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Interview with 菊地成孔 MJFJ2017でアクセル・トスカとのプロジェクト決定!
「NYで活躍するイミグランツだから絶対上手ってのは分かってます…」
取材・文/三浦信

菊地成孔

INTERVIEW
INFORMATION

 ジャズは節操のないもので、自身のことも雑食系と菊地成孔は称する。スタイルの変遷を遂げたジャズ100年の歴史は、融合の歴史でもあったと言えるだろう。その侵食の対象として真っ先に頭に浮かぶのは、やはり中南米の音楽。とりわけブラジル、アルゼンチン、キューバといった3つの音楽大国と、音楽家・菊地成孔との関係は如何に? 文化論や民族論といった期待通りの脇道に逸れながら、菊地成孔ならではの考察を聞く機会を得た。

「ブラジル音楽に関していえば、ジャズミュージシャンである以上、当然通過するわけで。『GETS / GILBERTO』をはじめ、めっちゃ聴いてますよ。特にミナス派あたりはかなり好きです。ただ自分の活動に分かり易い形で反映させるというよりは、聴く対象として楽しんでいるという方が正確かもしれないですね。ジャズの影響を受けたと言い伝えられるボサノヴァはクラシックの影響だって受けているし、サンバだってアフリカのポリリズムがどんどん洗練されていった音楽だと思うし、そういう混血の音楽としての魅力があると思います。ジャズの影響関係の相手としてブラジル音楽は見られがちだけれども、そもそもブラジル音楽もジャズ以外の何らかの影響を受けている。ただこれって全部手仕事同士の関係なんですよね。ジャズとブラジル音楽との関係性に限らず、あらゆる音楽は融合することでの進化を経てきたけれども、例えば最近取り沙汰されるジャズとヒップ・ホップの融合は、手仕事と結びつく対象がマシーンとなっている。そういう融合の形そのものが変わる時代に今あるわけで。反対に限定的なスタイルを貫くピュアリストの動きもいいとは思うけれど、そういうジャンルミュージックとしての表現を僕はしないですね。日本のジャズ界が村っぽい体裁をしているひとつの理由でもあるし、むしろワールドミュージックや現代音楽を聴く人がもっと増えたらこの村の様相も少しは変わってくると思いますよ」

 ブラジル音楽に対してはある意味一定の距離を保つアチチュードとは対象的に、菊地成孔がぐっとにじり寄った感があるのは『南米のエリザベス・テイラー』に代表されるアルゼンチン音楽の影響だろう。実際この3つの国の中で滞在したことがあるのはアルゼンチンのみだという。この代表作に至るまでの経緯を本人はこう振り返る。

「当時はまだ雑誌エスクァイアの日本版が存在して、その特派員としてアルゼンチンに行ったんですよ。当時はフェルナンド・カブサッキとかフアナ・モリーナなどアルゼンチン音響派が注目されていた時期で。当然その辺りのポストモダンなシーンを現地で紹介されていくんですけれど、実際自分が感動したのはトラディショナルなタンゴが演奏されるボカ地区のタンゲリーアでした。日本に連れていかれた外タレのミュージシャンが、結果歌舞伎座とか能楽堂で感動したっていうのに近いですよね。もう死にそうなおじいさん達が蝋人形のように演奏している。そんな様子にあってタンゴそのものの魅力、例えば緩急の付け方とかグルーヴの訛りとか、あとはエロさですよね。淫靡で内包的なエロティークがそこにはあって。アルゼンチンってすごいヨーロピアンな国なの知ってます? 9割以上は白人の国。公用語はスペイン語なのに、オペラ座の中ではイタリア語が使われるし、バンドネオンだって元々はドイツが発祥。そういうことを知り得る機会となった滞在を経て作ったのが『南米のエリザベス・テイラー』とその後に続くペペ・トルメント・アスカラールの活動なんです。僕が当時実践したのは現代音楽のような響きとリズムを取り入れることですね。普通タンゴにパーカッションは入りませんから。ピアソラが登場してリズムに緩急を施したように、パーカッションを入れることでアフロ・アルゼンティーナと言えるような感じにしたかった。そうすることでポリリズムが生まれるので。あとはサックス。アルゼンチンでサックスっていえばガトー・バルビエリくらいしか思い浮かぶ人いないでしょう。サックスとほかの楽器がユニゾンのラインを伴ってリズミックにメロディーを構成していく。つまりは元々やっていた自分の音楽的追求に、アルゼンチンきっかけで沸いたエロさの追求があの作品だったんです」

