米ブルーノートと初めて契約を果たした日本人ミュージシャンとして脚光を浴び、いまや世界中で賞賛されるサムライ・トランぺッターこと、黒田卓也。およそ2年半ぶりとなる最新アルバム『ジグザガー』は、西海岸の老舗レーベル「コンコード」からリリース。セルフ・プロデュースで完成させたというアルバムは、彼の流麗かつエモーショナルなトランペットの響きを堪能できるのはもちろん、ジャズという枠にとらわれない自由な音楽的感覚・彩りにあふれた、聴きごたえのある仕上がりになった。そんなアルバムについて、また彼が拠点とするニューヨークの魅力について聞いた。
——前作『ライジング・サン』はブルーノートからのアルバム発売でしたが、本作『ジグザガー』はコンコードに移籍してのリリース。こちらもジャズの名門ですね。
「本当は、前作に引き続きブルーノートからアルバムを発売したかったんですけど、折り合いがつかなくて。その後、ずっと契約先が決まらないなかでも、楽曲を制作し続けていったら、コンコードがデモを4、5曲聴いて気に入ってくれました」
——レーベルの移籍によって心境の変化はありましたか?
「前作『ライジング・サン』は、ホセ・ジェイムズがプロデュースをしてくれたので、彼の指示のもと楽曲制作をしてたんですけど。今回は僕自身でプロデュースをした。そこが大きな違いでしたね。じつはインディーズ時代にリリースした作品は、自分で手がけたものだったので、そこに戻ったといえるのですが、前作でホセが提示してくれた“コンセプトありき”で音を作っていくやり方は、自分の音楽的興味をさらに深めてくれました。だから、(インディーズ時代と比べて)アルバム1枚を完成させることの楽しさをより感じながら制作できた気がするし、前作では表現できなかったことを、自信を持って、納得できるカタチで表現できたと思っています」
——どんなコンセプトを思い浮かべて制作したのですか?
「前作がモノクロでスタイリッシュ、クールな印象をホセの手によって仕立てられていたんですけど、本当の自分はそうじゃない。もっと温度が高くて、色がたくさんあるイメージを(全体を通して)表現してみたかったんです」
——アルバムは、ジャズをベースにしながらも、ファンクやR&B、ヒップホップ、さらにはエレクトロニックなダンス・ミュージックまで、いろんな音色が広がる仕上がりになっていますよね。
「ジャズを聴き込みまくってニューヨークに行ったので(笑)、最近は今まで聴いたことのない音を知りたいと、いろんなタイプの音楽に触れています。ミシェル・ンデゲオチェロやフェラ・クティから、ケンドリック・ラマーまで。そういう部分が影響されているのかなって。アルバムでは、それら影響を1冊の本にまとめるような感覚で制作したものになっていますね」
——アルバム・ジャケットも多彩な色にあふれています。
「これは、ホセの紹介で知り合ったモロッコ出身のハッサン・ハジャージというアーティストに作ってもらったんですけど。ハービー・ハンコックやマイルス・デイヴィスの作品にも“何じゃこれ?”と思うようなジャケットってあるじゃないですか。そういうのが、すごく好きなんですよね。(音が)予測できない感じがするというか。(ジャズって)カッコつけて聴く音楽じゃないよ、というメッセージが伝わってくる。それをここでも表現したかったんです」
——アルバムには、ドナルド・バード「シンク・トゥワイス」のカバーや、国内盤ボーナストラックには日本の人気バンドであるceroとセッションした「ジグザガー rework with cero」なども収録。タイトルどおり<ジグザグ>な楽曲構成になっていますが、でもどの楽曲も芯となる部分は一緒なのかなと思いました。
「自分でも完成した作品を聴いて、そう感じました(笑)。大胆なことをやっているのかもしれないですけど、でもちゃんとジャズやゴスペル、ラテンなどジャンルに対して尊敬を持って演奏しているので。曲にあるべき音を鳴らしているだけなんですよ。(音楽に対して)正直でいたいと思うんですよね」
——音楽に対して正直でいたいという思い。現在拠点とされているニューヨークにいるからこそ、培われたものなのでしょうかね。
「ニューヨークには、世界中からトップレベルのミュージシャンばかりが集まってくるので、ちょっとでもゆっくりしていたら、あっという間に(いろんな人に)追い越されてしまう。だから、練習しようという気持ちにさせる。常に謙虚でいられる場所であるのは確かですね」
——刺激が多いと。
「そうですね。ミュージシャン以外にも芸術家やデザイナーなど、成功を夢見て訪れるアーティストが多く暮らしている。そういう人と出会って、生き方、姿勢とかを知ると、刺激を受ける部分が大きい。ミュージシャン同士だと、あまりにも近すぎて、自分勝手で余計なアドバイスをされたり、してしまいがちになってしまう。刺激をかえって削いでしまうんですよね。だから最近は、(感性を磨くために)美術館とかにもよく足を運ぶようになりましたよ。日本にいる頃にはほとんど踏み入れたことがなかったのに(笑)」
——普段、日本人というアイデンティティを持って演奏するんですか?
「演奏している時は、そういうことは考えないんですけど、後で映像を観るとアフロの滑稽な日本人がおるなって(笑)」
——なぜ、アフロヘアにしようと?
「ニューヨークに行ったのをきっかけに、何となくアフロにしてみようと。最初に日系の美容院に行ってやってもらったんですけど、アフロにできるロットがなくて“サザエさん”みたいになっちゃって(笑)。その後、自分がニューヨークで音楽を教えている生徒さんのなかに美容師の方がいらっしゃったのでお願いして。アフロで演奏するようになったら周囲に認知されるようになったので、今では戻せなくなりました(笑)」
——今後は、どんな音楽・スタイルを発信していきたいですか?
「アルバムが完成したばかりなので、次はどういうものになるのか? 具体的なアイデアはないんですけど。例えばアコースティック・ピアノだけのトラックで、さまざまなミュージシャンをフィーチャリングした楽曲を作るとか。自分をプラットホームにしてさまざまな企画を発信していけたらと思っています」
作品情報
アーティスト:黒田卓也
タイトル:Zigzagger
レーベル:Concord/Universal Jazz
発売日:2016年9月2日
■Universal Jazz
http://www.universal-music.co.jp/kuroda-takuya/