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カエターノ・ヴェローゾジャイルス・ピーターソンソンゼイラ・ライブ・バンドテレーザ・クリスチーナモントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン
投稿日 : 2016.09.16 更新日 : 2019.02.22
取材・文/楠元伸哉 写真/則常智宏
——2日目に出演するソンゼイラ・ライブ・バンドですが、このメンバー、中原さんはどうご覧になります?
「素晴らしいメンバーですねぇ(笑)」
——まず、このソンゼイラ・ライブ・バンドとは何か? って話なんですけど、そもそもジャイルス・ピーターソンのアルバム『ブラジル・バン・バン・バン』という作品があって、そのレコーディングにブラジル人ミュージシャンを起用した。で、その模様は同名のドキュメンタリー映画にもなりました。
「そうですね。基本的には、そのレコーディングに参加したメンバーを中心に、新たなメンバーも加えつつ、今回の“ソンゼイラ・ライブ・バンド”が組成されていますね」
——一応、そのメンバーを読み上げますね。マルコス・ヴァーリ、マイラ・フレイタス、ガブリエル・モウラ、ニーナ・ミランダ、パトリシア・アルヴィ、ロバート・ギャラガー、カシン、ダニーロ・アンドラーヂ、ゼロ、ステファン・サンフアン。以上、10名。どうです?
「いいねぇ。ワクワクしますねぇ」
——まず、普通に“バンドメンバー”としてマルコス・ヴァーリの名前が入ってるところがすごいですよね。
「大御所だもんね。マルコス・ヴァーリは何度も来日してますけど、最初はソロで、その後は自分のバンドを連れてきての公演だった。つまり、こういった体裁のプロジェクトで、グループのいちメンバーとして参加するなんてことはなかった。しかも、クラブ的なスタンディングの空間でマルコスがライブをやるのは、日本初なんじゃないですかね。これまでとは全く違う見え方、聴こえ方がするのではないのかな」
——しかも、あの『ブラジル・バン・バン・バン』のソンゼイラ・プロジェクトがライブバンドとして客前に出る、っていうのは世界初。たぶん、最初で最後なんじゃないか、とも言われてますね。
「しかも1日だけ。贅沢な話ですね。これは見逃したくない」
——特に、中原さんの胸がときめくメンバーは誰ですか?
「マルコス・ヴァーリは言うまでもないんですが、個人的には……ガブリエル・モウラかな。なんせ、あのセウ・ジョルジを見い出した男ですからね」
——今回はボーカル&ギターで参加します。彼の血統もすごいですね。
「そう、パウロ・モウラの甥です。音楽一族の血筋なんだけど、ストリートの感覚というのかな、そういう柔軟性も持ち合わせている。たとえば、サンバの伝統をちゃんと受け継ぎながら、そこにファンクをミックスしたり、ヒップホップ的な表現をしてきた人でもある」
——そして、優れた詩人でもありますね。
「その通り。わかりやすい派手さはないですが、ものすごく重要。私としては、彼が来てくれることが本当に嬉しい」
——女性メンバーで気になるのは?
「マイラ・フレイタスですね。彼女は、ジャイルスの作品には参加していませんが、これまたサンバ界の重鎮であるマルチーニョ・ダ・ヴィラの娘であると同時に、ピアニストでもある。弦楽器を弾きながら歌う人は多いですけど、ピアノをきちんと弾けて、なおかつサンバを歌える人っていうのは意外と少ないんですよ。そういう意味でも非常に面白いプレイヤー。楽しみですね」
——このバンド最大のキーパーソンは、もちろん、プレゼンターのジャイルス・ピーターソンということになるのですが、バンドの中にいてジャイルス的な視点でディレクションを行っているのが、カシンです。彼と中原さんは、かなり親しい仲だとか。
「かれこれ15年以上の付き合いになるのかな。仕事もいろいろ一緒にやってきました。実際のところ『ブラジル・バン・バン・バン』でも、ジャイルスがカシンを介して、いろんなミュージシャンをブッキングしていったという経緯もあって、今回のバンドでも非常に重要な役割を担っています」
——カシンはすでに何度か日本でライブを行っていますね。
「そうですね。モレーノ、ドメニコ、カシンの通称“プラス2”と言われる新世代ユニットで、日本に何度も来ています。今はそれぞれ単独でやってますけど、みんなカシンを含めて3人ともプロデューサーとして活躍しているし、そこからまた新しいリオのオルタナポップのシーンが生まれている。そんなカシンのプロジェクトに参加してきたのが、ステファン・サンフアン」
——今回、ドラムスで参加しますね。
「彼はスペイン系のフランス人なんだけど、10年以上前からリオに移り住んでいます。アフリカにしばらく住んでいて、アフリカのミュージシャンと活動していた時期もあるんですね」
——どのメンバーも個性的だし、メンバーそれぞれが自分名義のアルバムを出していたり、自分のバンドを率いているようなスター選手ばかりですね。
「そうなんですよ。何より楽しみなのは、この人たちが、ひとつのバンドでプレイしたときに、何が起きるのか? これだけの手練れのミュージシャンたちを、カシンとジャイルスがどう見せるのか? そこも面白さのひとつですね」
——ソンゼイラは、ひとつの演目で“たくさんの有名プレイヤーを観れる”っていう、おトク感があるし、ブラジル音楽の陽気で肉体的な側面を堪能できる。その一方で、カエターノはたったひとりで、叙情的かつ官能的なブラジル音楽の神髄を見せてくれる。そしてテレーザは連綿と続くサンバの伝統を、ステージ上に蘇らせる。これらをすべて体感することで、ブラジル音楽に対する理解と“楽しみ方”は相当深まると思いますね。
「そこは、ご本家モントルー・ジャズ・フェスティバルの長い歴史とも、シンクロしていて、非常に感慨深いですよ。つまり、モントルー・フェスでは必ずと言っていいほどブラジル音楽が一定の位置を占めてきたんです。70年代の終わりくらいにブラジルナイトが始まって、それがモントルーの中でも人気プログラムになっていきましたね。70年代終わりから80年代初めにかけては毎年のように『モントルー・ブラジルナイト』のライブ盤とかも出ていました。その経緯を考えると、モントルー“ジャパン”でブラジル音楽をきちんとやる、っていうのは、伝統に則った采配。正しいスタンスだと思いますね。なにより、社会的なインパクトのある大きなイベントにブラジル音楽がある、っていうことが、私としては非常に嬉しいですね」
中原 仁 ◆ Jin Nakahara
音楽・放送プロデューサー/選曲家
1985年以来50回近くリオを訪れ、取材のほか、現地録音のCD約15タイトルの制作に従事。J-WAVEの長寿番組「サウージ!サウダージ…」などラジオの番組制作/選曲、コンピレーションCDや空間BGMの選曲、イベントやライブの企画プロデュースを行ない、ライター、DJ、MC、カルチャーセンター講師もつとめる。共著の新刊書『リオデジャネイロという生き方』(双葉社)発売中。
http://blog.livedoor.jp/artenia/