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TOWA TEIのプロジェクト、Sweet Robots Against The Machine が16年ぶりに始動。今回は、METAFIVEのバンド・メイトでもある砂原良徳と、かねてから交流があるバカリズムによる“3人ユニット”としてヴァージョンアップ。
先日発表されたビートニクスの新作とともに復活したレーベル〈ベターデイズ〉からのリリースとなる今回の新アルバム『3』は、バカリズムが全曲の詞を書いて“主演”。これにテイと砂原のサウンドが融合し、テクノと語りが融合した新分野(?)スポークン・テクノを生み出した。
3作目にして3人が対峙した『3』
——今回のアルバムのアイデアは、どんなきっかけで生まれたのでしょうか。
「吉岡里帆さんと仕事する機会があって、詩の朗読をしてもらったんです。そのひとつが、今回のアルバムに収録された〈レイディオ〉の原型になっているんですけど。当時、その素材に音をつけてみたら、ちょっとした手応えみたいなものがあって。『あ、この方法論で何かやれるな』って思ったんですよね」
——今回のアルバムは〈レイディオ〉から始まった。
「あと、それとは別にバカリズムさんと前から何かやりたいと思っていたんで、音を付けた〈レディオ〉の朗読とラフなオケを5〜6曲、バカリさんに聴いてもらって。『こんな感じのことをやろうと思ってるんですけど一緒にどうですか?』って話をしたら、『いいですね!』ってことになったんです」
——つまり、バカリズムさんの歌詞に音を付けたのではなく、バカリズムさんがオケを聴いて歌詞を考えていった?
「聴いたり、聴かなかったりって感じじゃないでしょうかね。メールで歌詞というか脚本が送られてくるんですけど、曲にはめてみたらピッタリってこともあるし、曲の前半で歌詞が終わってしまうものもあって。『あれ? まだ尺があるけど…、まあ後半は音楽だけでも成立するか』と思って歌詞を入れたものをバカリさんに戻すと、『申し訳ないですけど、もっと曲の全編に歌詞を散らしてください。あくまで素材なんで、もっと音楽的にしちゃってください』って言われたものもありましたね」
——バカリズムさんも、「音楽作品である」ということに意識的だった。さらに今回は砂原さんも加わっていますが、どんなところを担当されたのでしょうか。
「今回、Sweet Robots名義で出すと決めたときに、ソロとは違う形にしたかったんです。そうするためには、砂原さんに入ってもらって、任せられるところは任せたいと思って。砂さんが『僕は何をやれば良いんですか?』って言うので、『とりあえず2曲書いて』って言ったら、きっちり2曲だけ書いてきまして(笑)」
——注文どおり。
「カロリー控えめで(笑)。あとミックスはほとんど任せました。そうすることでソロと感触も変わってくるし。まあ、でもリードはバカリさんかな、今回は」
芸人と女優の “非凡な語り”
——バカリズムさんがリードを務めるなか、夏帆さんや麻生久美子さんなど女優さんたちが参加されていて、魅力的な声を聴かせてくれます。こうして改めて声だけ聴くと、みなさん発声とか声量がしっかりコントロールされていて、さすが女優だと思いました。
「そうなんですよ。みなさん、歌がうまい歌手に通じる技術を持っていて、微妙なニュアンスを表現してくれる。そこが重要で」
——レコーディング時には、「こんなキャラで」とかディレクションするんですか?
「それは曲ごとに言ってますね。たとえば〈集会〉だったら『囲碁とか将棋大会とかで実況中継してるメガネ美人みたいな感じで』とか。〈非常識クイズ〉では『かわいい子ぶった新人女子アナみたいな感じで』とか(笑)。やってて楽しかったです」
——テイさんが主題歌を提供して、バカリズムさんが出演したドラマ『架空OL日記』(注1)から、夏帆さんと佐藤玲さんが参加しています。キャスティングはテイさんが?
