投稿日 : 2019.04.12
【須永辰緒/Sunaga t experience】総勢34名の大プロジェクトに発展! 4年ぶり新アルバムの中身は…
取材・文/村尾泰郎 撮影/山下直輝
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DJ/プロデューサーとして知られる須永辰緒のソロ・ユニット、Sunaga t experience が4年ぶりの新作『Suomenlinna』をリリースする。
本作には、フィンランドのジャズ・グループ、ファイヴ・コーナーズ・クインテットのメンバーやSTUDIO APARTMENTなど、国内外のアーティストが総勢34名参加。ジャズをベースにしながらも、ブラジル音楽、エレクトロ、ハード・ロックなど、多彩な要素を盛り込んだバラエティ豊かなアルバムだ。
総司令官にして連絡係?
──今回の新作には34名ものミュージシャンが参加しています。いまや Sunaga t experience はビッグ・プロジェクトですね。
そうなんですよ。アース・ウィンド&ファイアーのフルメンバーより多い(笑)。
──そんななかで、須永さんは司令塔の役割を果たしているわけですが。
一応、Sunaga t experience(スナガ・ティー・エクスペリエンス) という名前は付いていますが、名前はどうでもよくて。参加した人がすべてのメンバーで、皆さんのアイデアを持ち寄って、それを具現化するのがこのユニットの目的なんです。最初に僕が「こういう曲を作るから、この人とこの人にお願いしよう」っていうふうにチョイスはしますけどね。そういう適材適所で連絡する係が僕なんです。だから、司令塔であり連絡係(笑)。
──どちらも重要な役割ですよ。日頃からいろんなミュージシャンのプレイを聴いて、コミュニケーションもとっておかないといけない。
ファースト・アルバムを出したのは2000年だったと思いますけど、その頃とは比べものにならないぐらい、優秀なミュージシャンの輪が広がったんですよ。今回、6枚目のアルバムですけど、こんなにブッキングが楽だったアルバムはないですね。
──なかでも、今回は万波麻希さんがかなり関わっていますね。
僕、彼女は天才だと思ってるので。僕が仕上げたものに、さらにエレクトロを入れてくれたり、こっちが投げた簡単なメロディーを作曲し直したりとか、そういうこともやってくれるんです。
“あえてエレキ・ギター”の理由
──オープニング曲「いびつな果実」も、万波さんが作詞作曲を手掛けています。たとえば、この曲の制作に対して、須永さんはどんな指示を?
こういうメロディーで、リズムはスカで、途中でハード・ロックになるよって。いつも、そんな感じで投げてます。
──突然、エレキ・ギターが鳴り響いてハード・ロックになるところは驚かされました。
これまで自分のアルバムで、エレキ・ギターってあんまり使ってないんですよ。管楽器が好きなもんですから。ところが、このアルバムを作ってるタイミングで、映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観ちゃって(笑)。中学生の時に聴いてたレコードを取り出してきて聴いてたんですよ。クイーンとかハード・ロックを。そしたら楽しくなってきちゃって。
──そういえば、カンサス「On The Other Side」(注1)のカヴァーも収録されていますね。カヴァーというか、ほとんど再構築されてジャズになっていますが。
まさかのカヴァーでしょ? この曲をジャズ・アレンジした人はいないんじゃないかと思って。アレンジをお願いした竹中(俊二)さんと相談しながら、プログレッシヴ・ジャズみたいな感じにしてみました。
注1:アメリカ出身のロックバンド、Kansas(カンサス)。「On The Other Side」は1979年発表のアルバム『モノリス』に収録。
──竹中さんはこの曲や「いびつな果実」でも、熱いギター・ソロも聴かせていますね。
竹中さんも今回のアルバムのキーマンですね。「いびつな果実」のハード・ロック・パートは、マイケル・シェンカーでお願いしました(笑)。「On The Other Side」はオリジナルのイントロだけ使って、カマシ・ワシントンみたいな曲を作ってやろうと思ったんです。
ただ、僕がカマシと違うのは、白人音楽やロックが好きなところで。だから、結局カマシみたいにはならなくて、いまのUKやイスラエルの若いジャズ・ミュージシャンの音みたいな組み立て方にシフトしました。二転三転する曲ですが、途中で4ビートになる時のギターはグラント・グリーンのイメージです。
“レミオロメン”カバーの経緯
──ギターでいえば、打ち込みのビート「Rogue」に絡む小原正裕さんのフラメンコギターも印象的です。
すごいギタリストで唯一無二の存在なんです。同時に、そう簡単に(こっちの意図で)制御できるギタリストではない。だから、譜面を送って「こういうフレーズは入れてほしい」っていう要望を先に伝えてはいますけど、レコーディングのときは自由に弾いてもらってます。
──この曲の作曲とトラックメイキングを手掛けたのは、STUDIO APARTMENT の二人です。メンバーの森田さんは、須永さんの弟子筋にあたる関係性。
