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ロサンゼルスを中心にレイ・チャールズやドクター・ドレ、フライング・ロータスなどといったビッグアーティストからアレンジを依頼されるなど、絶大な信頼を得ているヴィオラ奏者/アレンジャー、ミゲル・アトウッド・ファーガソン。
カルロス・ニーニョとの出会いを経て、カルロス・ニーニョ率いるユニット、ビルド・アン・アークや、カルロス・ニーニョの連名でJ・ディラへのオマージュを捧げたEP『Suite For Ma Dukes』をリリース以降、瞬く間にLAの音楽シーンでミゲルの名は広がった。今後は、フライング・ロータスのレーベル、Brainfeederやジャズの名門Blue Noteからもミゲルのアルバムのリリースが決まっているとも噂されるほど、今、世界中で大きな注目を集める存在となっている。
近年、弦楽カルテットのカルテット・ファンタスティコによる即興演奏のみで綴った『Music For Dreams』をリリースし、ジャズともクラシックとも違うその独特のサウンドは、彼の音楽がはらむ“可能性”を改めて示してくれた。そして今回、これまでの活動の集大成とも見て取れるアルバム『Library Selection』を初めて自身の名前のみを冠としてリリースする。ジャズ、クラシックだけでなくアンビエントやニューエイジに至るまで幅広く彼がアレンジを施した楽曲が収録されている。アレンジャーとしての魅力がつまった本作をはじめ、彼の音楽観について話を聞いた。
「いろいろなムードや意思を表現するには、いろいろな形式の演奏法を探求するべきだ 」
——南カリフォルニア大学でクラシックを学んだと聞きました。大学でどのようなことを学んでいたんですか?
「専攻は、ヴィオラとクラシックヴィオラの曲目をマスターすることが中心だった。何を学んだかをここで簡潔に答えるのは、不可能なくらいたくさんのことを学んだよ! 金銭的にも、先生たちにもかなり恵まれた環境で5年間の大学生活を送ることができたと思う」
——以前、カルロス・ニーニョとの出会いが大きかったとおっしゃっていましたが、どのように出会い、一緒に活動するようになったのでしょうか?
「2000年くらいに、当時の教授、ネイト・モーガンと一緒にラジオ出演した時にカルロス・ニーニョと出会ったんだ。すぐに一緒に何か作るということはなかったけど、2005年にカルロスから、僕が所属しているカルテットのスーパーノヴァでドワイト・トリブルのアルバム『Love Is The Answer』に参加してほしいと連絡があって、そこから親交が始まったんだ」
——ネイト・モーガンと一緒にラジオ出演したともおっしゃっていましたが、彼から学んだことを聞かせてください。
「アーティストとして、人間として、最も影響を受けた人物がネイト・モーガンだよ。1996年から2003年くらいまで、頻繁に彼の演奏を観に行っていろいろ学ばせてもらった。その後、彼のグループで演奏させてもらえることになったんだ。自分から熱望してグループに入れてもらったのは彼が初めてだった。たくさんのことを学ばせてもらったよ。優しくて、厳しくて、でもいつだってサポートしてくれた。ブルースを深く理解していて、笑いのセンスもあって、いつも明るくポジティブな存在の人で、本当にいい勉強になった。説明しきれないほどたくさんのことを教わったけど1つ挙げるとしたら、いろいろなムードや意思を表現するには、いろいろな形式の演奏法を探求するべきだ、ということかな」
——フライング・ロータスともお仕事をされていますが、彼との出会いについても教えてもらえますか?
「たしか、カルロス・ニーニョが最初にフライング・ロータスの音楽を聴かせてくれたんだ。そのすぐ後にカルロスを通じてフライング・ロータスに会う機会があって、サンダーキャットに会うべきだって伝えた。2人が組めば絶対にすばらしい作品ができるって。それから2人は一緒に仕事をするようになったんだ」
「結局のところ、サウンドはサウンドで、意思は意思なんだよ。どんなものだって感情を呼び覚ますような楽器になり得ると思うんだ」
——ヒップホップやビートミュージックなど、さまざまなジャンルからアレンジを依頼されています。トラックメイカーやラッパーからアレンジを依頼されることについてあなたはどう思っていますか?
