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Photo / Joe Hart
近年の“ロンドン新世代ジャズ”の隆盛には、ふたつの重要ファクターがあるようだ。まずは、個性豊かなミュージシャンたちが数多く登場したこと。そして、彼らが交流しながら切磋琢磨する魅力的な場所(イベント)が、ロンドンにいくつも存在すること。
そうした「場」が、現ロンドンのジャズムーブメントを醸成したことは、本特集内の記事(ポール・ブラッドショウ/スチーム・ダウン)でもさかんに言及されている。ここでは、そんな新世代アーティストたちを育み続けるロンドンの重要イベントをエリア別に紹介したい。
世界有数の大都市として知られるイギリスの首都ロンドンは、中心部に位置する「■シティ・オブ・ロンドン(以下、シティ)」と32の自治区で構成されている。シティを取り巻く12の区(黒太枠内)はインナー・ロンドンと呼ばれ、その外側を囲む20の区(黒太枠外)はアウター・ロンドンと呼ばれている。
今回紹介するイベントが開催されているインナー・ロンドンは、名古屋市とほぼ同等の面積(319㎢)で、約320万人が暮らしているエリア。以下で紹介するのは「ルイシャム」「ハックニー」「ケンジントン・アンド・チェルシー」の3つの自治区で行われるイベントだ。
■ハックニー区/面積:19.06 km² 人口:26.9万(2015年)
■ケンジントン・アンド・チェルシー区/面積:12.13 km² 人口:15.77万(2015年)
話題沸騰!南東ロンドンのフリー・セッション・イベント
Steam Down(スチーム・ダウン)
https://www.steamdown.co.uk/
サックス奏者/ボーカルのAhnanseを中心に発足されたアーティスト集団&フリー・セッション・イベント。南東ロンドン・デトフォード(■ルイシャム区)のバー「Buster Mantis」にて毎週水曜日に開催され、ミュージシャンとオーディエンスが一体となった白熱のライブが話題を呼んでいる。アーティスト同士のコミュニティ・スペースとしての側面も持ち、現ロンドン・シーンで「最も影響力のあるイベント」との声も。
現シーンを黎明期から支える西の重要イベント
Jazz re:freshed(ジャズ・リフレッシュド)
https://www.jazzrefreshed.com/
ジャスティン・マッケンジーとアダム・モーゼスによって2003年に発足されたイベント。西ロンドン・ノッティング・ヒル(■ケンジントン・アンド・チェルシー区)の「Mau Mau Bar」で開催されている毎週木曜日のイベントをはじめ、年次のフェスティバル「JAZZ RE:FEST」なども開催するほか、近年はレーベルも始動。さまざまな若手を輩出してきた現シーンを黎明期から支える西の重要拠点。
北東ロンドンの教会を舞台にした2部編成イベント
Church of Sound(チャーチ・オブ・サウンド)
http://www.churchofsound.co.uk/
2016年に、スペンサー・マーティンらによって始動した、北東ロンドン・クラプトン(■ハックニー区)の教会「St. James」で開催されているイベント。2部編成のコンサートとなっており、若手から大物ジャズ・ミュージシャンまで出演。第1部では特定のジャズ・アーティストの楽曲が、第2部では出演者自身の楽曲などが披露されるという。ロンドンのジャズ系ファンの間で高い人気を誇るイベント。
(会場の様子は2:50以降から)
北東ロンドンのソーシャル・クラブ
TRC(Total Refreshment Centre)(トータル・リフレッシュメント・センター)
http://totalrefreshment.net/
2012年に始動した、北東ロンドン・ストーク・ニューイントン(■ハックニー区)のインディペンデントなアートや音楽をサポートしてきたコミュニティー・スペース。イベント・スペース、レコーディング&リハーサル・スタジオ、ギャラリーなどとしても機能し、ダンス・ミュージックやジャズ系シーンなどの音楽家たちの社交場となっていた。ハックニー区議会の介入により、今年6月にはイベント開催休止を発表。
現人気アーティストたちを育んだサウスの重要コミュニティ
Steez(スティーズ)
今回の取材で最も名前を聞いたイベントのひとつがこの「Steez(スティーズ)」だ。同時に、情報の入手が最も困難だったのも、このSteezだった。今回の取材を通して得た情報で、知り得る限りをお伝えしたい。
2011年、ルーク・ニューマンによって始動したマンスリー・イベント
現在活躍中のアーティストたちが「若手時代を過ごした南ロンドンの重要スポット」としてよく口にするのがこのイベントだ。南ロンドンの小規模会場を中心に開催され、イベント内では詩の朗読やDJ、ジャム・セッションなどがおこなわれていた。3〜5ポンドという安価な入場料にも関わらず、当時の人気バンドも多数出演。若いロンドン子たちの間で評判となり、同世代のアーティストたちのコミュニティ・スペースとして、またプロデューサーたちとの出会いの場としても機能していたようだ。
Steezに通ったアーティストたち
ヌバイア・ガルシア、テオン・クロス、モーゼス・ボイド、ジョー・アーモン・ジョーンズ、ジェイク・ロング、オスカー・ジェロームなどのジャズ系アーティストをはじめ、キング・クルール、コスモ・パイクなど、現在活躍中のアーティストたちもこのイベントに通っていたことを明かしている。
今回紹介したイベントについては、英音楽誌『ストレート・ノー・チェイサー』編集長のポール・ブラッドショウのインタビューでも語られているので是非ご参照いただきたい。