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海外でのシティポップ人気を検証する本特集。ここでは、中古レコード店での訪日外国人たちの様子をリサーチ! 本当に多くの外国人が来店しているのか? 彼らはどんな盤を探しているのか? 『ディスクユニオン新宿 日本のロック・インディーズ館』の店長・松岡秀樹さんに話を訊いた。
世界中が山下達郎『FOR YOU』を探している
「実際、この2~3年は右肩上がりで増えています。毎日10人程度は来店されていますね。しかも、以前は欧米の方が中心でしたが、いまやアジアから中東に至るまで幅広い方々がお見えになります。どこの国から来られたのかはお伺いしないので、あくまでも外見からの推測ですが」
10年以上前から外国人の来店はあったというが、当時はフラワー・トラヴェリンバンドのようなニューロック、海外ではガレージサウンドの意味で略されるGS(グループ・サウンズ)、さらにはギターウルフのようなバンドを探している少数のマニアだった。その流れは残っているものの、日本人のコレクター含めて落ち着き気味だとか。
「現在の一番人気は、やはりTATSURO YAMASHITA(山下達郎)です。とくに『FOR YOU』を探されている方が多い。このアルバムは近年日本でも人気なので、入荷してもすぐに売れてしまうんですよ。相場よりも少々高い値付けをしてもすぐに売れてしまいます」
山下達郎作品はいくつか復刻されているが、『FOR YOU』は未だされていないこともあって品薄状態が続いている。
「ご本人がラジオで、”『FOR YOU』の音は当時のプレスでしか表現できない”という主旨のお話をされていたので、今後も復刻はないのではと予想しています」
再発レコードでの中では、大貫妙子『SUNSHOWER』が横綱級の人気。テレビ東京の人気番組『Youは何しに日本へ?』で、このアルバムを探す外国人が登場(2017年8月放送)したことで大きな話題となった一枚だ。以前も復刻されたことのある作品だが、あの番組を機に再プレスが決定。それもすでに5thプレスになり、早くも6thプレスが決定しているというのだから驚きだ。
外国人も日本人も狙う盤はほぼ同じ
「大貫妙子さんの『SUNSHOWER』は、日本でも人気が高いですからね。いわゆるシティポップと呼ばれているような、ソウルフルで耳あたりのいいサウンドは全世界的に人気だということです。なので、日本人も外国人も同じようなものを探している感じがします。グローバル時代というのを肌で感じますよ」
『SUNSHOWER』はオリジナル盤も相変わらず人気が高く、1万円超えは確実。一方で、外国人から大瀧詠一の名前が出ることはほとんどないとか。もしかすると、まだ知られざる日本のアーティストなのかもしれない。
「角松敏生さんの名前も意外に出てこないんですよね、ジャパニーズAOR的な流れでいえば話題になりそうなんですが…。一方で、細野晴臣さんは『HOSONO HOUSE』のみならず、70年代のトロピカル3部作、80年代のアンビエント作品まで幅広く人気です。細野さんは日本でも再び人気が高まっているのでモノがない状態です。最近はアメリカで復刻されていますが、契約上の問題なのか日本には入ってこないんです」
アメリカに行った際は、細野晴臣の海外復刻版をお土産にするのも良さそうだ。さて、ここまでで外国人も日本人と似たような作品を探している傾向にあることは理解できた。では、外国人のほうがより熱心に探しているアーティストというのはいるのだろうか?
ラ・ムーの再評価熱が高まっている!?
「中国の方だと思いますが、テレサ・テンさんの人気がすごいです。LP盤の価格は天井知らずで上がっていますね。また、年齢問わず、安全地帯および玉置浩二さんを探されているアジア系の方は多い。その他、海外で巻き起こっているブギー/ファンクの流れで、菊池桃子さんのラ・ムーや、亜蘭知子さん、大橋純子さんの『POINT ZERO』あたりを探されている方も多い。ここら辺は日本の和モノDJたちも掘っていますが、外国人も熱心です」
あのラ・ムー!? と驚いてしまうが、久しぶりにYouTubeで聴き直してみると、「なるほど、そうかそうか、確かに」と納得してしまうものがある。
「あとは、フュージョンの評価が高い気がします、80’sの流れで、鳥山雄司さんや松下誠さんのようなギターリストによるメローなナンバーは安定感がある。また、カシオペアは日本人よりも海外の方のほうが買われていきます」
取材時に店内にあったもののなかから、『ディスクユニオン新宿 日本のロック・インディーズ館』で人気の5枚を選んでもらったところ、前述の山下達郎『FOR YOU』、大貫妙子『SUNSHOWER』の他に、浅川マキ『浅川マキの世界』、清水靖晃『DEMENTOS』(復刻盤)、YMO『SOLID STATE SURVIVOR』(復刻盤)が入った。
「浅川マキさんは、何年か前に海外でベスト盤が発売されたこともあり、2~3年前から問い合わせが多いですね。清水靖晃さんはソロアルバム『案山子』と、彼が組んでいたマライヤの『うたかたの日々』が、5年ほど前に中古市場で急に値上がったんです。当時から”海外で人気らしい”という話になっていて、『DEMENTOS』もその流れで復刻されました。YMOは言わずもがなというか、購入される外国人の方は多いですね」
過度な海外流出を危惧する時代に
訪日外国人がどのように『ディスクユニオン』を知るのかは不明だというが、新宿駅南口にある観光案内所では、「この近くにレコード屋はあるか?」ではなく、「ディスクユニオンはどこだ?」という質問のほうが多いとか。現在は駅からお店までの地図が入った簡単なチラシを作り、ホームページは英語版も用意されている。
「今後、彼らが再び日本の60~70年代を掘り始めるのか? はたまた90年代へと向かうのか? そこはわからないですね。でも、90年代はCD時代なので”掘る”というよりも”復刻されるのを待つ”という状態になってしまうので、それはそれでつまらない気もします。一方、日本のレコードが国内からどんどん流出しているという危惧もあります。そんな心配をするなんて、10年前には考えられなかったことですが…」
ディスクユニオン新宿 / 日本のロック・インディーズ館
住所:東京都新宿区新宿3-31-4 山田ビル B1
電話:03-3352-2697
定休日:無休
営業時間:11:00~21:00(日祝11:00~20:00)