投稿日 : 2015.12.25 更新日 : 2019.02.22

【マーク・ジュリアナ】異能のハイブリッド系ジャズドラマー 初の「全編アコースティック」で見せた才気

取材・文/柳樂光隆 翻訳/本間翔悟

マーク・ジュリアナ

デヴィッド・ボウイの新作『★』(※『ブラックスター』)への参加も発表され、いよいよ一般的な注目度を高まってきたドラム奏者マーク・ジュリアナ。これまで、ブラッド・メルドーとのエレクトロニックデュオ「メリアーナ」や、自身によるビートダブ・プロジェクト「ビート・ミュージック」などで、エレクトリックなダンスビートを生演奏に置き換えるようなドラミングが注目されてきた。そんなマーク・ジュリアナが2015年6月にアコースティックかつオーセンティックなジャズカルテットで、アルバム『Family First』を発表。米「ダウンビート」誌をはじめ、多くのメディアが絶賛したこの作品は、彼のドラマーとしての特異な個性が滲み出るような内容。ボウイの新作リリースを控え、さらに2016年1月にはカルテットとしての来日公演も予定しているマーク・ジュリアナが語る。まずは話題の最新アルバム『Family First』について。

——これまではエレクトロニックミュージックやロックのテイストを感じさせる作品が多かったのですが、今回の『Family First』は“アコースティックなジャズアルバム“という印象です。

「僕の音楽を完全にアコースティックで表現したのは今回が初めてだけど、アコースティックの音楽、特にジャズは以前から大きな影響を受けてきたんだ。エレクトロニックのアルバムを何枚かリリースしたあとに、アコースティックなアルバムを作ることが大事だと思ったんだよ。影響を受けてきた音楽や世界に対してトリビュートを捧げるようなものを作りたかった。多くのジャズミュージシャンからもインスピレーションを受けてきたからね。このアルバムは僕なりのアコースティック音楽を作るささやかな試みなんだ」

——サックスのワンホーン・カルテットという編成を選んだ理由は?

「アルバムのメンバーを、テナーサックス、ピアノ、ベース、ドラムとしたのは、僕が“この楽器編成が好き”だから。コンボでのジャズサウンドとしてはいちばん好きなんだ。あと、カルテット編成はそれぞれの楽器を惹き立たせることができるし『楽曲』を明確に伝えることができると思った。この編成はジョン・コルトレーン・カルテットなど多くの素晴らしい録音が残されているよね。僕自身もこれまで最もよく聴いてきたのが、このコルトレーンのバンドだと思う」

——バンドメンバーを紹介してもらえますか?

「ジェイソン・リグビーは大好きなサックス奏者だ。彼とは2008年にニューヨークで出会って、Heerntっていう僕のバンドのメンバーになったんだ。クリス・モリッシーはエレクトリックベースとダブルベースを同じように演奏できるのが魅力だ。それに素晴らしい作曲家でもあって、即興演奏の時にも作曲家的な部分を聴くことができる。ピアノのシャイ・マエストロとは2006年にアヴィシャイ・コーエンのトリオで出会った。信じられないような鍵盤奏者だよ。僕たち4人はとても仲が良かった。そういうことも僕がバンドを組む時にはとても大事になってくるんだ」

——あなたの作曲のプロセスを教えてください。

「作曲のプロセスは曲によっていつも変わるよ。自分がどんなムードにいるかで変わってくるからね。けれどいつもピアノから始めるよ。家にウーリッツァーがあってそれをメインに使っている。オーケストレイションのアイデアを考える時には、ときどきコンピューターも使う。それぞれのピースが出来上がったらバンドのメンバーに見せるために楽譜にしているよ」

——たとえばビート・ミュージック名義だと、作曲・編曲におけるリズムやグルーヴの比重が大きいと思います。一方、今回のようなアコースティックなジャズ作品をつくる場合、メロディーやハーモニーの比重が増すと思います。プロジェクトによって作曲や編曲のやり方は違ってきますか?

「そうだね。ビート・ミュージック名義での作曲のプロセスは、ベースラインやドラムのグルーヴを基礎にしている。それ以外の要素はベースとドラムの周りに作り上げるんだ。だけどこのジャズカルテットでは、ハーモニーやメロディーといった要素をより強調している。アコースティックの楽器を使っているとアンサンブルのサウンドが曲ごとに異なりはしないから、多様性のある楽曲を用意する必要があった。このカルテットのために曲を書くのは大きなチャレンジで、作曲家としてもとても成長できたと思うよ」

——オーセンティックなモダンジャズ的な曲をやることで、あなたやメンバーの演奏のリズム感覚、即興のアプローチの新しさが引き立っていたようにも感じました。

「このアンサンブルではお互いをよく聴いて反応し合い、サポートし合うことがとても大切なんだ。それが、彼らをこのバンドに集めたもう1つの理由でもある。友人としても大事だけど、彼らのミュージシャンシップをより評価しているんだ。僕たちが一緒に演奏していると、なんだって音楽的にできるんじゃないかと心から思えるよ」

——トラディショナルな行進曲を思わせる『The Importance Of Brothers』が印象的でした。マーチ形式のリズムを採用したこの曲について、詳しく教えてもらえますか?

