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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、「アーティストが棲みついたビル」というコンセプトを掲げた建物1Fにあるカフェ&バーを紹介。イベントやパーティ開催時は3フロアを使って楽しめるなど、日本橋を変える可能性を秘めたワクワクする空間でした。
NYでのAirbnb体験を日本橋で再現
日本銀行本店や東京証券取引所がある金融の中心地であり、問屋や製薬会社の多いオフィス街として知られている日本橋(東京都中央区)。近年は再開発も進んでおり、三井不動産による『コレド』の名を冠した商業施設が4つも誕生するなど、新たな活気が生まれている。
『THE A.I.R BUILDING(ジ エアービルディング)』は、そんな日本橋のオフィス街にあり、新日本橋駅(JR)から徒歩2分、三越駅前(銀座線・半蔵門線)から徒歩3分という好立地に建っている。
同ビルは、B1F『BASEMENT』ギャラリー兼ライブスペース、1F『AIR CAFE』カフェ&バー、2F『LOFT』カフェスペース兼アーティストの宿泊ルーム、3F『BOX OFFICE』シェアオフィス、4F『WAREHOUSE』事務所、というユニークな構成となっている。A.I.Rとは「Artist In Residence(アーティストが滞在しながら制作をする場所)」の略であり、このビルのコンセプトを知るうえで欠かせないポイントだ。
「NYに住んでいたときに、ソーホーやブルックリンなど、エリアの違う場所で5軒くらい部屋を借りてAirbnbをやっていたんです。各エリアに住んでいそうなペルソナ(年齢、職業、ライフスタイルなどを加味した架空の人物像)を作って、そこにフィットする家具を選んだりして。それが好評だったので、『ジ エアービルディング』でもその手法を取り入れています」(CEOの梁 剛三さん)
主人公はNY出身のジャズトランペッター?
『ジ エアービルディング』のペルソナは、NYで運営していたAirbnbよりも設定が細かく、小説仕立てになっている。少々長くなるが、ざっと説明するとこんな感じだ。
1970年代にマイルス・デイヴィスとその座を争うようなジャズトランペッターだった主人公のジャイルス。彼はあるとき、NYに来ていた日本人女性と恋に落ちる。プレイスタイルも変わるほどの激しい恋だったが、やがて彼女は異国でのストレスにより帰国してしまう。キャリアを取るか愛を取るかで悩んだジャイルスは、意を決して東京に。そして、家が裕福だった彼女の父親が所有していた空きビルで、ふたりは生活を始める…。というものだ。その設定の上に、アーティストレジデンスというコンセプトが合わさっている。
ゆえに、1Fはアーティストのラウンジ兼キッチンという趣で作られている。手がけたのは、隈研吾氏の右腕ともいえるスペイン人のハビエール・ビヤール・ルイズ氏と山崎智貴氏の建築家ユニット『ハプンスタンス・コレクティブ』。そして、アーティストのワークスタジオ兼レジデンスをイメージしたという2Fは、大工の長敬之氏によるもの。ここは実際にアーティストが泊まることもできる。そして、ロゴデザインなどグラフィックを担当したのは、東京在住のスペイン人、グラフィック=ルイス・メンド氏。彼らに上記のテキストを渡し、あとは自由にやってもらったとか。
「アーティストレジデンスを謳っておきながら、自分が口を出すのは良くないなと思ったんですよね。ですから、彼らのクリエイティビティにすべて任せました」(CEOの梁 剛三さん)
結果的に、複数のアーティストが関わっているものの統一感があり、70年代の空気感も香る、居心地のいい空間となった。彼らを紹介したのは、当時この物件を梁さんに紹介した不動産屋であり、現材は共同経営者となったCOOの高田郷子さんだ。
「2014年にNYから、東京でAirbnbができる物件を探して欲しいという問い合わせがあって。その縁で交流が始まったんです。その後、彼が帰国を考え始めた2015年に、ホステルとして使える物件を探して欲しいと。そのなかで出てきたのがここなんです」(COOの高田郷子さん)
