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「音楽に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー…」の一文から始まる本連載も5年目に突入。今回は、過去に訪れたお店を振り返りながら、近年のトレンドを探っていきます。また、これを機に掲載されているお店へ足を運んでいただけたら幸いです。さらにバックナンバーも読んでいただけたら最高です!
インパクト大だったHUB浅草店
担当編集者(以下:編集) この連載もついに5年目に突入したわけですけど。
担当ライター 富山(以下:富山) えっ、そんな昔からやってました?
編 じつはタイトルが3回変わっていて、2015年7月のスタート時は「よい音楽で、より素敵な時間を」だったんですよ。富山さんが取材するようになった2016年5月から「よい音楽で、よい時を」に変わって。さらに、2017年4月から現在の「いつか常連になりたいお店」になったんです。
富山 へぇ~、でも内容は変わっていないですよね?
編 そうですね。基本的には「音楽に深いこだわりを持つ飲食店」という括りで、幅広く紹介してきました。ちなみに、これまでの取材でどこか思い出深いお店とかありました?
富山 この連載はジャズ喫茶に絞っているわけじゃないし、振り幅が広いから難しいなぁ。でも、強烈だったのは『HUB浅草店』ですね。
編 確かに! あそこは強烈だった。チェーン店としてのHUBを知っている人なら、絶対に驚きますよね。ドトールコーヒーに入ったら、中はジャズ喫茶仕様だった、みたいな。
富山 僕らが行ったときは、お年寄りのサロンみたいな雰囲気で。でも、お客さんも多くて、生演奏がきっちり聴けて。なぜ浅草店だけがライブハウス化したのかの理由も良かった。浅草に行ったら絶対に立ち寄りたいお店ですよ。
編 巡ったお店のタイプをジャンル分けすると、『HUB浅草店』のように経営母体が大きいところ、というのがひとつありますよね。
富山 ブルーノート系列の『ブルックリンパーラー』(新宿)や『カフェ104.5』(神田淡路町)とか、小田急系資本の『ノード ウエハラ』(代々木上原)。あとは、ゲストハウスやホステルを手がけているバックパッカーズ ジャパンによる『シタン』(東日本橋)とかかな。
編 どれもオシャレ系ですね。
富山 そうだね、入りやすさはピカイチ。どの店もインスタ映えする感じで女性が多い。そう考えると、ここでも『HUB浅草店』だけは異質というね(笑)。
血縁ではなく3代続く『横浜ダウンビート』
編 逆に、入りにくいのはどんなお店ですかね?
富山 そりゃ、老舗と言われるお店ですよ。『横浜 ダウンビート』のように「横浜最古のジャズ喫茶」とか謳われると緊張しますよ。でも、じつはすごく居心地がいいんだけどね。ダウンビートは店主が3代目になられたみたいで。
編 血縁ではなく店主が引き継がれていく個人経営店ってすごいですよね。常連が受け継いでいくシステム。
富山 本当にすごいと思う。そこには「愛」しかないから、いいお店に決まってるよね。老舗といえば、下北沢の『レディジェーン』も印象深い。オーナーの大木さんが渋くて、しかも、記事になっていない部分でも、会話に出てくる登場人物がすべて超有名人で唖然としちゃいました。
編 松田優作とか横井庄一の話も面白かったですよね。
富山 あははは、そうそう。あと、『セイリン シューズ』(恵比寿)は「よくインタビュー取れたね」っていろんな人から言われて。
編 でしょうね。企画会議で店名が挙がった瞬間、「無理だろ」と思いましたもん。一体、どんな手を使ったんですか?
