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Gilles Peterson presents WORLDWIDE SESSION 2016
- Miguel Atwood-Ferguson Ensemble -
2016 05.04 wed.  @新木場Studio Coast
取材・文:原雅明
写真:Worldwide Session

Gilles Peterson presents WORLDWIDE SESSION 2016 
- Miguel Atwood-Ferguson Ensemble -

REPORT
INFORMATION

 ミゲル・アトウッド・ファーガソンの音源をこれまで紹介してきた立場だが、じつはライブを見るのはこれが初めてである。昨年結成されたアンサンブル名義での待望の初来日公演となった。終演後、ミゲルに少しだけ話を訊くことができたので、それも交えながら今回のライブを振り返りたい。
 過去にはフライング・ロータスやカマシ・ワシントンからクリス・デイヴまで参加した大編成のライブをいくつも実現してきたミゲルだが、このアンサンブルは、クラシックと共に彼のルーツである“ジャズ”によりフォーカスした最新のプロジェクトで、ブレインフィーダーから今年リリースが予定されているニュー・アルバムの布石にもなっているグループだという。それ故、参加メンバーも注目すべきプレイヤーが揃った。
 現在最も優れた若手サックス奏者の一人と言えるウォルター・スミス三世と、ヴァイオリンとヴィオラの音域をカバーする5弦ヴァイオリンを演奏するミゲルがステージの前に構え、それぞれの後ろには、カルロス・ニーニョのビルド・アン・アークでも活躍してきたベーシストのゲイブ・ノエル、サンパウロ出身のギタリスト、マルセル・カマルゴが、中央にはエリマージでも注目されたドラマー、ジャマイア・ウィリアムスが、ステージ下手にはサラ・ガザレクとのデュオでも知られるピアニストのジョシュ・ネルソンが位置し、スタジオコーストの広いステージ空間を活かした配置だった。
 楽曲はすべてこのアンサンブルのためにミゲル書いた新曲で、大半は長尺の曲でこのライブ用にリアレンジしたものが多かったそうだ。静かに緩やかにスタートした序盤2曲の演奏からまずこのアンサンブルが特別なものだと印象づけた。それぞれの楽器の音は控えめで、不必要に重なり合うこともなく、それでいながら全体で綺麗な音のレイヤーを成して空間を作っていく。ウォルターのサックスの柔らかなフレージングのあとに、ミゲルのヴァイオリンが広い音域を滑らかに移動していく背後では、ゲイブのジャズ的ではない硬い響きが個性を生み出しているエレキ・ベースと、シンバル類を多用して手数は多いが決してハーモニーを損なわない軽妙さを併せ持つジャマイアのドラムがレイヤーを作る。そして空間に生まれたちょっとした隙間に的確なタイミングで、マルセルのギターとジョシュのピアノのフレーズが響いてくる。このアンサンブルの演奏の構成とスタイルは以後も終始一貫したものだった。


 ギル・エヴァンスを思い起こさせるような美しいメインテーマを伴った3曲目以降、テーマの循環とソロ・パートがあって、アンサンブルの演奏は徐々に個々のソロの比重が増してきた。しかし、一般的なジャズの演奏でのソロとバックの関係性や、ソロの受け渡しというものとは違った展開だった。ソロとソロのインタープレイなどもなく、各々のソロは滑らかに繋がって、重なり合う。だから編成こそジャズ・グループだが、アレンジメントの下に演奏されるビッグ・バンドに近いとも言える。と言って、ソロのプレイが抑えられているのかというとそういうわけでもない。ダイナミックなソロを聴ける瞬間もある。中盤にはジャマイアがエリマージ的なブレイクビーツを叩く展開もあったが、起伏に富んだ展開の一つとして埋め込まれている。かつて、トータスのようなポスト・ロックのバンドは、それまでのロックやジャズにおけるソロの弾きすぎを排除し、インプロビゼーションを入れずに演奏することでアンサンブルの復活と現代的なサウンドを生み出してみせたが、ミゲルは譜面に基づいたアンサンブルによってソロの魅力も復活させたと言えるだろう。 
 終盤の2曲は今回のライブのハイライトだった。ミゲルが曲名を紹介した「JIHI」という曲はピアノの軽快なパッセージから始まり、このライブのエッセンスがすべて込められているような演奏だった。この曲に限らず、今回演奏された曲はどれも7、8分はある曲だったが、ソロの抜き差しが生み出す流れだけでまったく長さを感じさせない演奏になっていて、むしろずっと聴き続けていたい気持ちを抱かせた。そして、ラストはギターとヴァイオリンがメインフレーズを奏で、それはコンテンポラリーなジャズの空気を感じさせ、このアンサンブルが現在のジャズにも充分コミットしている存在であることを示してもいた。同時にかつてのUKのジャズ/ジャズ・ロックにあったアンサンブルも感じられた。ゲイブの硬いベースとジャマイアのこの日一番ダイナミックだったドラムのコンビネーションが特にそう思わせたのだが、ミゲルのアンサンブルが過去の多様な音楽を折り込み、それをアップデートしたものでもあるのは今回の演奏の随所で感じられたことだ。
 1時間があっという間のステージだった。今回演奏された楽曲もおそらく含まれているであろうミゲルのソロ・アルバムの録音は、ようやく終了したらしい。そして、2枚組のボリュームになるという。いま最もリリースが待ち遠しい作品である。

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