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Interview with マイルス・エレクトリック・バンド
Part 1
「マイルス・デイヴィス門下生」たちが語った
知られざるマイルス伝説
撮影/Masanori Naruse 小泉 健悟

マイルス・エレクトリック・バンド Part 1

INTERVIEW
INFORMATION

 
優しく温かくファニーでチャーミング?
仲間だけが知る「マイルスの人間性」

 
 小川 ロバートは、そのとき初めてマイルスに会った?
 
ロバート さっきヴィンスが言ってたように、俺たちのバンドがリハーサルしてるのを、電話口でマイルスが聴いてるのさ。リハーサルが終わるとそれぞれがマイルスと直接電話で話すんだ。褒めてもらったり、アドバイスをもらったり、いろいろさ。彼はとにかく新しい音楽が生まれてくることに興味を持って聴いていてくれた。彼自身がプレイを休んでたこともあって、俺たちの音が彼の耳を引き寄せたんだろうね。
 
小川 当時、マイルスと音楽を作ることに不安は感じなかった?
 
ロバート 不安? まったくそんなものはなかったね。すごく楽しみにしてたよ。自分たちがいつもやってることの延長線上で、楽しくやった。進化し続けるワークショップのような感覚だったな。
 
ヴィンス 彼は常に温かく俺たちを迎え入れてくれた。厳格にオーディションしたりとか、そんな感じじゃなく、食事をオーダーしてくれたり……。彼のリビングルームでリハーサルしたこともあったぜ。いろんな機材を持ち込んでな。近所にキューバ料理のレストランがあってさ。今でもあるけど。
 
ダリル 今もあんの!? マジか!! あそこ好きなんだよ俺。
 
ヴィンス あぁ、最高だ。そこの料理をいつもオーダーしてくれて……。
 
ロバート キューバン・チャイニーズな。
 
ダリル そうそう! キューバン・チャイニーズ!
 
ヴィンス 当時働いてた人たちは、今でもいるんだぜ。
 
ダリル マジで!?
 
小川 アッパー・ウエストだよね。
 
ダリル そう、78th通りとブロードウェイ。
 
ヴィンス そこでいろいろ買い込んで、ひたすらプレイしまくったよな。サンドウィッチとかペリエとか、好きなものを買ってきてさ。
 
ダリル あぁ、オレンジーナとかな。じつは昨日ここ(東京)のスーパーでふと顔をあげたら目の前にオレンジーナがあったんだ。その瞬間、思い出したんだ。あの日、マイルスにオレンジーナを勧められて飲んだことを……。俺が何を言いたいのかっていうと、お前(ヴィンス)にマイルスを紹介された日のことさ。あのとき、マイルスとのオーディションをセッティングしてくれたよな。
 
ヴィンス あぁ。でも、そこはもっと詳しく話さなきゃダメだよ。
 
ダリル その話はもう何度もしてるじゃないか……。
 
ヴィンス いいじゃないか、言えよ。
 
ダリル じゃ、ひとつだけ言わせてくれ。お前が俺をマイルスに紹介してくれたとき、お前は……。
 
ヴィンス いいから、もう全部話しちまえよ。
 
ダリル わかったよ。じゃ最初から話そう。初めてマイルスに会った時の話だ。その日ニューヨークに到着してすぐ、ヴィンスに言われたんだ。「52nd通りと8thアヴェニューのハワード・ジョンソンズ・ホテルに行って、そこで待ってろ。電話するから」って。まるでスパイになったような気分だったよ。「そこで俺の電話を待て」なんてさ(笑)。で、ホテルで待ってたら電話が鳴って「今から言う住所をメモしろ」って(笑)。言われた住所に移動してしばらく待ってたら、でっかいリムジンが目の前に停まった。そこからヴィンスが出てきて、その後でマイルスが出てきた。2人がロビーに入って来て、ヴィンスがマイルスに俺のことを紹介してくれた。そしたらマイルスが俺を見て、ヴィンスを見て、また俺を見た。そしてまたヴィンスを見て、こう言ったんだ。「おいヴィンス、変な顔の男だな」って(笑)。そこで俺はマイルスに訊いた。「ジャコ・パストリアスを知ってます?」と。マイルスの答えはイエスだったから、俺はこう返したんだ。「彼(ジャコ)は、僕があなたに似てる、と言ってました」。そしたらマイルスは「……うん、確かに似ている。目の周りが」って(笑)。
 
小川 あははは。
 
ダリル で、そのあと一緒にエレベーターに乗って上階にあがるとき、俺がガムを噛んでたんだ。そしたらマイルスが「ガムを一枚くれ」っていうから、「いまのが最後の一枚だったんです」って答えたら、マイルスが「お前はニューヨークまでわざわざ来て、ガムを一枚しか買わなかったのか?」って(笑)。じつはそうやって俺をリラックスさせてくれてたんだよ。俺の顔が変だとか、そういうとこから始まって、最初から俺の緊張をほぐそうとしてくれてたんだ。すっごいチャーミングだろ? おかげでオーディションに対して恐怖は一切なかった。あなたの「不安だったか?」って質問の答えがここにある。彼は本当にチャーミングなやり方で、肩に手を回して、俺の緊張をほぐしてくれた。「この人はマイルス・デイヴィスなんだ」ってことはわかっていても、すごく温かい人だったから、その事実はあまり考えずに過ごすことができたんだ。偉人の前にいさせてもらってる、というよりも、その場にいていいんだって気分にさせてもらえたんだ。
 
ヴィンス マイルスはそういう相手の緊張感や不安に敏感だった。
 
小川 確かに、彼は温かくてチャーミングで……
 
ダリル そう、すごくファニーな人だった。あまりこのことについては語られないけど、彼は本当に優しい人だったんだ。あの(オーディションの)日、俺がプレイする前に彼がこう言った。「いいか? もしここでお前が採用されなくても、お前が下手だというわけじゃない。ただ俺が違うものをいま求めているだけ、ということだ」って。俺がまだ一音も発してないのに、先に俺の気持ちを考えてくれるなんて、普通じゃできない。彼の素晴らしい側面だ。
 
次回へ続く。

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