Arban

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KING
2016 05.02 mon.  @Billboard Live TOKYO
取材・文:安斎明定
写真:Masanori Naruse

KING

REPORT
INFORMATION

 なんて透明感あふれる美しいコーラス・ワークなのだろう――。
 2011年に自主制作のシングルでデビューした黒人女性3人組のグループ、キングが、早くも来日公演を行った。多くのミュージシャンとは異なったスタンスを取り、自分たちのスケジュールや楽曲の管理をすべて自分たちで行うという、まさに“インディペンデント”なスタイルでデビューした彼女たち。ザ・ルーツのクエストラヴの耳に彼女たちの音が偶然引っかかったのが約5年前。それから、キングを称賛するミュージシャンはうなぎ登りに増え、ロバート・グラスパーが自作にフィーチャーしたり、故プリンスがオープニング・アクトに起用したり。あるいはケンドリック・ラマーが彼女たちの音をサンプリングしたり、エリカ・バドゥやジミー・ジャムが頻繁に話題にしたりと、現在の音楽シーンを引っ張っているジャズ、R&B、ヒップホップのアーティストたちがこぞって彼女たちの音楽性を絶賛している。
 きっと大手のレコード会社やマネジメント会社が獲得に動いたに違いない。でも、彼女たちはインディペンデントなスタンスを敢えて選んだ。この自立した考えは、キングの音楽性にも反映されているように感じる。端的に言えば、“流行りの音”とは距離を置き、自分たちにとって本当にフィット感のある音を奏でている点だ。そんなキングの音楽性は「いかにインパクトのある音と歌詞でリスナーを惹きつけるか」という現在のヒットの公式を覆し、ノーブルで浮遊するように涼やかなコーラス・ワーク主体の楽曲でチャートを席巻してしまった。


 果たしてキングの音楽のどこに、そんなポピュラリティがあるのか――。
 そういった疑問はライブを観てすぐに氷解した。
 シンセやサンプラーを含む3台の鍵盤楽器が馬蹄形に置かれたステージ。シンプルな黒の衣装で登場した3人は、双子姉妹のひとりであるパリスがキーボードの位置につき、もう一方のアンバーとアニータ・バイアスがマイクを握る。スロウからミディアム・テンポのナンバーが、せせらぎのように流れる。リード・ボーカルはCDより若干エモーショナルだが、印象的なMCや派手なアクションはなく、黒の衣装が物語っているように、主役はあくまで楽曲であって「自分たちは“黒子”なのだ」という静かなアピールを感じる。
 彼女たちのライブは、オーディエンスに手拍子を要求したり、スタンドアップをねだったりしない。観客が一緒になってやらなければならないことは何もない。観客ひとりひとりが自由な接し方でキングの音楽を聴けるのだ。だから、ライブの現場にいることが“負担”にならない。ピザを頬張りながら、ワインを飲みながら、身体を彼女たちの浮遊するような声に委ねることができる。心も身体も芯から解き放たれ、まるで白日夢を見ているような感覚に囚われる。そんな余裕に溢れた音楽だから、インパクトなどなくても、じつに心地好く身体に染み込んでくる。
 また、そこにはどこか懐かしい響きもあって、軽いデ・ジャヴのような感覚も味わうことができる。新鮮なはずなのに、なぜか追憶感覚にも似た、昔の自分たちの思い出にリンクするようなサウンドが鳴らされているのだ。終盤には“キング流”にアレンジされたスティーヴィ・ワンダーのカバーを挟み、スロウ・ジャムは続いていく。
 エレクトロニカやヒップホップ、あるいはトリップホップやダブ・ステップのような新しい音楽要素は、きっと意識的に取り込んでいないのだろう。自分たちの伝統的な教会音楽やソウル・ミュージックを21世紀に再構成して聴かせているように感じられる、今までになかった感覚のR&Bミュージック。
 その中でも比較的キャッチーな「Supernatural」や「Love Song」、「In The Meantime」
や「Hey」、さらには「The Story」などが耳に残ったと言えばいいのか。どれか1曲だけが突出するのではなく、演奏される曲がゆるやかに繋がり、場内に漂っていく感覚が強いのだ。
 だから、正確に何曲演奏したのか、そしてどんな曲順で展開されたのか、すぐには思い出せない。しかし、キングの側からしてみれば、それでいいのだろう。どれか1曲がハイライトなのではなく、最初から最後まで「キングの音楽」が流れ続けている状態を作り、観客を癒すことが彼女たちの狙いであり、目的なのではないか。
 とにかく心地好く自由でピースフルな空気に溢れたステージングを展開したキングは、私たちオーディエンスに爽やかな印象を残して去っていった。

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