「いろいろな世代やジャンルの人と仕事ができることは本当にありがたいし、光栄なことだと思ってる。最高だよ! それぞれの人が独自の美しい視点を持っていて、いろいろなバックグラウンドを持っている。毎回いろいろな発見や驚きがあって、とても新鮮なんだ。そうやっていろいろな文化や伝統を学ぶことで自分の感性が研ぎすまされていく。本当に幸運なことだと思うよ」
——あなたの音楽は、響きやテクスチャーにこだわったテクスチャーアートのように感じます。そういったことを意識しながら音楽の勉強や研究をされているのでしょうか?
「できる限りいろいろな音楽を勉強したいと思ってる。うん、たしかにテクスチャーアートは好きだけど、それ以外のすべてのアートにも同じくらい興味があるんだ。アーティストとして、ユニークで独特な意見を常に持てるよう意識してる」
——電子音の多い『Fill The Heart Shaped Cup』を聴いていると、アコースティックの『Suite For Ma Dukes』と同じような独特のサウンドが鳴っているにもかかわらず、エレクトロニックな音と自然に馴染んでいるのが印象的でした。こういった、あなたのストリングアレンジとエレクトロニクスの音との調和はひとつの特徴だと感じます。それは意図的にやっているものなのでしょうか?
「きっと正直さと熱意からそういったサウンドになるんだと思う。ミュージシャンとして楽しみを感じるのは、自分の中にある題材を見つけて、それをいかに忠実にアウトプットするかというところなんだ。結局のところ、サウンドはサウンドで、意思は意思なんだよ。どんなものだって感情を呼び覚ますような楽器になり得ると思うんだ」
「作曲とは突き詰めれば時間をかけた即興を編集したものに過ぎない」
——また、「Computer Face/Pure Being」のように、あなたのアレンジはすべてアコースティックにもかかわらず、時にエレクトロニックな音が鳴っているかのように錯覚させてしまう瞬間がある曲がいくつもあると思います。それは意図的にそのような響きを生み出そうとしているのでしょうか?
「今はただ自分にできることを必死にやっているだけだよ。どんな時でも何かしら伝えたい感情がある。何を経験したくて何をリスナーとシェアしたいか、というところからすべては始まるんだ。エレクトロニックかアコースティックか、という概念を持ったことはない。僕にとってすべての音はアコースティックでオーガニックに聴こえる。電子音ですら自然の宇宙から発せられているものに感じる。すべては1つなんだ」
——エレクトロニクスのプログラミングや、ポスト・プロダクションをご自分ですることに関心がありますか? それともあくまで生演奏を作編曲をすることにこだわりをお持ちなのでしょうか?
「うん、ポスト・プロダクションとプログラミングに興味があるよ。作曲とアレンジにもね」
——カルテット・ファンタスティコの『Music For Dreams』は即興演奏でしたが、まるで元から作曲されていた曲のように聴こえました。あなたにとって即興演奏と作曲の関係はどのようなものですか?
「作曲とは突き詰めれば時間をかけた即興を編集したものに過ぎない。ほとんど編集せずに即興でできてしまう曲もあれば、求めているエフェクトを完成させるのにしばらく時間をかける作品もある。その時の意識や、無意識の意図と感情を伝えるということにおいては、即興も作曲も同じアートと言えると思う。作品を作るということはある種、常に即興だからね」
——『Library Selection』はどういうアルバムなのでしょうか?
「過去にプライベート盤として自分で作った『Unreleased Vol.1, Vol.2』の中から、気に入ったトラックだけを選んで1枚にまとめた作品が、ringsからリリースされた『Library Selection』なんだ。原曲のままだったり、僕や僕の友人をフィーチャーしたトラックが多いかな。このプロダクションは、生々しい感情を表現するために、あえて可能な限りシンプルなものにしたよ」
——あなたが今、共感している近い世代の音楽家がいれば教えてください
「どんなミュージシャンも好きだよ。最近気に入ってるのはハイエイタス・カイヨーテ、アンリ・デュティユー、サンダーキャット、フライング・ロータス、カルロス・ニーニョ」
——音楽以外にインスパイアされたものがあれば教えてください。
「すべての物事に影響を受けているよ。うぬぼれや人気には影響されないけどね。この世界がいかに美しくて尊いかということに、いちばんインスパイアされている。みんながそれぞれの人生に喜びを感じてより良い世界にすることに少しでも貢献できたらいいなと思ってる。ラブ・アンド・ピース!」
– Release Information –
アーティスト:
Miguel Atwood-Ferguson
タイトル:
Library Selection
レーベル:
rings
発売日:
2015年6月3日
価格:
2,300円(税別)
rings HP
http://ringsounds.jp/