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Interview with マイク・スターン 両腕を骨折。接着剤でピックを指に装着…
逆境が生んだ傑作『TRIP』制作秘話
取材・文/林 剛

マイク・スターン

INTERVIEW
INFORMATION

ジミヘンのようなモードで弾け

 
——今回のライブ(ブルーノート東京にて「マイク・スターン/ビル・エヴァンス・バンド featuring ダリル・ジョーンズ&サイモン・フィリップス」名義で出演)では、最後にジミ・ヘンドリックスの「Red House」を披露していました。以前、マイルスから「ジミ・ヘンドリックスのように弾け」とも言われたそうですが。
 
「そうそう! でも、ジミ・ヘンドリックスみたいに弾くのではなく、プレイ・スタイルはあくまでも自分流を保持しながら“ジミヘンみたいなアティテュードで弾け”っていうことなんだ。つまり、そこに込める熱をジミヘンみたいにしろ、ってこと。それで、あまりにも自分のやり方になりすぎてマイルスに文句を言われたこともあったけど(笑)、最終的に自分が信じた音をやり続けたらマイルスも納得してくれたよ」
 
——あなたが参加したマイルスの『The Man With The Horn』(81年)のオープニング曲「Fat Time」は、当時のあなたのニックネームだと聞いていますが。
 
「それも本当だ。マイルスが僕につけたニックネームが“ファット・タイム”だった。それは自分が太っていたからでもあるし、僕の“タイムフィール”を気に入ってくれてたっていうことでもあるんだ。あの曲は、すごく長いギター・ソロがあって、それは満足のいくプレイではあった。でも、緊張していたこともあって、完璧にしたくて『もう一回やらせてくれないか?』って訊いたら、マイルスにこう言われたんだ。『パーティに行ったら、いつ帰るかっていう引き際を知らなきゃダメだ』って(笑)。つまり、やりすぎちゃダメだってこと。それであのギター・ソロになったんだ。素晴らしい記録になったと思ってるよ」
 
——あなたは83年に初リーダー・アルバム『Neesh』を出します。この作品の邦題が『ファット・タイム』になっていることを知っていますか?
 
「え? マジで? それは知らなかった(笑)。でも、それでいいと思うよ。あのアルバムは我ながらすごくいい仕上がりだと思っていて、自分が書いた曲を、好きなミュージシャンたちと一緒にプレイできることの素晴らしさを実感した。まあ、実感したのは、ずっと後になってからだけどね。当時のレコード会社とクールな関係でいられたことにも感謝しているよ」
 
——あなたは、非常にオリジナルな存在感のギタリストだと思います。例えば音色の面で、心がけていることはありますか?
 
「自分のギターと誰かが歌っているような音。あと、ホーン・セクションのような音を出したいと思っていて。例えばディストーション、エフェクトを使っても使わなくても、自分のプレイではそんな音を目指しているんだ」
 
——愛器はヤマハのシグネチャー・モデルですよね。
 
「そう。ボストンのバークリー音楽大学時代には、僕の地元でもあるワシントンDCのギタリスト、ダニー・ガットンからロイ・ブキャナンが使っていたギター(テレキャスター)を貰って、それを使っていたんだ。ところが、あるときバス・ターミナルで銃を突きつけられてギターを盗られてしまった。で、それを知った人が似たような音を出すギターを作ってくれて、その後でヤマハから僕のシグネチャー・モデルを作らないかと言われたんだ」
 
——いつもステージ衣装が黒なのは?
 
「自分が持っているのは黒だけ。生まれた時から着てたって言ってもいいかもしれないね(笑)」
 
——40年以上の長きにわたって、聴衆を刺激し続けられるのは稀なことですが、それができた理由を自己分析すると?
 
「作品を作るたびに全身全霊を込めているし、本当に必死になってやっているんだよね。曲作りもそうだし、人選とかのオーガナイズの部分から全て自分でやってきた。そもそも音楽自体がエンドレスだと思っていて、音楽のことを知れば知るほど、知らないことがいっぱいあるんだってことに気づく。それってフラストレーションが溜まることでもあるんだけど、音楽を学ぶってことは、終わりなき旅でもあるんだよね」
 


 
 
『TRIP』
マイク・スターン

9月8日発売
ユニバーサルミュージック
 
http://www.universal-music.co.jp/mike-stern/products/ucco-1191/