初めてジャケを見た時は、「サン・ラかな?」と思った。
右手にはじゃらじゃらと大量のアクセサリーをつけ、左手にはスマートウォッチ。民族衣装のような黒と金のチュニックに、同系色の帽子、極め付けは金ラメのスリッポンである。そしてタイトルは「グローバル」、どうにも納得せざるを得ない組み合わせではある。
そんなジャケットのファースト・インパクトもさることながら、しかし音を聴いてガツンとやられる。
こちらはアルバムから先行して公開されているMV。冒頭はゴスペル・タイプの美しいバラッドだが、1分を過ぎたあたりでグルーヴィーなR&Bへと一変する。ムービーでは暴力、貧富、苦悶により揺れ動く心情が描かれているが、それらを貫くのは野太いソプラノ・サックスの咆哮。ボサ・ノヴァとゴスペルを行き来しながら、音楽による自由への希求を見事に歌い上げてみせる。
他にもジャズとアフロ、ハイチの伝統的なフォルクローレをブレンドした「ナゴ-コンゴ」。「アメージング・グレイス」を想起させるゴスペル「リヴェレーションズ」など、いずれも自身のアイデンティティを、音楽の持つ共通言語で拡張したよう。それも実験的に組み合わせられたのではなく、ルイスならではのグローバリズムが具現化されたものであることがプロフィールからも伺える。
ルイスはニューヨークのハーレム生まれ。ハイチで育ち、各地を転々としながらも9歳で楽器を手に取ると、米バークリー音楽大学へ進学。卒業後の2013年にはセロニアス・モンク・ジャズ・コンペティションの第3位を獲得し(優勝はメリッサ・アルダナ)、近年もテリ・リン・キャリントン(ds)らの重要作に参加するなど注目を集めていたところへ絶好のタイミングで初リーダー作となった。
三度ジャケットに目を戻すと、服装&デザインで目のやり場がないところ、視線は自然と楽器へ吸い込まれていく。オレンジがかったラバー・マウスピース*1は、パリに工房を構えるサイオス(Syos)というメーカーによるカスタム・モデル。日本ではあまり馴染みのないメーカーだが、音にきらびやかな成分が(良い意味で)少なく、しかし反応の良さは上々。組み合わせるリガチャー*2は最近はやりのシルバースタインというセッティング。ルイスの体型はずんぐりとしていてキャノンボール・アダレイのようだけれど、彼ほど息のスピードは速くなく、それがセッティングとマッチして全音域でまろやかな響きが特徴的だ。
*1:サックスの唄口。材質や内部容積などで音色、吹奏感などが大きく変わる。
*2:唄口と「リード」と呼ばれる振動体を固定するための金具。材質や設置面積で音色、吹奏感が大きく変わる。
という具合になんとも情報量の多い本作だが、かててくわえてリリースはCD2枚組というボリューム。カマシ・ワシントンにしても3*、ルイスにしても最近のプレイヤーはなんと濃い情報を、大量にアウトプットするものだろう。しかも量によって質の薄まるものではなく、いずれもがハイ・クオリティに仕上がっていることに驚かされる。特に本作は周囲を見渡してもシーンにおいて特異。地球規模においては「ジャズ」が語法でしかないと改めて示した重要作であることに間違いなく、ジャケットに翻弄されず聴いておくことをおすすめする。
*3 1st作は3枚組、至近作も隠しディスクを含む3枚組。