歌い続けていたら問題になったかもしれないところを彼に指摘されたんだ。これは大きな方向転換になったね」

──裏声を交えて歌う“Ladies Man”は、まさにマイケルの『Off The Wall』時代を思わせるブギー・ディスコですし、スコット・ジャコビーと共作したリード・トラックの“Live Your Fantasy”はプリンスにオマージュを捧げているように、あなたの故郷であるミネアポリスの80sファンクを思い出させます。
「自分のコンサートの中でファンに人気があるのは“Trouble”と“Promise In Love”、そして“Come To My Door”なんだけど、この3曲をやると皆が歌ったり、踊ったり、写真を撮ったりする(笑)。こんなに楽しんでくれるんだったら、こういうキャッチーな曲をもっとやらなければダメだと思ったんだよね。それで以前“Trouble”を一緒に書いたのがスコット・ジャコビーだったから、その時のエネルギーのままスタートしようと思って一緒にジャムしていくうちに出来上がったのが“Live Your Fantasy”だったんだ。ハッピーでエネルギッシュな愛といった感じの歌だね」

──当初、このアルバムは2枚組でのリリースを予定していて、1枚は愛について、もう1枚は米国内での人種問題などに触れた内容にする予定だったそうですね。
「まさにその通りで、同時進行で“愛”と“マッドネス(狂気)”についてのアルバムを作っていたんだ。“マッドネス”の方ではミシェル・ンデゲオチェロと一緒に作っていた曲もあったんだけど、あまりにも社会状況が悪くなっていって……。そうしたことを人々に伝えるのは昔だったらアーティストの使命だったかもしれないけど、今は24時間そうしたニュースが溢れているし、これ以上それを見せつけるよりは安全だと思える場所を提供する方がいいんじゃないかと思って。だから特に明確なメッセージがあるわけではなくて、ほとんどが自伝的な曲で、自分の中の愛を訴えているんだ。全体を通してフィメール・ポジティヴで、R&Bの作法として女性へのリスペクトは忘れないようにしている。そんなわけで今回のアルバムは、タリア(・ビリグ)と5曲を書いたことも含めて女性をチームとした体制でやっている。スタッフが白人の男ばかりみたいな環境ではやりたくなかったんだ」

──“I'm Yours”ではベテランのオリータ・アダムスとデュエットしていますが、彼女との繋がりを教えてください。
「テリ・リン・キャリントンの『The Mosaic Project』のコンサートに関わった時にシカゴで会ったんだ。エスペランサ・スポルディングやダイアン・リーヴス、ノーナ・ヘンドリックスといった力強い黒人女性たちの中に何故か僕だけ男でいたんだけど、特にオリータと気が合った。で、デュエットできたらいいなと思ってダメもとでトラックを送ってみたら、次の朝、『私もう歌ってたわ』と言ってくれて。聴く人の心を穏やかにして昂揚させるような歌だから、これをアルバムの最後の曲にしたんだ」

──日本盤には“Live Your Fantasy”のWONKによるリミックスが収録されていますが、どう感じましたか?
「いいね。自分やロバート・グラスパー、ディアンジェロ、ロイ・ハーグローヴなんかから得たものを消化して音楽を作ってる新しい次の世代がいるっていうのは本当にクールなことだよ」
 

作品情報
アーティスト:ホセ・ジェイムズ
タイトル:ラブ・イン・ア・タイム・オブ・マッドネス
レーベル:ブルーノート
価格:2,808 円(税込)
 
■ユニバーサルミュージックジャパン公式サイト
http://www.universal-music.co.jp/jose-james/