投稿日 : 2018.12.07 更新日 : 2019.03.08
2018年リリース作品を総括!“UK新世代ジャズ”傑作選
構成・文/小川 充
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相乗効果で“豊作の年”に!!
“UK新世代ジャズ”ムーブメントの中でも近年特に注目を集めるのがロンドン、とりわけサウス・ロンドンを中心としたアーティストたち。ここで紹介する2018年度リリースの作品も、ほとんど南ロンドン周辺勢が占める形だ。そんな作品群を語る上で重要なのが、今年2月にジャイルス・ピーターソンの「ブラウンズウッド」からリリースされたオムニバス作品『We Out Here』である。
本作は、サックス奏者のシャバカ・ハッチングスによってまとめられ、まさに“南ロンドンのいま”を切り取った内容だが、これを起点にジョー・アーモン・ジョーンズやマイシャのアルバムがリリースされ、シャバカ・ハッチングス率いるサンズ・オブ・ケメットが名門インパルスからアルバムを発表。
さらに、モーゼス・ボイドやカマール・ウィリアムスといった注目のアーティストが次々と新作を生み出すなど、2018年はUKジャズにとって非常に活気に満ちた1年となった。これは近年、リチャード・スペイヴンやゴーゴー・ペンギンらによって「UK新世代ジャズ」の認知が高まり、そこに南ロンドン勢の活躍も加わった結果とも言えるだろう。
2018年リリース“UK新世代ジャズ”傑作アルバム20
Joe Armon-Jones
『Starting Today』
(Brownswood Recordings)
アフロ・ジャズ・バンドのエズラ・コレクティヴへも参加するピアニストのジョー・アーモン・ジョーンズのソロ作。マックスウェル・オーウィンとのエレクトロニックなコラボなど様々な試みを行う彼だが、本作ではジャズとアフロ、レゲエ、ダブ、ファンク、ソウル、クラブ・サウンドなどとの融合により、UK新世代ジャズの旗手としての存在感を見せる。
Maisha
『There Is A Place』
(Brownswood Recordings)
ドラマーのジェイク・ロングが率い、サックス奏者のヌビア・ガルシア、ギタリストのシャーリー・テテーらが在籍するマイシャ。アフリカ色の強いブラック・スピリチュアル・ジャズが特徴で、ときに野性味あふれるドラマチックな演奏、ときに瞑想的でピースフルな演奏を展開し、往年のファラオ・サンダースからアリス・コルトレーンらを彷彿とさせる。
Sons Of Kemet
『Your Queen Is A Reptile』
(Impulse!)
シャバカ・ハッチングス、トム・スキナー、セブ・ロッチフォードらサンズ・オブ・ケメットの通算3作目。ツイン・ドラムにチューバなど強烈なブラス・サウンドを擁し、カリブ風味あふれるジャズを展開。モーゼス・ボイドやヌビア・ガルシアも参加する本作は、レゲエのMCやダビーなエフェクトも交え、レベル・ミュージックとしてのジャズを見せる。
Moses Boyd
『Displaced Diaspora』
(Exodus)
南ロンドンの新世代ジャズの筆頭で、若き天才ドラマーと注目を集めるモーゼス・ボイドのファースト・ソロ・アルバム。UKアフリカン~カリビアンなど、祖国を離れて暮らす民族=ディアスポラの意識を示し、ヨルバ民謡などを演奏するケヴィン・ヘインズ・グルッポ・エレグアが参加。土着的な民族音楽とエレクトリックな最新鋭サウンドの融合が肝。
Binker & Moses
『Alive In The East?』
(Gearbox)
モーゼス・ボイドとテナー・サックス奏者ビンカー・ゴールディングのユニット。フリー色の強い即興演奏で、エヴァン・パーカーら大物とも共演。通算3作目の本作はライブ録音で、パーカーのほかユセフ・デイズ、バイロン・ウォーレンらが参加。ライブならではの怒涛のフリー・インプロビゼイションは、UKジャズのアンダーグラウンドなもう一面。
Sarathy Korwar And Upaj Collective
『My East Is Your West』
(Gearbox)
インドからロンドンに渡り、東洋やアフリカ音楽を専攻したタブラ奏者サラシー・コルワル。シャバカ・ハッチングス、ビンカー&モーゼス、テクノDJのジャマル・モスとの共演など幅広く活動する。2016年の処女作『Day To Day』以来の新作は、インド系の奏者と組み、ファラオ・サンダース、アリス・コルトレーン、ラヴィ・シャンカールらをカバー。
Kamaal Williams
『The Return』
(Black Focus)
ヘンリー・ウー名義でディープ・ハウスを作り、ユセフ・デイズとのユセフ・カマールでもジャズとクラブ・サウンドを融合してきた鍵盤奏者カマール・ウィリアムス。自身のレーベルを設立して放つソロ作は、ベースとドラムのトリオによるインタープレイを通し、エレクトリック・ジャズ、ジャズ・ファンク、ジャズ・ロックの最新形を提示する。
Mansur Brown
『Shiroi』
(Black Focus)
ユセフ・カマール、カマール・ウィリアムス、アルファ・ミストの作品で演奏し、ジャズ・ロック~フュージョン系ユニットのトライフォースのギタリストを務めるマンスール・ブラウン。本ソロ作はクラブ・サウンドと融和したエレクトリック・ジャズ~コズミック・フュージョンを披露するインスト集で、演奏的にはUSのサンダーキャットに比する存在だ。
Tenderlonious featuring The 22archestra
『The Shakedwon』
(22a)