最初に、ディープ・ハウスの曲を作ろうと思ったんですよ。そのこととメロディーの動きだけ二人に伝えて、「スタアパらしいコード進行でいいよ」って頼んだんです。それで出来上がったものに少し手を加えたんですけど、フラメンコギターを入れたのも、そのひとつ。ちなみに曲名「Rogue」は「悪党」って意味ですね。
──なるほど…。あと、印象的だったのは、レミオロメン「粉雪」のカヴァー。この曲と「SQUAW MARCH」には、フィンランドのジャズ・グループ、ファイヴ・コーナーズ・クインテットのメンバー3人が参加していますね。
彼らとは10年くらい付き合いがあるんですが、今回、参加してくれた3人がトリオ編成で 来日したんです。そのタイミングで「せっかくだから何かレコーディングしようよ」って声をかけて、スタジオも押さえちゃったんです。
「SQUAW MARCH」をやることは決めてたんですけど、もう一曲何かやりたいと思ってて。ある日、カラオケに行ったら、誰かが「粉雪」を歌っていて、そのとき「ん? この曲、ジャズ・ボッサにしたらいいんじゃない?」って思いついた。
太宰百合さんにアレンジをしてもらったら面白い仕上がりになって、(ファイヴ・コーナーズ)の3人にやってもらうことにしました。で、レコーディングした「SQUAW MARCH」と「粉雪」を7インチシングルにして、レコードストア・デイでリリースしました。そんな経緯がある曲。
アニメで知った“オトナの世界”
──先ほど管楽器がお好きだと言われていましたが、「SQUAW MARCH」も「粉雪」も2管のホーンがメインになっていますね。
メインのフレーズが2管でバーッて鳴ってるのが、自分にとっての “カッコいいジャズ” なんですよね。アルバムを作るうえで、自分の音楽体験がバックボーンになってることは間違いなくて。そうすると、どうしてもホーンに行きたくなるんです。メロディーはホーンに任せちゃおう、みたいな。
──音楽体験といえば、アニメの「サスケ」のテーマ曲をカヴァーされていますが、この曲も昔から好きだったとか?
子供の頃に観てましてね、あの「サスケ」の世界観が、僕にとってのジャズなんです。「ルパン三世」もそうですけど、子供の頃、そこに漠然と“オトナの世界”を感じてた。当時の作曲家って、海外から仕入れた音楽をアニメで使って遊んでいたんだと思うんですよ。そういうものは、演歌が根っこにある歌謡曲には使えないですからね。ちなみに「サスケ」は本当に大好きで、カヴァーするのは今回で2回目なんです。
──今回の「サスケ」アレンジのポイントは?
前回はエレクトロ風だったので、今回はジャズ・サンバ風にしようと思いました。トランペットは僕が知る限り、いちばん哀愁があるトランペットを吹く佐々木史郎さんにお願いして、オリジナルに入っているナレーションも入れたんです。オリジナルの雰囲気を再現したいと思って。
──佐々木さんのトランペットが、尺八かと思うくらい枯れた音色ですね。
枯れ過ぎですよね(笑)。この曲は単純なメロディーの反復なんですけど、ジャズ・ミュージシャンにとって、それがいちばん難しいんです。
──こういうノアールなムードの曲が、須永さんが惹かれるジャズ、「夜ジャズ」なんですね。
マイナーでブルージー、そういう曲がやっぱり好きですね。あとは、リズム設定が立っていたほうが、フロアでかけやすいっていうのもあります。DJなもんで、踊れるかどうかは重要なんです。だから、僕はインプロビゼーション要素をわりと無視するわけです。
“僕が好きなジャズ” を選別する大きなザルがあるとしたら、そこにはリズム設定とテーマ(メロディ)っていう要素しかなくて。それ以外はザルからこぼれても構わない。その編目のデカいザルに残ったものが「夜ジャズ」で、メロディーはできればメジャーよりマイナーのほうがいい。まあ、ジャズのことをそんなにわかってないのにエラそうなこと言ってますが。レコーディング中にカンサスを聴いてるような男ですからね(笑)。
──でも、カンサスからカマシを発想するところが須永さんのオリジナリティなんでしょうね。そして、それがアルバムの懐深さに繋がっている。
今回は何度聴いても飽きないアルバムになったと思います。パンチが効き過ぎてる曲が入ってると、その曲に持って行かれてほかの曲の印象が薄くなってしまう。でも、今回は好き勝手に作ったのが功を奏したのか、全体的に良いバランスになっていると思いますね。
もともと作り方が客観的というか、オリジナル曲もリミックス的な感覚で曲を作ってるんですよね。ホントは魂こめなきゃいけないんですけど、なんか違うとこから見てる。
──作家というより、プロデューサー的な視線なんですね。
そうですね。曲を作る時も、みんなに投げることが多いんですよ。自分ひとりで才能を爆発させるよりも、みんなで作った方が楽しいし、自分では全然思いつかないカッコいいフレーズがいっぱい出てくる。「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」の精神、それが Sunaga t experience なんです。
【Sunaga t experience オフィシャルサイト】