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Interview with 中島ノブユキ ジェーン・バーキンとの共作&共演に欧州も絶賛 取材・文/村尾泰郎
撮影/天田 輔

中島ノブユキ

INTERVIEW
INFORMATION

 作曲家/ピアニストとして、映画音楽、ジャズ、ポップス、クラシックなど多様なジャンルで活躍する中島ノブユキ。彼がフランスを代表する女優/シンガーのジェーン・バーキンと出会ったのは2011年のこと。
 東日本大震災直後、日本を心配して単身で来日したジェーンは、日本のミュージシャンたちと共演したが、そのなかのひとりが中島ノブユキだった。以降、両者は交流を深め、ジェーンからの呼びかけで、彼女と深い絆で結ばれたセルジュ・ゲンズブールの名曲を、中島がオーケストラにアレンジし、これをバックにジェーンが歌うアルバム『シンフォニック・バーキン&ゲンズブール』(2017年4月に発売)が生まれた。
 以来、ジェーンと中島はヨーロッパを中心に20公演ほど各地のオーケストラと共演。各国メディアの絶賛を受けつつ、ついに、この8月に初めて日本での公演が決定した。そんな中島ノブユキに、同プロジェクトの経緯や裏話を聞いた。


──今回、セルジュ・ゲンズブールの曲をオーケストラ・アレンジをするにあたって、どんなところにポイントを置きましたか?

「まず、ジェーン・バーキンの“声の入り方”です。オーケストラの音量とか、量感とか、サウンドのダイナミクスでジェーンの歌を鼓舞するのではなく、オーケストラが空間を作って、そこにジェーンの声がすっと入るようにする、ということですね。そのほうがジェーンも自然に歌えるので」

──それにしても、オーケストラのような分厚い音に、ジェーンの声が乗るというのは驚きです。

「そこはジェーンがいちばん驚いているかもしれないですね。この企画が決定したときに彼女が周りの人に話したら、みんな『オーケストラの音に負けちゃうんじゃないの?』って心配されたそうなんです。でも彼女の声って、思っている以上に強靭なんですよ。決して細いわけじゃない。オーケストラと共演したことで、彼女もそのことを自覚したんじゃないかと思います」

──「ジェーン・バーキンの歌唱」の魅力を具体的に説明すると?

「彼女は“自由気ままに歌っている”ふうに聴こえるんですけど、じつは、そうじゃない。たとえばレコーディングの時なんかに何度か歌ったものを聞き比べても、いつもきちんと同じタイミング、同じ音程なんです。リズムに乗っていないように聞こえたり、音程も当たってないように聞こえることがあるんですけど、よくよく聴くと、ものすごいところにピーンと当てたりして、独特のノリがある。それは無意識じゃなくて、ちゃんと意識してやってるんですよ。ピッチもすごく気にしていますしね」



──ゲンズブールの楽曲については、どんな印象を持ちましたか?

「一聴するとシンプルな流れに聴こえるんですよね。いわゆるポップスのかたちをとってないような気がするんです。つまり、Aメロがあって、Bメロがあって、サビがあって……みたいな段階を踏まない曲が多い。Aメロを繰り返して終わりとか。あるいはサビらしきものを繰り返して終わりとか。民族音楽的というか、ある種、子守唄的といってよい曲もあるかもしれません。構造的にはシンプルだけどメロディーとハーモニーの関係性はすごく細やかで、彼が生まれたロシア的な旋律の暗さとか深みを感じました。それは〈コク〉みたいなもので、今回はその〈コク〉が滲み出るような編曲を意識しました」

──今回の作品に限らず、編曲をする際に心掛けていることはありますか。

「自分はどちらかというと不器用なタイプだと思うので、豪華絢爛たる編曲よりは、歌に寄り添う、もしくは、楽器に寄り添う編曲が好きですね。それは、別の言葉で言えば『無理をしない』というか。各楽器のひとつひとつに歌えるフレーズを配置して、弾いている人が自然と音楽の中に入っていけるようにする。そうしたフレーズを組み合わせることで結果的に全体の響きを構築している、といったスタイルが好きなんです」

──「不器用だ」とおっしゃいましたが、これだけいろんなジャンルの作品を手掛けているのだから、むしろ器用だと思うのですが……。

「いやあ、全然幅広くないですよ(笑)。つまみ食い的にいろいろ聴いているかもしれないですけど、そのなかで好きなものがものすごく限られている。たとえばジャズはすごく好きですけど、ジャズのすべてを理解しているわけじゃないですし」

──ちなみにジャズではどんなアーティストがお好きなんですか。

「いちばん好きなピアニストはレニー・トリスターノです。テープスピードをいじったり、多重録音をしたり。そういう実験精神があって、テクノロジーに対して柔軟なところが好きなんです。僕は10代の頃からテクノが好きだったんですけど、テクノロジーをどう使うか? という発想が音楽性を作り上げていることに興味を惹かれるんです」

──ご自身が作曲をする際に意識していることはありますか。

「僕は柔らかい音楽ではなく、むしろ厳しい音楽を作りたいと思っているんです。でも、どうも世間には柔らかく伝わってしまうみたいで(笑)。まだまだ甘いんだなって思います。もちろん、作品として世に出てしまえば、どう聴かれようと自由ですからね。聴いてくれた人が“癒される”と思ってくれるのであれば、それは“自分には見えていない面を聴いてもらえているんだな”と思います。いろいろな感じ方で聴いてもらえることは、もちろん嬉しいことです」



──個人的な感想を述べさせて頂くと、いま中島さんがおっしゃった“厳しさ”は「品」として楽曲に現れている気がします。親しみやすいメロディーのなかにも、ピンと張りつめた緊張感を感じます。

「それはとても嬉しいですね。そうありたいと思っていますから」

──8月19日に東京・Bunkamuraオーチャード・ホールで行われるコンサート『シンフォニック・バーキン&ゲンズブール』は、どういったものになりそうですか?

「東京公演は今までのヨーロッパの都市とはまた違う特別なものになると思います。やっぱり、ジェーンの気持ちは日本の人に向いていますからね。日本のこと、そして日本人のことを愛しているし、また本人も日本から愛されていると感じているはずですし。あと、今回のアルバムにはCDの容量の関係で収録できなかったんですけど、ジェーンが特に大切にしている曲を繋げたメドレーがあって、それも披露すると思います。また、それとは別にアルバムに入っていない、とっておきの1曲も演奏する予定です」

──それは楽しみです。最後に中島さんから見た“素顔のジェーン・バーキン”を教えてください。

「世間では“自由に生きている人”みたいなイメージで語られることも多いですけど、それは本当だと思いますね。ジェーンの愛犬のブルドッグを追いかけて、ホテルの部屋から下着姿で出て来たところを目撃したこともあります(笑)。そうやってジェーンが自由でいられるのは、フランスの人たちが彼女を自然に受け入れているからだと思いますね。フランスのある都市でリハーサルをした後、スタジオの近くのカフェにみんなで行ったら、ジェーンが店に来ても誰も驚かないんですよ。みんな初めて彼女に会うのに気軽に『ボンジュール、ジェーン!』って挨拶する。だから、ジェーンも身構えずにすむ。なんて良い関係なんだろうって思いましたね」





『バーキン—ゲンズブール ザ・シンフォニック』日本公演
http://janebirkin-japantour.com/

アルバム『シンフォニック・バーキン&ゲンズブール』
http://wmg.jp/artist/janebirkin/

 

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