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Interview with マシュー・ハーバート 早くも日本公演決定! マシュー・ハーバートの新プロジェクト 取材・文/村尾泰郎

マシュー・ハーバート

INTERVIEW
INFORMATION

 実験的な音作りや、シリアスな社会的メッセージを込めたアルバムなど、きわめて今日的かつ独創的な音楽家として知られるマシュー・ハーバート。これまで、いくつもの名義でコンセプチュアルなエレクトロ作品を発表してきた彼だが、なかには「ビッグ・バンドの生演奏」に力点を置いたプロジェクトも存在する。
 2003年に始動した「マシュー・ハーバート・ビッグ・バンド」がそれである。ビッグ・バンド・ジャズとエレクトロニカを融合させた同プロジェクトは、すでに2枚のアルバムを発表(最新作は2008年)。
 ところが今夏、これまでのビッグ・バンドとは編成もコンセプトも違う「マシュー・ハーバート・ブレグジット・ビッグ・バンド」なるプロジェクトが突如、ヨーロッパのフェスに出演。バンド名に「ブレグジット(Brexit)」の文字が加わった、このプロジェクト。彼の生まれ故郷であるイギリスの「EU離脱」と関係していることは察しがつくが、バンドの実態はどんなものなのか。
 すでに決定している来日公演(ブルーノート東京/モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン2017)を前に、本人を直撃した。
 
 
——さっそくですが、今回、新たに結成した「マシュー・ハーバート・ブレグジット・ビッグ・バンド」のコンセプトについて教えてください。
 
「イギリスでは、いまもEU脱退のショックが尾を引いているんだ。僕自身もすごく衝撃を受けたよ。ちなみに僕が生まれたのは1972年。イギリスがEUに加入したのは73年だから、これまで僕の人生はEUと一緒だった。僕は小さな村で生まれたから、ヨーロッパを自由に旅することに憧れていたし、(EUの存在は)とても大きなギフトだと思っていた。それができなくなることはショックだったよ。だから、ミュージシャンが国境を越えて自由に移動してコラボレートできた状況を、もう一度、大切にしたいという思いから、このプロジェクトをスタートさせたんだ」
 
——そのメッセージを伝えるために、なぜビッグ・バンドという形態を選んだのでしょう。
 
「テリー・イーグルトンというイギリス人の哲学者がいるんだけど、彼が『ビッグ・バンドは人間の生活や人生を最もうまく表現しているメタファーだ』と言っているんだ。というのは、全員が自分の役割を果たさなければビッグ・バンドは成り立たない。そして同時に、個々が自分を表現する自由がそこにある。そんなビッグ・バンドの在り方が、自分が表現したいことにピッタリだと思ったんだ」
 
——なるほど。ビッグ・バンドは共同作業と個人の自由のバランスがとれているんですね。ということは、ブレグジット・ビッグ・バンドに関しては、多くの人が参加することが重要な要素なのでしょうか。
 
「そうだね。コラボレーションというのがいちばん重要なところだから、今回の日本公演ではメンバー全員を連れてくるのではなく、参加するミュージシャンを日本からも集めようと思っているんだ」
 
——国境を越えてミュージシャンが集うブレグジット・ビッグ・バンドは、あなたにとって音楽版EUみたいですね。
 
「その通り! うまい表現だね(笑)。僕は政治について議論するより、自分が考えていることを実践するのが重要だと思ってる。こういうやり方もあるんじゃない? という可能性をみんなに提示したいんだ」
 
——これまでのビッグ・バンドと、今回のブレグジット・ビッグ・バンド。両者にサウンド面の違いはありますか。
 
「まず、合唱隊が加わったこと。これは民主主義の現れともいえる。というのは、楽器は誰もが弾けるわけじゃないけど、歌うことなら誰でもできるだろ? 合唱隊は参加者に向けて開かれたパートなんだ。あと、ビッグ・バンドより音は抑えめで内省的。シリアスな感じがあるね。いま、世の中が危険な状況だから、それを反映させたサウンドになっている。これまでビッグ・バンドのアルバムは2枚出しているけど、それが春と夏だとしたら、ブレグジット・ビッグ・バンドは秋だ」
 
——過去のビッグ・バンド作品でも、ジャズとエレクトロが巧みに融合していました。この2つの音楽性を融合させる上で、何か注意を払っていることはありますか
 
「僕がジャズ・ミュージシャンをリスペクトしているのは、彼らの楽器の演奏力の高さなんだ。練習を重ねて演奏力を磨いている彼らに対して、エレクトロは楽器(装置)があれば、誰でもそれなりの音を出せてしまう。その点を考えると、ジャズ・ミュージシャンとエレクトロ奏者のバランスは悪い。だから、ジャズ・ミュージシャンと並んで演奏する以上は、エレクトロ側が自分の立ち位置を模索する必要があると思うんだ。お互いの間のとり方が、最大のポイントになるんじゃないかな。そして、エレクトロ側は、エレクトロにしか出来ないことをやるのが大事だと思う。例えば、演奏力のあるドラマーに、打ち込みのビートをなぞってもらうなんて意味がない。ジャズ・ミュージシャンとエレクトロ、それぞれにしか出来ないこと、それぞれが得意なことを追究しながら、お互いが寄り添っていくのが大事なんだ」
 
——そんななかで、合唱隊はどんな役割を果たしているのでしょうか。
 
「まず、スケール感を出すこと。音楽的な面だけではなく、舞台を人で埋めて圧倒したいんだ。そして、僕の存在感を消してしまいたい。ライブでは、伝えたい音楽とアイデアだけがステージで表現されればいい。自分自身はあまり注目されたくないんだ。それに、ステージで僕ひとりが『トランプ政権反対!』なんてメッセージを伝えるよりも、合唱隊やバンドといった大勢の人たちが一緒にメッセージを伝えるほうがインパクトがあるからね」
 
——この名義で、11月に来日公演を予定していますね。
 
「そうだね。モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパンと、ブルーノート東京。このふたつに出演予定だ」
 
——ふたつのステージは、それぞれサイズ感や雰囲気も違いますが、パフォーマンスの内容は変わりますか?
 
「そうだね。モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパンは、いわゆる“フェスのステージ”だからね、音量も豊かに、派手にやりたいと思っているよ。一方、ブルーノート東京のほうは音量を抑えめにして、繊細なプレイをやってみたい。客席も近いし、ステージで行われていることが観客に見えやすいからね。まだいろいろ考えているところだけど、すごく楽しみだよ」
 
 



モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン
http://www.montreuxjazz.jp/
 
ブルーノート東京
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/matthew-herbert/

 

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