投稿日 : 2019.02.27 更新日 : 2021.10.16
【新譜レビュー】“ただのフュージョン” ではない クリス・ポッターのビート探求作『サーキット』
- タイトル
- Circuits
- アーティスト
- クリス・ポッター/Chris Potter
- レーベル
- Edition Records
- 発売日
- 2019.02.22
マルチ奏者として知られるクリス・ポッターの最新アルバム。本作でも彼はテナー、ソプラノサックス、クラリネット、フルートを吹き倒し、ギター、キーボード、パーカッション、サンプラーまで駆使。前作(ECMから発表)は、アコースティックで静謐な雰囲気だったが、本作はエレクトリックでアクティブだ。その意図は、アルバムのオフィシャル・ビデオでも語られている。
雑な言い方をすると、本作はファンクなフュージョンだ。ただし、ダサくならない “フュージョンのやり方”が巧いなぁ…と感心しきり。そこは、バンドメンバーのジェイムス・フランシーズ(p)、エリック・ハーランド(ds)、リンレイ・マルト(b)のセンスと手腕によるところも大きいのだと思う。ちなみにアルバム名になった「サーキット」はこんな曲。
この語句「サーキット(Circuits=回路)」は、そのままジャケットのアートワークにも反映され、その図案は、本アルバムの “サウンド的な特徴”とも合致している。
ただし、この「サーキット(回路)」を「サイバーで無機質なもの」と捉えるのは短絡的かもしれない。収録曲をよく観察すると、この「回路」とは、人間の神経や循環器であり、また、都市や交通といった人々の営みでもあり、ひいては、彼が奏でる“空気を送り込む楽器” の比喩でもあることがわかる。
だから、こんなオーガニックな質感の曲も、不思議と全体になじむのだ。
ところで、この曲名「Koutome(コウトメ)」って何? まるで日本のお囃子や童謡のような旋律だが…元ネタはこれ。
こうしたアフリカ由来のポリリズムとファンク成分も、アルバム全体に浸透している。これと対極にあるはずのパルス(電気信号)感や、集積回路さながらの多重録音とのマッチングもおもしろい。
その調和を象徴する場所が、アルバムの中間地点にある。件の「Koutome」と次曲「Circuits」(タイトル曲)の連結部分だ。この2曲のクロスフェードが超かっこいい。 まるで「人間的な器官」が「機械的な回路」にトランスフォームする様子を見せているようで、このアルバムの “最もエキサイティングな瞬間”だと思う。
そして、明滅信号のようなフレーズを矢継ぎ早に繰り出す、彼のプレイを聴きながら思う。これも、優れた脳回路の賜物だなぁ、と。