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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、現存する日本最古のジャズ喫茶「ちぐさ」を訪問。ここは昼と夜でコンセプトを変えることで、古き良きジャズ文化を守りながらも未来へ向けて果敢に挑戦する、ジャズ本来の心意気が感じられるお店でした。
閉店後、すべての備品を町内で保存
創業は第二次世界大戦前の1933年。2007~2012年に一時閉店を余儀なくされたものの、7年前に復活を遂げた横浜のジャズ喫茶「ちぐさ」。かつては、渡辺貞夫、秋吉敏子、日野皓正、さらにはクレイジーキャッツの面々など錚々たる顔ぶれが常連として通い、ジャズの発信基地としてその名を全国に轟かせた。現在は、創業の地(野毛町1丁目23番地)から通りを2本ほど隔てた、野毛仲通りに位置している。ここもまた以前は喫茶店だった場所であり、古き良き味わいが感じられる空間となっている。
「おやじ(創業者・吉田衛)が亡くなった後、妹の孝子さんと有志の手で引き継がれたのですが、区画整理があって立ち退かざるを得なくなったんです。そこで仕方なく、多くのジャズファンに惜しまれながらも閉店したんです」
そう語るのは、同店でディレクターを務める笠原彰二さんだ。
なお、跡地には現在マンションが建っており、その駐車場近くには記念碑のタイルが埋め込まれている。それほどこの町にとって大きな存在だったというわけだ。ゆえに、エピソードを語ればいくらでもあるのだが、ここでは復活の経緯と現在の姿を中心に話を聞いた。まず疑問に思うのが、一時閉店しながらもなぜ昔の姿で再オープンできたのかという点である。
「常連の方々を中心とした有志のメンバーには、”いつか必ず”という想いがあったんだと思います。閉店後、店の調度品や音響、レコードなどが、町内の所有物として横浜市の図書館に保管されることになりました。その後、2010年にアーカイブ展がおこなわれることになり、会場内にちぐさを実寸大で再現したところ大きな反響があったんです。さらに、翌年の東日本大震災をきっかけに『ちぐさ復活委員会』という会が発足し、復活への動きが本格化していきました」
一般社団法人として再スタート
2012年の復活にあたり有志が集まり、ジャズ喫茶ちぐさは一般社団法人となる。正式名称は『一般社団法人ジャズ喫茶ちぐさ・吉田衛記念館』。社団法人としての最終目標は、「ちぐさを含めた、ジャズにまつわるミュージアム建設」とされた。現在は、喫茶部門、レコードレーベル、イベント部門の3本柱で運営がなされている。
「創業者の吉田衛は気軽にお客さまと喋るタイプではなかったので、頑固親父のようなイメージがありますが、実は町内会の役員や、喫茶環境衛生同業組合の理事、さらには著作権を守る運動などをおこなっていました。そういった公益性・社会性に努めるという側面もまた、おやじの意思を継ぐことだと考えています」
そのような経緯を聞くと途端に、喫茶店というよりも文化遺産を訪れたような気分になってくる。お店の扉を開けると、まず目に飛び込んでくるのは巨大なスピーカー。すべての机や椅子はスピーカーに向かって配置されているため、ここが音楽を楽しむための空間であることを否応なしに感じることができる。
なお、ちぐさの音響機材はすべてオリジナルであり、アンプ類には「CHIGUSA」の文字が刻印されている。これらは、1970年代に高橋宏之氏(当時、ビクター社のエンジニア)がちぐさに適した耐久性を追求し、設計された4ウェイマルチアンプシステムで、中域と中低域が立った音響になっているという。
昼間はジャズ喫茶、夜は音楽バーに
現在は、カフェタイム(12:00~18:00)とバータイム(18:00~22:00)とに分けられており、昼間は古き良きジャズ喫茶の趣が楽しめる。お客さんの多くは60~80代の男性で、腕を組み、目を瞑りながら音楽を楽しんでいる人が多いとか。また、リクエストをお願いすれば、好きなアルバムの片面がかかるシステムとなっている。
「月曜は、マンデーちぐさと言って、元常連の方たちがボランティアで店を担当し、他にも不定期ですがレコード係で入る日もあります。一方、バータイムはジャズ好きの若いスタッフを中心に運営しており、DJや映像も取り入れた企画を実施したり、アルコールを飲みながら音楽談義ができる空間となっています」
昼間は往年のファンも楽しめる伝統的なジャズ喫茶、夜は未来に向けた新たなジャズ文化が形成されるバーと、ふたつが同居している点は、ひとりの店主ではなく組織運営されているからこそできる住み分けといえる。
ジャズの血を引き継いで繋げていく
「バータイムに関してはジャズに縛られることなく、いい音楽を皆さんに聴いていただきたい。ラテンがかかる企画やジャパニーズAORの企画など、ジャズとの融合点を探りながら、この音響システムでレコードを聴く楽しさを提供しています」
夜にはライブイベントも不定期で企画されており、最近では薩摩琵琶の演奏や、モンゴル馬頭琴の演奏もおこなわれた。
「幸いなことに、ちぐさではジャズ喫茶の全盛期を体験されている方々から若い世代まで、幅広い層に支えられています。僕らはその架け橋としてジャズの血を引き継ぎ、繋いでいくことができればと思っているんです」
・店舗名 ジャズ喫茶ちぐさ
・住所 神奈川県横浜市中区野毛町2-94
・営業時間 12:00~22:00(日曜は20:00迄)
・定休日 無休
・電話番号 045-315-2006
・オフィシャルサイト http://noge-chigusa.com/jazz/