Arban

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REVIEW
INFORMATION

ジャズメン死亡診断書

LABEL
シンコーミュージック・エンタテイメント
RELEASE
2017.02.13
 1955年の9月。当時、人気絶頂にあった俳優のジェームス・ディーンが24歳の若さで亡くなった。愛車のポルシェ550/1500RSを運転中の交通事故死。無謀な運転が原因だとばかり思っていたが、実際はそうでなかったという。乗っていた車の仕様や、彼が演じた役柄のイメージなどで、勝手にそう思い込んでいたのだ。そんなジェームス・ディーンの死から約9か月後、ジャズ・トランペッターのクリフォード・ブラウンが、同じく交通事故で亡くなっている。25歳のブラウンもまた(かの俳優と同じく)将来を嘱望されていた。そんな類似点が重なったためか、ブラウンの死も“無謀な運転”が原因と思い込んでいた。ところが、本人はハンドルすら握っていなかったことを、恥ずかしながらこの本で知った。同じく、彼は(麻薬とも無縁の)真面目で温厚な好青年であったことも。
 本書はそんな「ジャズミュージシャンの死」を扱った本であるが、断じて、その死因や“死にざま”だけをクローズアップしたものではない。死因とは直接関係ない病や怪我についても詳細に触れ、ときにその家族や交友関係を語り、生み出された音楽についても丹念に考察する。つまり「死」から「生きざま」を照らし出す試みがなされている。
 しかしながら“20日間行方不明ののち水死体で発見”とか“ステージ上でロシアン・ルーレット”といった文言を目にすると、ゴシップ誌をめくる手つきで読み進めてしまう。そんな卑俗な自分に気づかされながら、死に向かうミュージシャンたちが遺した「音楽の意味」についても考えさせられるのが、本書の美点だ。
 著者の小川隆夫は、音楽ジャーナリストとしてつとに有名だが、現役の医師でもある。ここで紹介される23人のジャズマンたちは、享年の短い順、つまり“若くして亡くなった順”にそのエピソードが語られる。最初は25歳と3か月で亡くなったスコット・ラファロだ。次に登場するのは先述のクリフォード・ブラウン。読み進めていくと、時折「実際に傷跡を見た」とか「本人に病状を聞いた」というエピソードが登場しはじめる。なるほど。長生きしたジャズマンほど、インタビューなどで会う機会も多くなるわけだ。終章に近づくと、著者とジャズマンの交流(ときに診察)が濃密になってゆくことに興奮する。そして、ついにはあのマイルス・デイヴィスから驚きの言葉が。
 ユニークなポイントはそれだけではない。本書での著者は、ミュージシャンの音楽と身体を、「ジャズ研究者としての視座」と「医師という立場」の双方から見(診)ている。したがって、作中には、ジャズワードと医学ワードが頻繁に飛び交う。しかも、そうした“音楽に対する所感”と“死因に対する所見”が、まったく同じ調子で語られるのだ。まさに二足のわらじに均等に体重が乗った状態。こんな奇妙で心地よいアンサンブルを奏でる「ジャズ本」は他にない。かように随所で、薬品に関する知見や、病態、症状に対する見立てが披露され、加えて自身の、医師としての体験談や研修医時代のエピソードまでも盛り込まれ、ついつい“物語”に入り込んでしまう。そう、本書はジャズミュージシャンを媒介にした「ひとりの医師の物語」としても、非常に面白く読むことができるのだ。(山下 実)

著:小川 隆夫
発売元:シンコーミュージック・エンタテイメント
https://www.shinko-music.co.jp/item/pid0643410/