ブルックリンのように発展する可能性
このビルは当初、ホステルとして運営する予定だった。しかし、法律の要件を満たす部屋づくりをすると部屋数が足りず、採算が合わないことが判明。普通ならそこで諦めるが、梁さんはこのビルに一目惚れしてしまい、ここでできることを考えた末に現在のカタチへと進んでいったという。
「私も最初にひとりで内覧に来たとき、外観や室内に足を踏み入れた雰囲気がいいなと感じていたんです」(COOの高田郷子さん)
不動産業を生業とするふたりが、共に気に入った物件。お互いにアイデアを出し合っているうちに、高田さんは会社を辞めて一緒にこのビルを盛り上げていこうと決心する。
「周辺の土地勘はなかったんですけどね。ビルが持っているヴァイブスが良かった(笑)。それと、自分がNYに住んでいるときにブルックリンがどんどん盛り上がっていくのを間近で見ていて。向こうは倉庫街でこちらはオフィス街という違いはありますけど、渋谷から20分とアクセスもいいし、電車も3ライン使える。結局、中心地からのアクセスは大事なんです。今始めたらパイオニアになれるかな? という思いもありました」(CEOの梁 剛三さん)
とはいえ、日本橋はオフィス街のため近くに住人がいない。だからこそ、夜でも大きな音が出せるが、終電が過ぎると今なお寂しいエリアでもある。
「オープニングパーティで黒田卓也さんが出てくれたり、イベントでさかいゆうさんが出てくれたりと、これまでも面白い人が出演してくれているんです。今後はもっとイベントを活性化させて、日本橋へと出かけたくなる、何かが起こる場所にしていきたいです」(CEOの梁 剛三さん)
時間帯やメンバーで空気が変わる場所
通常営業時の主なお客さんは、近隣のビジネスパーソン。好評のランチは、カレーまたはキッシュが選べ、コーヒーまたは紅茶付きで1000円。キッシュは女性向けかと思いきや、「食べ応えがありつつも、満腹になりすぎないのがいい」ということで男性人気も高いとか。さすがは仕事を第一に考えるビジネスパーソンが多いエリアだ。夜はカフェ&バーとして、隠れ家的なお店となっている。
「周辺で働く方々にとって、スーツのジャケットを脱いだら自分もアーティストなんだと思えるような空間になりたい。ここに来たら何かしら刺激を受ける場所、徐々にそういうことが起き始めているんです」(CEOの梁 剛三さん)
やり手の実業家に見える梁さんも、じつは元ミュージシャン。NY行きのキッカケは、シンガーソングライターとして活動していた自分に新たな刺激を与えるためだった。結果的にNYで不動産の仕事に就き、副業でAirbnbを始め、結婚して子どもが生まれて現在に至る。そんな経緯もあって、店内で流れる音楽にこだわりがある。
「オープンから14時までのランチタイムはビジネスパーソンが多いので、1950年代ヒッツをよくかけます。耳馴染みが良くて、空間としての雰囲気が出やすいクラシックアメリカン。14時以降は最近のアーティストのチルアウト系で、のんびりした雰囲気に。18時からは、お酒が進むような音楽というかトム・ミッシュのようなサウンドを流すことが多いです」(CEOの梁 剛三さん)
Spotifyを音源とすることが多いこともあり、音響はアンプ、スピーカーともにLINNで揃えた。ゆえに空間に優しく馴染む、透明感のあるサウンドが響き渡る。
日中、通りに面した大きな出窓の前に腰掛けて、のんびりお茶をしていると、時間が過ぎるのを忘れるほど心地いい。夜はラウンジとして、何かが生まれそうな空間に。そして、イベント開催時はガラリと雰囲気が変化する。
『ジ エアービルディング』は、そこに集まる人によって表情が変わっていく。皆さんもふとした瞬間に気軽に足を運び、そのときどきの風を感じながら自分の色を加えてみてはいかがだろう。
・店舗名 THE A.I.R BUILDING
・住所 東京都中央区日本橋本町3-2-8
・営業時間 11:00~23:00、11:00~18:00(土曜、日曜)
・定休日 不定休
・電話番号 03-6262-6476
・オフィシャルサイト https://theairbuilding.com/