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【東京・都立大学/Jammin】プロアマ問わず“ほぼ毎日”ライブ。老若男女が憩う住宅街のジャズバー

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回はほぼ毎日ライブ演奏がおこなわれている、都立大学の『Jammin(ジャミン)』を訪問。程よいサイズ感の開放的な空間で、気軽にジャズを楽しめる名店のひとつです。

パラゴンのスピーカーが鎮座する縦長空間

東急東横線の渋谷駅から各駅停車で6つめの駅「都立大学」。1991年に大学は移転しているため、もはや学生街ではなく、近隣に高級住宅街のある静かな街のイメージが強い。それだけに、ジャズバーがあることに驚く人が多いかもしれない。

「最初は自由が丘とか奥沢のエリアが良かったんだけど物件がなくて。ここが地味な街であることは知っていたけど、どうにかなるかと思ったんだよね。やってみたら、なかなか大変だったけど(笑)。でも、この1~2年で新しいお店もできてきましたよ」と、店主の大石哲夫さんは語る。

駅から徒歩3分程度、目黒通り沿いにある『Jammin’(ジャミン)』は居酒屋の2階にある。お店の上階が住宅というのもユニークだ。細長く広い店内には、長いバーカウンターとテーブル席があり、中央にはパラゴンのスピーカーが鎮座する。フローリングにベージュの壁面。インテリアも含めて全体的にクラシックな雰囲気がある。オープン当初は、ランチ、喫茶、バーと長時間の営業だったが、近年は19:00~24:00に絞って開店。しかも、ほぼ毎日ライブが入っているのが特徴だ。

「オープンした1年後から月イチでライブを入れるようになって、翌年からは週イチになってと、徐々に増えていったんです。2年前からはほぼ毎日ライブをやっています」

学生から有名プレイヤーまで幅広く出演

記念すべき最初のライブは、お客さんとして来ていたというギタリストの萩谷清さん。それにドラムの市原康さん、ベースの斎藤クジラ誠さんを加えたトリオ編成。その後は、テナーサックスの安保徹さんや、ピアニストの太田寛二さん、ギタリストの中牟礼貞則さんなど、大石さんのお気に入りアーティストに声をかけ、徐々に人脈を広げていったという。

現在もっとも集客があるのは、メンバーの多くが70代という白子洋美とデキシーフレンズ。年配者たちによる同窓会のような雰囲気で盛り上がるという。また、大学のジャズ研バンドが入れば、彼らの仲間たちが数多くやってくる。そんな、仲間内で和気藹々と楽しむプログラムがある一方、大石さんがプロデュースする渾身のプログラムもある。

「近々でいえば、8/9(木)の野口久和スペシャルセッション。野口久和(p)、松島啓之(tp)、近藤和彦(as)、日景修(b)、藤井学(ds)といったメンバーで、ハードバップ好きにはおすすめですよ。生演奏は迫力があるし、ミュージシャンの表情を観ることもできて楽しい。その場で合わせていくから失敗もあるけれど、ハマればすごい演奏になる。そういう緊張感も面白いですよね」

その他、月に10本ほど素人参加型のジャムセッションが入る。ジャンルも幅広いため、演奏や歌うことが好きな社会人が集まってくるとか。

「最近は黙って音楽を聴きたいという人よりも、自分で演奏したいという人が多い時代。どこのお店でもジャムセッションは増えているんじゃないかな」

中学時代からジャズに熱中

1960年生まれの店主・大石哲夫さんがジャズに触れたのは中学生の頃。自由が丘にあった今はなきジャズ喫茶『ALFEE』に、背伸びをして入ったのが始まりだ。

「店内は真っ暗でタバコの煙が充満していて。お喋り禁止だから、くちパクでコーヒーを注文するような昔ながらの店。フリージャズが中心のお店だったから最初はよくわからなかったけど、徐々に面白くなっていきました。時代的に、コルトレーンの一派がよくかかっていましたね」

その後、よりオーソドックスなものも聴いてみようと、高校生くらいからソニー・ロリンズやマイルス・デイヴィス、ビル・エヴァンスなどを買うようになったという。また、学校をサボってはジャズ喫茶に入り浸っていた。しかし、大学では一転してウィンドサーフィンにハマり、鎌倉にアパートを借りて週の半分はそちらで過ごしていたという。卒業後は、商社→証券会社→生命保険会社と堅い仕事を続けた。

「30歳くらいまでは楽しく働いていましたけど、だんだんと組織に嫌気がさしてきたんです。ごますり、派閥、忖度の世界が嘘くさくて、ひとりで仕事をしたいと思うようになっていきました」

“コレクター時代”を経て開業へ

そんな想いと呼応するようにジャズ熱が復活。eBayでのオークションに明け暮れ、レアなオリジナル盤を集める熱心なコレクターとなっていた。かつて九段下(東京都千代田区)にあったジャズレコード店『Adirondack』の滝沢氏(現在は「Adirondack café」を経営)との交流も、レコード店主と客という間柄から始まった。おもに集めていたのは、50年代~60年代のものだという。また、都立大学にあったジャズ喫茶『Ebony』にもほぼ毎日通っていた。そして、40代半ばとなった2004年に、幅広いジャンルのジャズがレコードとCDで4000枚以上揃う、念願のジャズバー『Jammin’』をオープンする。

「評論家じゃないから、楽曲について語りたくはない」と話す大石さんに無理を言って、お店のイメージを表すアルバムを4枚選んでもらった。

まずは、「亡くなってしまったけど、個人的には大好きなラッパ」と語る、ベニー・ベイリー・クインテットの『How Deep Can You Go?』。そして、「チャーリー・パーカーの一番いい時代だし、彼を聴きたいときはコレ」というチャーリー・パーカーの『Alternate Masters Vol.1』。「バップのピアニストが、パリで録音したアルバム。フリーがかかった演奏で、コンテンポラリーっぽくなっているのが面白い」という、フレディ・レッドの『under paris skies』。最後は、「彼の有名なアルバム。ジャケットもかっこいいし、飾っていてもいいかな」と語った、サド・ジョーンズの『The Magnificent Thad Jones』。

ところで『Jammin’』は、ジャズやお酒だけでなく“パスタが美味しいお店”としても知られている。トマトとモッツァレラチーズが入った『アッラケッカ』や、『ペペロンチーノ』が人気メニューだ。最後に、今後やってみたいことなど将来の展望について伺った。

「いまはジャズが8割くらいだけど、ブラジル、キューバ、フラメンコ、ポップス、クラシックなどジャンルを増やしてお客さんの層を広げていきたいですね」

薄暗い地下ではなく、開放的な地上2Fでお酒や料理を楽しみながら、気軽にジャズの演奏が楽しめるお店。ホームページでライブ情報をチェックして、ふらり足を運んでみることをおすすめしたい。

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