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Interview with ムーンチャイルド S.ワンダーやグラスパーも魅了する新世代の実力派 取材・文/林 剛

ムーンチャイルド

INTERVIEW
INFORMATION

 南カリフォルニア大学(USC)のジャズ・コースで学ぶ男女のホーン奏者で結成されたムーンチャイルド。ジャズやソウルを基盤にしてメロウな音を紡いでいく気鋭のトリオが、昨年の初来日に続き、新作『Voyager』を引っ提げて再び来日。東京都内でライヴをおこなった。
 穏やかながらも弁の立つアンドリス・マットソン(キーボード/トランペット/フリューゲルホルン)と、寡黙なマックス・ブリック(キーボード/アルト・サックス/フルート/クラリネット)。そして、喉を痛めながらも最高の笑顔で“スマホ筆談”をしてくれた紅一点のアンバー・ナヴラン(ヴォーカル/テナー・サックス/クラリネット)。3人そろって自分たちの音楽を語ってくれた。


——まず、このグループ名の由来から教えてください。

アンドリス 3人が出会ったのは5〜6年前のことなんだけど、あるツアー中、一緒に夜空を眺めていた日があって、それが忘れられなくてムーンチャイルドという名前にしたんだ。

——デビュー作『Be Free』(2012年)でアレサ・フランクリン「デイ・ドリーミング」のフレーズを挿んでいましたが、あなたたちの音楽はまさに“白昼夢”といった印象を受けます。

アンドリス アレサの曲を織り交ぜたのはアンバーのアイディアなんだ。ピアノで参加してくれたラッセル・フェランテ(イエロージャケッツ)はUSCの時のピアノの先生でもあるんだよね。

——そうでしたか! そういえば、ラッセル・フェランテをアイドルとするジェイムズ・ポイザーがDJジャジー・ジェフと一緒にあなたたちの曲「Be Free」と「The Truth」のリミックスを手掛けていましたよね。

アンドリス そうなんだよ! ジャジー・ジェフがツイッターを通して僕らの音楽を発見してくれて、LAで会った後、彼に曲を送ったら「Be Free」を選んでリミックスのトラックを送り返してくれたんだけど、そこにリミキサーとして一緒に名前が入っていたのがジェイムズ・ポイザーだった。ネオ・ソウルにおいてジェイムズはすごく大きな存在なので嬉しかったよ。

——前回と今回の来日公演ではエリカ・バドゥの曲を、今回はジル・スコットの曲も交えて歌っていましたが、やはりネオ・ソウルはムーンチャイルドの音楽にとって欠かせないものだと?

アンドリス 実際にたくさん聴くし、影響を受けている音楽はネオ・ソウルだから、やっぱり自然に自分たちの音楽の中に出てくるよね。もちろん“ネオ・ソウルを作ろう”と意識しているわけではなくて、自分たちが好きなものを作っているだけなんだけどね。

——アンバーの清涼感のあるラヴリーな声も音楽性とマッチしています。

アンバー じつは歌い始めたのは大学に入ってからなの。エリカ・バドゥ、ジル・スコット、エミリー・キング、ネイパーム(ハイエイタス・カイヨーテ)、エラ・フィッツジェラルド、ナット・キング・コールなんかに影響を受けたわ。

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——それにしても、3人がホーン奏者で、うちふたりがキーボード、ひとりがヴォーカルを担当するという編成はユニークですよね。

アンドリス もともとビートを作ることから始まったバンドだから、ドラムはプログラミングでどうにかなるので必要なかったんだ。

アンバー そう。でも、ライヴでは生のドラムが必要なのでドラマーを雇っている。ムーンチャイルドは3人のソングライターの集まりでもあるのよ。

——音は抑制されているけどリズミカルですよね

アンドリス そうなんだ。僕らの音楽にとってリズムは重要。リズムがないと、踊りたい気分にさせたり、何かを感じさせたりできなくなるからね。

——Tru Thoughtsレーベルから再発されたセカンドアルバム『Please Rewind』(2014年)は、ファーストよりアレンジに凝ったとのことですが。

アンドリス ファーストの時は何もわからないまま、ただやってみるって感じだったんだけど、セカンドの時はLogicの使い方にしてもプログラミングにしても、使い方を心得ていたことが音楽に反映されたんだと思う。シンセは、モーグのボイジャーとか、プロフェットとかを使っているよ。