富山 そこはまあ、こっちもプロだから(笑)。『セイリン シューズ』は、ニューミュージック系が好きな人は絶対に行ったほうがいいですよ。店主の波岡さんは半端ないんで。そういう意味では『アディロンダックカフェ』(神保町)の滝沢さんも半端ない。
編 もともとは、有名なジャズレコード店をやられていた方ですからね。
富山 『ジャミン』(都立大学)の大石さんは、レコード店時代にお客さんとして通っていたみたいで。滝沢さんのことを「あの、毒舌おやじ」って言っていましたから、仲が良いんだと思う(笑)。
新世代のジャズ喫茶はみんな仲良し
編 そういう横のつながりという点では、新興系ジャズ喫茶はみなさん仲が良い印象がありますけど。
富山 そうなんですよ。SNSで相互フォローをしていたり、ライバルというより仲間という感覚が強い。そのおかげで、いろいろとご紹介いただけてありがたいです。その中でもキーパーソンは、『バールボッサ』(渋谷)の林さんだったりするんです。
編 あの記事、面白かったです。
富山 noteの人気コラムで知られていますけど、かつてはハフィントンポストで連載をしていたり、書籍も5冊くらい出している方で。常に視点がマーケッターなんです。あと、JJazz.netでさまざまな店主をゲストに呼んだ連載もされていたので、ネットワークも広い。彼がジャズ喫茶の新潮流としてフックアップしたのが、『ロンパーチッチ』(新井薬師)と『ユハ』(西荻窪)ともいえるんです。
編 どちらもアナログにこだわっている店で、夫婦でやられているんですよね。
富山 一回取材したくらいでこんなことを言ったら失礼なんだけど、どちらも旦那さまはクセが強い(笑)。まぁ、話を聞いていると奥さまも濃いんだけど、ミックスされてうまく中和されている感じなんです。2店とも文学的というか、苦悩してる感じが昭和風味で。でも、お店の内装はセンスがいいからそんな感じは一切しないですよ。女性のお客さんも多いですし。
編 その感じも新しいんでしょうね。
富山 その要因として、世代的にどちらも90年代カフェブームのエッセンスが入っているんです。ご本人たちは否定されるかもしれないけど。でも、意外にあのトレンドは見逃せなくて。渋谷の『バーミュージック』や富ヶ谷の『カフェ バルネ』、東池袋の『カクルル』などは、まさに90年代カフェ直系。
編 音楽だけでなく、コーヒーや食にもこだわりがありますしね。
富山 90年代カフェブームを何かしらのカタチで通過しているお店は、トータルコーディネートがうまいんですよ。バランスとセンスがいい。そういうスタイリッシュさという意味では、老舗だけど『月光茶房』(表参道)はパーフェクト。店主の原田さんは銀座生まれの原宿育ちですからね。
編 非の打ち所のないシティ・ボーイ(笑)で、オシャレさん。ECMのコレクターというのも納得です。
富山 ほんと。あとは何だろう、『ミュージックバー ベルカナ』(恵比寿)とか『バー ロータ』(恵比寿)、『ミュージックバー ルンバ』(銀座)とかのバーテンダー系かな。あくまでも軸足がバーだから、どこも店内が暗めですよね。
編 なんですか、それ(笑)。
富山 色気があるっていう意味ですよ。終電がなくなってからが本番みたいな。
若い世代は老舗の店でも物怖じしない!?
編 それこそジャズのイメージですよね。さて、ここまでダァーッと駆け足で振り返ってみましたけど、まとめをお願いします!
富山 いきなり雑っ! でも、最近は若い人を中心に老舗のジャズ喫茶が注目されているらしくて。純喫茶を巡る感覚で若い子が来店している。でも、僕ら世代だと入店するのにビビる感覚があるでしょ?
編 あります。お店の前まで行ったけど、勇気がなくてドアを開けられなかったとか。
富山 それそれ。でも、若い子は一切ないみたい。鉄の重い扉もさっと開けちゃう。
編 インターネット世代って奴ですかね。
富山 情報がフラットだから、スタバも老舗ジャズ喫茶も同じなのかもね。でも、ちゃんと足を使ってお店まで行くんだからいいことですよ。おかまいなしに写真撮ったりするから、イラっとすることもあるだろうけど。そこはうまく導きながら。だって、ブームが起きないと新しい芽は出ないわけだから。
編 彼ら、彼女らが、いつか常連になるかもしれないですしね。
富山 うまい! なので、今後もさまざまなタイプのお店に伺えればと思っています。今後もよろしくお願いします。