 まさにディケイド論として10年前の作品が紐解かれる形となったが、今この瞬間に注目したいのが菊地成孔とキューバ音楽の接触だろう。監督の高橋慎一がキューバ音楽の歴史的瞬間に立ち会った映画『Cu-Bop~New York music documentary』を絶賛したことは菊地ファンであれば知るところだが、モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン 2017でその映画の主演にしてキューバの新星アクセル・トスカと共演を控える今、菊地成孔の眼に映るキューバ音楽とはどんなものなのだろうか?

「ジャズとの融合と技巧性という意味で言えば一番の国ですよね。北朝鮮を除けば一番最後の共産圏で、時が50年代で止まったような街。そして超絶に上手いミュージシャンがゴロゴロいるのは報奨金の制度があるからなんですよ。コンペで勝てば家族みんなを食わせてやれるっていう。社会主義の国ならではの話ですよね。映画『Cu-Bop〜』の魅力は、キューバ危機以降もアメリカに残ったキューバ人が本国に戻ることなんて絶対的困難な事実を前提に行われたセッションだったから。当の本人たちはそのすぐ後にオバマとカストロの弟が握手して国境回復を宣言するなんて想像もしてなかったでしょけどね。そもそも”Cu-Bop”って言葉もシーンもキューバ危機以前のニューヨークに実在していて、例えばコカインの密売をやっていたパーカッショニストのチャノ・ボソが殺された逸話なんかも残されていますよ。まぁそれはアメリカを舞台にした話なので視点をキューバに戻すとアフロ・キューバンというくらいキューバは最もアフロ=アフリカに近い国。実際経線上キューバから並行移動して辿り着くのは西アフリカで、アフリカの中でも一番ポリリズムが豊かな地帯なんですよ。これは推測でしかないんだけど、こういう国としての位置関係も絶対影響があると思う。つまり元来アフリカのリズムの血を信仰として持ち、そのポリリズムの構造をダイレクトに体質化している。だから作る曲も複雑で、アフリカンルーツとキューバンルーツが合わさって、確かな教育も施されたうえで、でも音はストリート寄りみたいな。これがキューバ音楽の魅力と言えるでしょうね。今度モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン 2017で共演するアクセル・トスカに関していえば、お母さんとは仕事したことあるんですよ。シオマラ・ラウガーっていう世界的なシンガーで。彼は初めてだけど、ニューヨークで活躍するイミグランツだから絶対上手いってのは分かってます。でもアップダウンの差が激しいっていう話も聞いてるので僕なりにテンションを与える誘導をしました。リズミックな工夫が入ってる僕の曲を、僕のメンバーの中に入ってもらうことでどんな化学反応が起きるか?それは実際のステージで確認してもらえればと思います」


モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン 2017
http://www.montreuxjazz.jp/



菊地成孔 Naruyoshi Kikuchi

1963年生まれの音楽家/文筆家/大学講師。音楽家としてはソングライティング/アレンジ/バンドリーダー/プロデュースをこなすサクソフォン奏者/シンガー/キーボーディスト/ラッパーであり、文筆家としてはエッセイストであり、音楽批評、映画批評、モード批評、格闘技批評を執筆。ラジオパーソナリティやDJ、テレビ番組等々の出演も多数。2013年、個人事務所株式会社ビュロー菊地を設立。