レーベルの「22a」を主宰し、フルート/サックス奏者兼DJとして活動するテンダーロニアスことエド・コーソーン。ジャズとエレクトロニックなクラブ・サウンドを繋ぐ存在で、本作は「22a」のアーティストを全面的にフィーチャー。ユセフ・ラティーフを思わせるアフリカ色の濃いディープ・ジャズから、ヒップホップのビートを咀嚼した作品まで披露。
Jame ‘Creole’ Thomas
『Omas Sextet』
(22a)
モーリシャス系のジェイムス・トーマスと、そのいとこで「22a」周辺で活動するモー・カラーズらディーンマモード三兄弟の作品。ジョー・ヘンダーソン、ユセフ・ラティーフ、アーメッド・アブドゥル・マリクをカバーし、スポークン・ワードを取り入れ、「クレオール」の名が示す民族色豊かな演奏は、ナイヤビンギやルーツ・レゲエの神秘性に通じる。
Camilla George
『The People Could Fly』
(Ubuntu Music)
ジャズ・ジャマイカでも演奏してきたアルト・サックス奏者カミラ・ジョージ。新進気鋭のピアニストのサラ・タンディを擁するカルテット作『Isang』(2017年)に続く本作は、ギターのシャーリー・テテーやUKソウルの名シンガーのオマーまで参加。正統派ネオ・バップ、アフリカ調のフュージョン・ナンバー、ニュー・ジャズなど幅広い演奏を披露する。
Ashley Henry& The Re:Ensemble
『Easter EP』
(Silvertone)
ロバート・グラスパーに対する南ロンドンからの回答と評したくなる、そんな若きピアニストのアシュレイ・ヘンリー。リ・アンサンブルというユニットを率いた本作では、ナズの「The World Is Yours」のカバーがグラスパーを彷彿とさせる。人力ブロークンビーツ的作品からワードレス・ボーカルを披露する「Easter」と、並々ならぬ才能を見せる力作。
Ill Considered
『3』
(Ill Considered Music)
アイドリス・ラーマン、レオン・ブリチャードらの4人組イル・コンシダード。バングラデシュ系のアイドリスはレオンやトム・スキナーとワイルドフラワーというトリオも組む。パーカッションを交えた有機的リズムのフリー・インプロビゼイションを志向し、インド、中近東、アフリカなど民族音楽の要素を取り入れたジャズ、ジャズ・ファンクを披露。
Uniting Of Opposites
『Ancient Lights』
(Tru Thoughts)
DJ出身の鍵盤奏者ティム・デラックスが、ベーシストのベン・ヘイズルトン、シタール奏者クレム・アルフォードと結成したユニットで、アイドリス・ラーマンやエディ・ヒックら南ロンドン周辺のミュージシャンも参加。インドのラーガに基づくエキゾティックなディープ・ジャズやジャズ・ロックから、ダビーでアンビエントな世界まで飲み込む異色作。
The Expansions
『The Murmuration』
(Albert’s Favorites)
ギターと鍵盤を擁する南ロンドンの4人組エクスパンションズ。ロニー・リストン・スミスの曲がグループ名の由来で、ドラムのジョニー・ドロップはビートメイカーとしても活動するなど、クラブ・サウンド色の強い作品を志向する。DJが参謀につく本デビュー・アルバムも、ジャズ・ファンク、ソウル、ファンクの折衷によるUKらしいクラブ・ジャズ。
Jessica Lauren
『Almeria』
(Freestyle)
アシッド・ジャズの時代から活動するロンドンの鍵盤奏者ジェシカ・ローレン。『Jessica Lauren Four』(2012年)以来の久々の新作は、スペインのアンダルシア地方にインスピレーションを得て、スパニッシュやアフロ・ラテン、南米風味など異国情緒豊かなアルバム。ヤズ・アハメド、タマル・オズボーンらロンドンの気鋭女性プレイヤーも参加。
Richard Spaven
『Real Time』
(Real World Studios)
4ヒーローやシネマティック・オーケストラでも演奏した、UK新世代ドラマーの筆頭格のリチャード・スペイヴン。最新作は前作『The Self』(2017年)に続き、盟友的ギタリストのスチュアート・マッカラム、シンガー・ソングライターのジョーダン・ラカイも参加。「Spin」でのドラムンベースやダブステップを咀嚼した細かく刻まれるドラミングが彼の持ち味。
Portico Quartet
『Untitles (Aitaoa #2)』
(Gondwana)
スティールパンに似たハングドラムを導入した演奏で知られるポルティコ・カルテット。東ロンドン出身だが、マンチェスターの「ゴンドワナ・レコーズ」からリリースした『Art In The Age Of Automation』(2017年)、およびその同時期に録音されたセッション集の本作では、テクノやアンビエント、ミニマルを通過したジャズとエレクトロニカの融合を展開。
GoGo Penguin
『A Humdrum Star』
(Blue Note)
クリス・アイリングワース、ニック・ブラッカ、ロブ・ターナーによるマンチェスターのピアノ・トリオ、ゴーゴー・ペンギン。「ブルー・ノート」移籍第1弾『Man Made Object』(2016年)に続く新作は、オーガニックな要素、アンビエントな要素を取り入れるとともに、これまで以上にエレクトリック・サウンドのリズム・アプローチを推進した生演奏を展開。
Slowly Rolling Camera
『Juniper』
(Edition)
カーディフの4人組スローリー・ローリング・カメラは、女性歌手を擁したクラブ・ジャズ寄りのスタイルで、アルバム『Slowly Rolling Camera』(2013年)、『All Things』(2016年)を発表する。しかし最新作はボーカルが抜けたインスト集で、ギターのスチュアート・マッカラムらが参加。リチャード・スペイヴンやゴーゴー・ペンギンに通じる演奏を聴かせる。