注1:2013年に上梓されたバカリズムによる書籍『架空OL日記』(小学館)をドラマ化。2017年4月から毎週金曜日の深夜、読売テレビにて放送された。
「はい。『夏帆さんとか良いんじゃないですか?』とかってバカリさんに話をすると、『あ、良いですね』って感じで。どの曲に誰、というところまでは決めてなかったですけど、キャスティングはスムースに決まりましたね」
——夏帆さんが参加した「ダキタイム」は、会話を中心にしながらサビは歌になっていて、アルバムでいちばんキャッチーな仕上がりですね。
「バカリさんにメロディーのないオケをいくつか投げて、会話だったり、一人喋りだったり、いろんな原稿が来たけど、それだけじゃダメだと思って。アルバムの世界観を代表するような、リードっぽい曲を作ろうと思って……何だろう、真面目?(笑)。それで、できたのがこの曲なんです。全体のオケとサビの部分をバカリさんに送ったら、即レスで『キャッチーで良いですね!』って返ってきて。それでバカリさんが空いた部分に入れる会話を送ってきてくれたんです。砂さんとは音作りの面で結構やりとりもしたし、3人のバンド感もいちばん出てる曲ですね。この曲が出来た時は『山越えたな』って思いました」
——メロディーのあるヴォーカルに音を付けるのとは全然違う作業だったと思うのですが、今回、サウンド面では、どんなことを意識されたのでしょうか。
「サウンド的にはミニマルな感じですね。ドラマに音楽をつけると、弦とかチェロとかヨーロッパ的な楽器に頼りがちじゃないですか。すごく音符っぽくて湿度がある。そういうものと対極のものをやりたかったんです」
——ミニマルなサウンドという点は、バカリズムさんも意識されていますよね。例えば「覚えてはいけない九九」の歌詞なんかは繰り返しの笑いですし。
「そうなんですよ。この歌詞、ほかのオケにも乗せてもいけるんじゃないかと思って、それで〈アニマル〉のオケに貼って、そこで今度は女の子に朗読してもらって、それで〈集会〉っていう曲にしたんです。宗教の集会みたいな雰囲気があるから〈集会〉(笑)。ある意味、ダブ的な手法ですね」
違うベクトルで再スタート
——そういったミニマルな曲が並ぶなかで、異彩を放っているのがバカリズムさんと麻生久美子さんがデュエットで歌う「捨てられない街角」です。作曲は砂原さんですが、歌モノを入れるというのはテイさんのアイデアだったんですか。
「そうです。〈ダキタイム〉には歌が少し入っていますが、『もう一曲くらいメロディーがある曲が欲しい』って砂さんに話をしたら、『わかりました。じゃあ、ラテン歌謡で』って。なんでラテン歌謡なのかはわからないですけど(笑)」
——麻生さんの歌いっぷりがすごいですよね(笑)。バカリズムさんも男前な歌声で。
「まりん(砂原)も言ってましたね。『ウチらより全然うまい』って。クミちゃんは『ほんとはアイドルになりたかった』って前に言ってたから、こういうのはハマるんじゃないかと思ってたんですけど、バカリさんもうまいんですよ。フランク永井ばりで(笑)」
——「アニマル」では、最後のオチのひと言をループさせているじゃないですか。それがまたおかしかったのですが、そういうサウンド面での演出はテイさんのアイデア?
「そうです。エンディングをどうしようかな、と考えて、オケごとループさせてみたんです。バカリさんの詞って、オチはあるけど『これがオチだ!』って感じじゃないですから。繰り返し聞いても楽しめるような笑いになっている。そういうところが音楽的というか、ミニマルを理解してるなって思います。GEISHA GIRLS(注2)は明らかに笑かしに行ってましたからね(笑)」
注2:ダウンタウンの浜田雅功と松本人志によるラップユニット。1994年にデビューシングルをリリース。坂本龍一やテイ・トウワらがプロデュースを担当した。
——確かにGEISHA GIRLSはノベルティ的な面白さがありましたが、今回はより音楽的なプロジェクトなんですね。音楽とユーモアの融合というと、YMO『増殖』やスネークマン・ショウのようなものもありましたが、そのあたりは意識しました?
「そういうのって、コントがあって、イケてる音楽が入るというラジオ・ショー形式だったじゃないですか。こっちは、スポークンワードとテクノを合体させた〈スポークン・テクノ〉っていう新しいジャンルだと思ってるんで。だから僕は、スネークマン・ショウよりアシッド・ハウスに近いと思ってます」
——スポークン・テクノ! これから流行るかもしれないでね。アイドルとか声優方面で。でも、スポークン・テクノって、一見、簡単にできそうでいて、じつは難度が高い気がします。
「そうなんです。音はミニマルな感じで作って、可愛い子に喋らせて……って簡単そうで、そこはかなりスキルが必要なところで。音が声にぶつからないようにしつつ、ただの背景にならないようにする。そのギリギリのせめぎ合いですね。声と音とのバランスがすごく難しい。ニュアンス命、センス命って感じ」
——そういう新しいサウンドを世に出すにあたって、なぜソロではなくSweet Robots名義だったのでしょう。
「ソロ・アルバムは次で10作目になるんですけど、その間を置きたいな、と思ったんです。あと、今回の作品は最近のソロに比べてコンセプチュアルだし」
——これまでのSweet Robotsの作品とも、ちょっと毛色の違う作品になりましたね
「そもそもSweet Robotsって、ソロのファースト(Future Listening!)が売れて、そのプレッシャーを感じながらセカンド(SOUND MUSEUM)を作ってるなかで『これ、3枚組になっちゃうかもしれないから別のパッケージにしよう』と思って、スピンオフ的にSweet Robotsが生まれたんです。何に対してアゲインストだったのかというと、たぶん“TOWA TEI”だったと思うんですよね。自分に対するプレッシャーやパブリック・イメージにアゲインストしてた。でも、Sweet Robotsで2作目を作ったときに、すごい真面目なアルバムになったし、ヴォリュームもあるし、『TOWA TEIになったな』って思ったんです。だからタイトルを『TOWA TEI』にしたんですけど、あのアルバムでSweet Robotsは役割を終えたと思ってて。だから今回は、もう一度ぜんぜん違うベクトルで再スタートする気持ちで作りました」
——新発明のジャンルを引っさげて、新たなスタートを。
「まあ、これからスポークン・テクノをやる人には、一回、挨拶に来てもらおうかな(笑)」