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Interview with ジョイス・モレーノ ドリヴァル・カイミのカバー集「私自身のために作ったアルバムです…」 取材・文/江利川侑介
写真/LeoAversa、衣斐 誠

ジョイス・モレーノ

INTERVIEW
INFORMATION

 ボサノヴァを体現する女性シンガーソングライター、ジョイス。毎年この時期に来日する彼女は、日本人にとって最も馴染みのあるブラジル人音楽家である。2017年9月の来日公演(コットンクラブとブルーノート東京)、そしてブラジルを代表する作曲家ドリヴァル・カイミを取り上げた最新作『Fiz Uma Viagem ある旅をした』について話を聞いた。



——ショウを拝見しましたがバンドのグルーヴが凄かったです。このメンバーではどれくらい演奏しているのですか?

「夫でもあるドラムのトゥッチ・モレーノとは40年。ベースのホドルフォ・ストロエテールとは20年。ピアノのエリオ・アウヴェスとは10年演奏しています。友達のようなものですね」



——今回は、2000年代初頭のサンバ復興ムーブメントを代表するミュージシャンでもある、ペドロ・ミランダもゲストに迎えていましたね。

「この公演のテーマが“サンバ100周年”ということで、彼を起用しました。ペドロとは知り合ってもうかなり長くて、ブラジルではお互いのショウやプロジェクトに参加し合う仲。“サンバ100周年”を機に、過去を振り返るだけではなく未来も見つめたかった」

——これまでにも、新世代のブラジル音楽家とともに日本公演をおこなっていますね。いまやブラジルを代表するピアニストとなったアンドレ・メマーリとか。

「若い人には常に注目しています。ただ『“私たちの世代”とは、いま生きている人たち全員である』と友達の詩人が言ったのですが、まさにその通りで、年齢は関係ありません。1991年から毎年ブルーノートでショウを行なっていますが、その中にはボサノヴァを代表する音楽家であるホベルト・メネスカルやジョニー・アルフ、カルロス・リラもいて、彼らは私より上の世代です。それから同世代ではイヴァン・リンス、そして今回は若いペドロ・ミランダを連れて来ました。才能さえあれば誰でもあり得ます」



——逆に、若いミュージシャンから声をかけられることもあるのでは?

「そうですね。新しい世代が私の音楽を知ってくれて、触発されることもあるみたい。ただ、ブラジルは国土も広いし、約2億人の国民がいて、私のことはおろかアントニオ・カルロス・ジョビンの存在すら知らない人も大勢いる。そんな彼らが聴いているのは“ブラジル音楽”とは呼べないような、いわゆる工業製品的な音楽で、もちろん、そういう人たちは何万人規模で集まってジャンプしていればいいんだけど(笑)、私の手工芸品的な音楽とは根本的に違うものですね」

——新作『Fiz Uma Viagem ある旅をした』は、まさに手工芸品のような美しさを持った作品だと思います。このアルバムは、20世紀を代表するブラジルの作曲家であるドリヴァル・カイミのカバー曲集ですが、どんな意図で制作されたのでしょうか?

「2016年の年末に、トゥッチ・モレーノとホドルフォ・ストロエテールが、アンドレ・メマーリ、ナイロール・プロヴェッタとともにオスロ(ノルウェー)にあるECMのレインボー・スタジオでカイミ曲集を録音したんです。そのときスタジオをたっぷり押えてあったので私も録音しないか? と言われてオスロに行ったんです。昨年、私のオリジナル曲だけでアルバムを作ったばかりなので、次はカバー・アルバムがいいと思っていて。彼らがカイミを題材にするなら、私もカイミで! という感じで決めました。カイミは私にとっても子供の頃から大好きな作曲家だったので、愛着のある曲を思いつくままにレパートリーに選んで、誰かに向けてというよりは私自身のために作ったアルバムです」




——あなたにとってドリヴァル・カイミはどんな存在?

「カイミの音楽はとても普遍的なものです。フォークロアの要素もあるけど一方でとても洗練されています。先祖とか、フォークロアとか、聴いている人の心の奥底に眠っている古い記憶を呼び起こすような、そんなところが魅力ですね」

——ブラジルでは本当にたくさんの人がカバーしていますね。カイミ本人以外では誰のバージョンが好きですか?

「彼らの子供たちのバージョンですね。3人ともそれぞれ違う方法で取り上げています。ドリ・カイミはよりミュージシャン向けです。構築していくようなイメージでハーモニー、アレンジ、ギターなども新しい解釈で再掲示しています。ダニーロ・カイミはよりポップ。そしてナナ・カイミは真の歌手なので、よりエモーショナルです。表現者によっていろいろな解釈がありますね」


 時代とともにさまざまな表情を見せ、人々に長く愛され続ける。そんな普遍的な魅力を持つカイミの曲は、カバーする人のカラーが如実に反映されるとも言えるが、誰のためでもなく自身のために制作したという本作のカラーは「自然体」ということになるのだろう。レインボー・スタジオでの録音、そして巨人カイミのカバーというのは彼女にとってもチャレンジであったはずだ。にも関わらず、自然と湧き上がるインスピレーションに忠実だったからこそ、神話的な魅力を放つカイミの楽曲がジョイスの醸し出す心地よい空気と戯れている。そんな深みと和みの躍動が、思わず何度も聴いてしまう本作の魅力なのだと思う。





ジョイス・モレーノ
『Fiz Uma Viagem ある旅をした』
Rambring RECORDS
 ¥2500(税別)

http://www.rambling.ne.jp/catalog/fiz-uma-viagem/