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投稿日 : 2018.11.22 更新日 : 2020.11.25
取材・文/富山英三郎 撮影/高瀬竜弥
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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、音楽、珈琲、映画を愛する店主が営む『KISSA BOSSA UMINEKO(キッサ ボッサ ウミネコ)』を訪問。柔和な店主のキャラクターがそのまま反映された店内は、のんびりと居心地のいい空間でした。
渋谷駅から東横線で6分の場所にある祐天寺駅(東京都目黒区)は、ひとり暮らし世帯を中心に人気のエリア。近年、徐々にお店が増えているものの、いまだのどかな雰囲気が残っているのが魅力だ。そんな祐天寺で3年前にオープンしたのが『KISSA BOSSA UMINEKO』である。
「オープン前は、コーヒーを中心とした喫茶店にしようと思っていたんです。でも、家にたくさんレコードがあって、妻にも嫌がられていたので、こっちに持って来ちゃおうと。そこから急遽スピーカーを置く棚を作って、気づいたらジャズ喫茶になっていました(笑)」
そう語る店主の中村大祐さんは、3人の子どもを抱える33歳。広告や物流関係の会社員を経て、高校生の頃から夢だった喫茶店を始めた。
「中学や高校の頃から、地元横浜の喫茶店に通っていたんです。コーヒーの種類がたくさんあって、すべて自家焙煎しているようなお店。おしゃれなカフェよりも、気兼ねなく落ち着ける喫茶店のほうが好きだったんですよね。そこはUSENでしたけどジャズが流れていて」
子どもの頃から音楽好きだった中村さんは、中学時代に邦ロックバンド“SUPERCAR”のファンになり、そのボーカリストがデヴィッド・ボウイ好きだったことで、70〜80年代のロックも掘るようになったという。
「当初、デヴィッド・ボウイはあまりピンとこなかったですけど、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやイギー・ポップとかはすぐに好きになって。日本人だと、ナンバーガールやくるり、今でも好きなクラムボン、スーパーバタードックなどをよく聴いていました」
雑誌『ロッキンオン』や『スヌーザー』を愛読し、好きなバンドが影響を受けたアーティストを片っ端から聴くという、ある意味で正統派の音楽遍歴を誇る。ジャズに関しては、19歳で本格的に聴くようになった。
「ジャズを聴き始めて2週間で、横浜のジャズ喫茶『ダウンビート』でアルバイトを始めたんです」
この展開は驚くしかない。行ったこともない老舗のジャズ喫茶に、いきなりアルバイトとして飛び込む勇気。なかなかアグレッシブである。
「当時“ジャズ喫茶という場所があるらしい”くらいは知っていて。インターネットで”横浜 ジャズが聴ける”とかで検索したら、『ダウンビート』のホームページが出てきたんですよ。そこにバイト募集の書き込みがあったので、メールしたら返信が来たんです」
カウンターのお客さんに「こんなのも知らないのかよ!」と言われながら、定番曲からレアものまで幅広くジャズの知識を吸収。”何も知らない若い子”ということで、常連客がいろいろと教えてくれたという。
「最初に好きになったのは、リューベン・ウィルソンやロニー・スミスといったR&Bの雰囲気があるオルガンもの。また、ケニー・ドリューやアーマッド・ジャマルをきっかけに、ピアノトリオも大好きになりました。あとはボサノバですね」
『KISSA BOSSA UMINEKO』という店名を聞けば、誰もがボサノバがよくかかるお店だと感じるだろう。そもそもの由来を聞いてみた。
「動物の名前を店名に入れたら親しみを持たれるかなと思って。両親の田舎が佐渡島でうみねこが多いので、当初は“喫茶うみねこ”にしようかと悩んでいたんです。そんなとき、内装を担当している若い子に『早く決めてください!』とせっつかれて。その子が『ボサノバが好きなら“喫茶ボッサ”とかがいいんじゃないですか?』と提案してくれて、そのアイデアをいただきました(笑)」
韻を踏んできた内装屋さんにノッた中村さん。しかし、このお店でかかるのは8割がジャズ、残り2割がブラジル、ソウル、ブルースとなっている。ボサノバは夏場にこそよくかかるが、その他の季節は日に4〜5曲程度だ。
「ジャンルはあまりこだわらず、幅広い選曲を心がけています。年配のお客さんが来られたらフュージョンをかけたり。さっきはトーキング・ヘッズをかけていました」
お客さんはジャズ好きが約2割、近くで働いている人や近隣住人が約8割。年齢層は幅広く、男女の比率も同じだとか。また、いちばん混むのは平日のランチで、生姜焼きが人気メニュー。一方、週末は休日をのんびり過ごしたい人たちがやってくる。
「ジャズ喫茶にありがちなルールを作りたくないんです。自分は楽器から入ったわけではなく、理論よりも何となく気持ちいいから聴き始めたタイプなんです。そこは大事にしたい。なので、女性同士でおしゃべりしているなかでジャズが流れていたり、カウンターでは常連さんが話していたり、堅苦しくない雰囲気を心がけています」
そんな中村さんの思いが通じたのか、このお店でジャズに興味を持つ若い人が増えている。そんなときは、歩いて数分の場所にある小さな中古レコード店を紹介。お店を出て直行する子も少なくないとか。また、同店では不定期ながらライブも開催。10月末にはトランペット奏者である佐々木史郎氏のライブもおこなわれた。
「佐々木さんは近所に住んでいて、たまに飲みに来てくれるんです。そんな縁で6月に一度ライブをやっていただいて、それがいい感じだったので続いています。年末にもう一度やれたらと思っています」
半地下のような店内は、ドラムとベース以外の楽器なら騒音を気にせず演奏ができる。以前は、学生たちによる投げ銭ライブをよくやっていたとか。また、かつて新百合ヶ丘(神奈川県川崎市)にあった伝説のジャズ喫茶『Lost and Found』を同店で一夜限り復活させるなど、ユニークなイベントも開催されている。この店はいい意味でゆるく、それでいて隠れ家的な雰囲気があるのが人気の秘密だ。最後に、『KISSA BOSSA UMINEKO』を象徴する3枚を選んでもらった。
「リューベン・ウィルソンの『SET US FREE』は、オルガンが好きになるきっかけになった一枚。ジャズを聴き始めた初期からいまだに好きですね。夜、もうひと頑張りしたいときに気分を上げてくれるアルバムです。デューク・ジョーダンの『Flight to Denmark』はダウンビートでアルバイトしているときに一番好きだった一枚。冬に聴きたくなる、温かいベースの音とピアノがお気に入りです。そして、ローダ・スコット『Stay』は、昨年お客さんに借りた一枚。フットペダル使いがすごいんです。グローヴァー・ワシントン・ジュニアの〈Just The Two Of Us〉や、アース・ウインド & ファイアーの〈Fantasy〉も入っていて、この2年間は僕のなかでベストアルバムです」
・店舗名 KISSA BOSSA UMINEKO
・住所 東京都目黒区祐天寺2-14-10
・営業時間 11:00〜17:00/19:00〜24:00(木曜を除く平日)、11:00〜17:00(木曜)、11:00〜23:00(土曜)
・定休日 日曜 ・電話番号 03-6303-0632
・オフィシャルサイト http://kissa-bossa-umineko.com/
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