「『The Importance Of Brothers』は作曲面でザ・バッド・プラスのドラマー、デヴィッド・キングにインスパイアされている。この曲はピアノで書いたんだけど、メロディーとハーモニーの関係に特にフォーカスしているんだ。デヴィッド・キングの音楽で特に好きなところだね。だけどこの曲の即興とソロもとても素晴らしいんだ。メンバーのジェイソン、クリス、シャイにとってもベストのショーケースになっていると思う」

——ボブ・マーリーのカバー「Johnny Was A Good Man」は、時折、微かにレゲエのリズムが聴こえてくるようなアレンジですね。

「ボブ・マーリーは僕のオールタイム・フェイバリットのひとりで、彼の曲をカバーしたいといつも思っていたんだ。だけど、単にレゲエのスタイルではやりたくないとも思っていた。この曲は大好きなアルバム『Rastaman Vibration』(1976年)に入っていて、シンプルなバックビートの曲。トラディショナルなレゲエスタイルではないこの曲が大好きで、このメンバーなら美しく演奏できるだろうと思っていたんだけど、実際その通りになったね」

——以前のインタビューで「演奏する音楽によってドラムのセッティングを変える」と言っていましたが、名義によるセッティングの違いについて教えてください。

「ビート・ミュージック名義では大きめのドラムセットでロウなサウンドを使っている。多くはエレクトロニックミュージックから影響されたものだ。ドラムマシーンのシンプルなサウンドを真似ようとしていた時期があったからね。アコースティックカルテットでは正反対のことをやっている。アコースティックのサウンド、人間的なサウンドをドラムから引き出すんだ。ドラムセットも小さめのものを使っていて、バスドラムも18インチだ。特殊なものは使っていない。2つのライドシンバルにハイハット。暖かくて豊かな音がするんだ。ジャズの世界のドラムヒーローたちととても似たセッティングだと思う」

——そんな“ジャズの世界のドラムヒーロー”の中でも、トニー・ウィリアムスから大きなインパクトを受けたそうですね。彼のどんな演奏に惹かれたのでしょうか?

「トニー・ウィリアムスは僕の一番のドラムヒーロー。エレガントでバランス感覚に優れ、楽器を操るテクニックやミュージシャンシップも職人的な人だ。優れた音楽性を持っていないと、テクニックが音楽的な役割を果たすことはできない。トニーはまさしくユニークな音楽性を持っていて、いつも音楽を最優先にしていた。逆じゃダメなんだ。音楽より先にドラムがあってもダメ。ドラムより先に音楽がなければいけない」

——トニー・ウィリアムス以外でジャズドラマーの研究はしましたか?

「トニーのほかには、エルビン・ジョーンズ、アート・ブレイキー、ロイ・ヘインズ、フィリー・ジョー・ジョーンズ、ジャック・ディジョネット。ほかにもたくさんいるから、全員の名前を挙げるのは無理だ。だけどこういった人たちから、もっともインスパイアされてきているね」

——あなたのプロジェクトは、ベーシスト(クリス・モリッシーやティム・ルフェーヴルなど)も個性的ですね。ジャズにおいて、あなたはどんなリズムセクションを理想としている?

「クリスとティムはふたりとも素晴らしいベーシストだよね。彼らと一緒に演奏するのは大好きだし、僕はベーシストに優先順位を高く置いているから、フェイバリットなベーシストと共演できてとてもラッキーだよ。好きなベーシストはほかにもたくさんいる。ステュ・ブルックスにジョナサン・マレン、ミシェル・ンデゲオチェロ……。ベースとドラムの関係っていうのは音楽のなかでも特に重要なものだと僕は思っているからね。フェイバリットなリズムセクションは2組。まずマイルス・デイビス・クインテットのハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムス。そしてジョン・コルトレーン・カルテットのマッコイ・タイナー、ジミー・ギャリソン、エルビン・ジョーンズ」

——今後、ビート・ミュージック名義でも動き出す予定はありますか?

「ビート・ミュージックの作曲は継続していて、来年のどこかで新しいレコーディングを計画している。来年はHeerntの新作も予定していて、こっちはファーストを出したのが2006年だから10年ぶりになるね。いまの僕は、多くのミュージシャンと一緒に演奏して人生を楽しんでいるし、感謝しているよ。」

マーク・ジュリアナの2016年1月5日(火)Blue Note Tokyo公演へArban Membersを抽選で2組4名様ご招待。応募は下記リンクより必要事項を記入しご応募ください。

■応募ページ
https://www.arban-mag.com/present_detail/5

– 公演情報 –

開催日:2016年1月3日(日)、4日(月)
会場:Cotton Club
時間:1月3日(日)[1st]オープン16:00/スタート17:00 [2nd]オープン18:30/スタート20:00
1月4日(月)[1st]オープン17:00/スタート18:30 [2nd]オープン20:00/スタート21:00
出演:Mark Guiliana Jazz Quartet

■Cotton Club
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/schedule/201601.php

開催日:2016年1月5日(火)
会場:Blue Note Tokyo
時間:[1st]オープン17:30/スタート19:00 [2nd]オープン:20:45/スタート21:30
出演:Mark Guiliana Jazz Quartet

■Blue Note Tokyo
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mark-guiliana/

– リリース情報 –
アーティスト:Mark Guiliana Jazz Quartet
タイトル:Family First
レーベル:AGATE/Inpartmaint
発売日:2015年6月4日

[トラックリスト]
01. One Month
02. Abed
03. 2014
04. Long Branch
05. Johnny Was
06. From You
07. The Importance Of Brothers
08. Welcome Home
09. Family First
10. Beautiful Child (ボーナス・トラック)

■INPARTMAINT
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