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Montreux Jazz FestivalMontreux Jazz Festival Japanチャールズ・ミンガスライブ盤で聴くモントルー
投稿日 : 2019.04.15 更新日 : 2020.07.22
文:二階堂 尚
「世界3大ジャズ・フェス」に数えられるスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバル(Montreux Jazz Festival)。これまで幅広いジャンルのミュージシャンが熱演を繰り広げてきたこのフェスの特徴は、50年を超える歴史を通じてライブ音源と映像が豊富にストックされている点にある。その中からCD、DVD、デジタル音源などでリリースされている「名盤」を紹介していく。
ジャズ界のレジェンドたちが毎年のように出演しているモントルー・ジャズ・フェスティバル。過去の貴重な演奏は、現在もライブ盤で味わうことができる。モントルーの名ライブ盤を紹介する連載の4回目は、モダン・ジャズを代表するベーシストであり、ジャズ界一の暴れ者と呼ばれたあの男のステージの記録を取り上げる。
晩年と言っていい1975年にチャールズ・ミンガスはモントルー・ジャズ・フェスティバルのステージに初めて立ち、その2年後にメンバーを替えて再び出演した。永眠したのはさらにその2年後である。
最後の数年のミンガスは筋萎縮性側索硬化症という難病に苦しめられ、車椅子の上で手を動かすこともできなくなり、おそらくは深い失意のうちに世を去っていった。すでに楽器を弾くことができなくなっていた頃、ホワイトハウスのジャズ祭に総勢500名のミュージシャンとともに招かれたときの映像が残っている。司会がミンガスの名を呼び、筋力を失ってタコの足のようになったミンガスの手を取る。当時の米大統領ジミー・カーターがミンガスの肩を抱く。ジャズ界一の暴れ者だったベーシストは、顔をしかめて子どものように泣きじゃくる。凶暴な外貌の中に深く秘めていた弱さと悲しみがほとばしった瞬間ではなかったか。
1978年6月に開催されたホワイトハウス・ジャズ・フェスティバルで涙を流すミンガスの姿は、彼の大ファンだった「キンクス」のレイ・デイヴィスが監督したドキュメンタリー『ワイアード・ナイトメア』で見ることができる。5分35秒くらいから。
75年のモントルーのステージの記録は、音源と映像で残されている。前半では、当時の最新作であり自ら自信作と語っていた『チェンジズ・ワン』、『チェンジズ・ツー』からの3曲が演奏される。聴きものは、この年でミンガス・グループを離れるドン・プーレンの無調すれすれの激しいピアノだ。彼はこの後、自身のグループで何度かモントルーに出演し、2枚の公式ライブ盤を残している。
しかし、このステージが本当に盛り上がるのは、バリトン・サックスのジェリー・マリガンがゲストで登場する後半の2曲である。ミンガスの代表曲であり、胸をかきむしられるような哀切なメロディをもつブルース「グッドバイ・ポーク・パイ・ハット」と、彼の生涯のアイドルであったデューク・エリントンの「A列車で行こう」。マリガンのプレイは全盛期には及ばないものの、ハード・バップの巨人とクール・ジャズのスターの豪華な共演に観客は大いに沸いている。
終始何かにじっと耐えているような表情で黙々とベースを弾くミンガスだが、このステージではまだ立ったままベースを弾くことができている。独特の野太いトーンも健在で、短くも非の打ちどころないソロを要所で聴かせる。いつまでもこの音を聴き続けていたいと思うのはミンガス・ファンだけではないだろう。
この演奏の4年後、ミンガスはメキシコで客死する。魔女の祈祷によって病気が治癒する可能性があると彼の地にミンガスをいざなったのは、モントルーで共演したマリガンであった。遺骨は故人の遺志に従い、妻スーの手でインドのガンジス川に流された。
『ライブ・アット・モントルー1975』
チャールズ・ミンガス
■1.Devil Blues 2.Free Cell Block F, Tis Nazi USA 3. Sue’s Changes 4.Goodbye Pork Pie Hat 5.Take the “A” Train
■Charles Mingus(b)、Don Pullen(p)、Dannie Richmond(ds)、George Adams(ts,fl,vo)、Jack Walrath(tp)、Gerry Mulligan(bs)、Benny Bailey(tp)
■第9回モントルー・ジャズ・フェスティバル/1975年7月20日のライブ音源
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