——通算3作目となる新作『Voyager』は、先行曲“Cure”を筆頭に、ベッドルーム的な密室感と大自然の開放感のせめぎ合いが神秘的ですが、カリフォルニアのレイク・アローヘッドの山荘でもレコーディングしたのですよね。

マックス 本当に湖がすぐ隣にあるような場所で、鳥の鳴き声を録音して、それをトラックのバックに入れたりしたよ。3週間みんなで同じ空間にいたことはすごく大きくて、3人で料理を作ったりしながらリラックスしてやってたんだ。そうした落ち着いた感じがサウンドにも出たと思う。

——ハープやギターも入ってオーガニックな質感が強まり、音の奥行きも増したような印象を受けます。

アンドリス そうだね。新しい雰囲気をもたらしてくれたと思うし、僕自身もハープやギターの音が気に入っているよ。

——アルバム・リリースに先駆けて、影響を受けた曲のプレイリストをSpotifyで公開していましたよね。

アンドリス そう。例えばディアンジェロの「Sugah Daddy」は「The List」のドラムのグルーヴに影響を与えたし、フライング・ロータスの曲は「Run Away」に影響を与えているよ。

マックス スティーヴィ・ワンダーの「Please Don’t Go」は「Hideaway」に影響を与えたんだ、歌詞の面でね。



——歌詞は、あらゆる意味における愛がテーマ?

アンバー そう。ひたすら愛について歌っているわ。自分の経験、それに友達の経験に基づくものだったり。「Cure」のメイン・メッセージは「心の痛みにいちばん効くのは愛よ」ってこと。「Every Part(For Linda)」は母についての歌よ。

——『Voyager』というアルバム・タイトルは、コズミックな音をシンセで奏でていることもあって、77年に打ち上げられた宇宙探査機のことを意識したのかな、と

アンドリス その通り。もちろん単純に“航海者”と受け取ってくれてもいいしね。

——ローランド・ルフォックスによるアルバムのアートワークは見事にその音世界を視覚化していますね。

アンドリス そうだよね。レーベルからの提案だったけど、自分たちも彼のアートのファンだったんだ。

——先ほどのSpotifyのプレイリストではラプソディの曲も選んでいましたが、アンバーはラプソディの新作『Laila’s Wisdom』で「Jesus Coming」に客演していますよね。

アンドリス そう。彼女が所属するJamlaは9thワンダーのレーベルなんだけど、彼が僕らのファンで、ラプソディに僕らの音楽を教えてくれたことがきっかけなんだ。

アンバー スタジオに行ったら9thワンダーが「Jesus Coming」のトラックを作っていて、“歌ってみる?”って言われたの。それをラプソディが気に入って採用されたのよ。

アンドリス あと、「Nobody」では僕らの曲がサンプリングされているね。

——ラプソディのアルバムにはテラス・マーティンやアンダーソン・パークも参加していますが、いま、LAのシーンは活気がありますよね。

アンドリス イエ〜! その通り。すごくクールなシーンだと思う。コミュニティが小さいから、お互いが深く理解しあって、サポートしあっている。そうやって音楽が発展していくのはいいことだよね。

——2015年にはアンドリスがワイルドフラワー名義でEP『Water』を、2016年にはマックスがEP『Reverie』を出していました。これらが『Voyager』に何か影響を及ぼしましたか?

アンドリス 直接的にではないけど、その影響は自然に出てくるよね。僕のEPは水がテーマで、すべての曲が水に関することからインスパイアされたものなんだ。水はシンセでも表現しやすかったね。

マックス 僕のEPはドビュッシーに影響されたもので、タイトル(夢想)もドビュッシーの曲から持ってきた。まさにドリーミーな曲を作りたくてね。

——アンバーは、バンド結成前の2011年にアンバー・ナヴラン・バンド名義でEPをリリースしていましたよね。

アンバー そうなの! じつは私も新しいEPを10月に出すの。『Speak Up』っていうタイトルで、ビート・ミュージックって感じかしら。フロエトリーの「Say Yes」をカヴァーしているわ。

——ムーンチャイルドとしての次のアルバムは?

アンドリス まだわからないな(笑)。いまはツアーで忙しいので、それが終わったらアルバムを作り始めるよ。






Moonchild
『Voyager』

http://www.beatink.com/Labels/Tru-Thoughts/Moonchild/BRC-549/