投稿日 : 2016.11.25 更新日 : 2018.11.30

『ブルーに生まれついて』

タイトル
ブルーに生まれついて
監督
ロバート・バドロー
配給
ポニーキャニオン
公開日
2016.11.26

“ジャズ界のジェイムズ・ディーン”と呼ばれて一世風靡しながら、麻薬で身を滅ぼしたチェット・ベイカー。その波乱に満ちた人生は、映画の題材にはうってつけかもしれない。かつて写真家のブルース・ウエーバーが監督したドキュメンタリー映画『レッツ・ゲット・ロスト』(1988)が話題を呼んだことがあったが、今度はイーサン・ホーク主演でドラマ化された。

映画『ブルーに生まれついて』で描かれるのは、チェットが栄光からどん底へと転落した60年代。麻薬がらみで公演先のイタリアで投獄されたチェットは、アメリカに帰国すると自伝映画にみずから出演。そこで共演していた黒人女優、ジェーンと恋に落ちる。しかし、麻薬と縁が切れないチェットは麻薬の売人に暴行を受け、前歯のすべてを失うなどトランペット奏者にとって致命的な怪我を負ってしまう。それでも、トランペットを捨てられないチェットは、ついに麻薬を断ち切ってリハビリに励むが、その道のりは険しかった。

ジャズに情熱を注ぎながらも、麻薬の誘惑に負けてしまう弱さを持つチェット。初めて憧れのバードランドで演奏した時の回想シーンでは、敬愛するマイルス・デイヴィスから痛烈な批判を受けて立ち直れないくらい傷ついたりもする。そんなチェットを、イーサン・ホークは孤高の天才というより、複雑な内面を持ったナイーヴな男として演じている。さらにホークはトランペットとヴォーカルの猛特訓を重ねて、吹き替えなしで演奏と歌を披露しているのも話題のひとつだ。とくにクライマックスで「I’ve Never Been In Love Before」を歌うシーンでは、技巧よりニュアンスが重要なチェットの歌を、デリケートな歌い回しで表現している。

また本作はチェットのミュージシャンとしての苦悩を描く一方で、彼の才能を信じて支え続けるジェーンとの切ないラヴストーリーにも焦点を当てている。苦境に追い込まれながらも、ジャズとジェーンを愛することで自信を取り戻していくチェット。その束の間の幸福な日々は、シャボン玉のようにパチンと弾けそうな危さもある。そんななか、バードランドでの復帰公演が決まるが、そこにマイルスが現れる。チェットはプレッシャーを忘れるために麻薬に手を出そうとするが、それはジェーンとの別れを意味していた。愛をとるか、音楽をとるか。果たしてチェットが下した決断は……。

確かに事実とは違うところもあるし、チェットの歌や演奏をマネすることは難しい。それでも、美しい映像とメランコリックなタッチで描かれた本作は、チェット・ベイカーの音楽のエッセンスを映画を通じて表現しようとしている。ブルーに生まれついてしまった男の孤独が胸を打つ、甘く残酷な物語だ。(村尾泰郎)

 

11月26日(土)、Bunkamuraル・シネマ、角川シネマ新宿他にて全国ロードショー

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■公式サイト
http://borntobeblue.jp/