投稿日 : 2017.02.28 更新日 : 2020.09.05

【メガプテラス】5人の精鋭による強力ユニット ついにデビュー作を発表

取材・文/楠元伸哉 撮影/藤森勇気

メガプテラス インタビュー

 それぞれ違うバンドで活動しながら、こうして意気揚々と新たなプロジェクトに乗り出した5人。しかし、そう簡単にはいかなかった。メガプテラスに立ちはだかった苦難とは何か…。

宮川 このバンド名をつけるくらいのタイミングで合宿したんですよ。曲になっていない「素材」でもいいから、みんなで持ち寄って、全員で音を出しながらアレンジとか作曲作業をしたんです。

——なんかもう、ロックバンドみたいな感じですね。

黒田 今回のアルバムが一応、ファーストアルバムってことになってますが、じつは過去に1回だけレコーディングしてるんです。3年前に。それはいわゆる普通のジャズクインテット的な感じで。

——そのときには一応、音源は出来上がった、と。

宮川 はい。録るには録ったんですけど、この音源をそのまま出してもなぁ……っていう思いが残ったんですね。あまり練り込む時間もなかったし。

——納得できない“何か”があった、と。

宮川 ただ、グループとしての方向性とかサウンド感みたいなものが見えたのは大きな収穫でした。それからしばらく経った頃に、また何度かのセッションを経て、もう一回、本腰入れてやろう、っていうモードになって。ただし「今までと一緒じゃダメだよね」という話にもなり。まずは、みんなで音を出しながら、じっくり丹念に創っていこう、と。

——その上で、何かルールは設けたんですか? 例えば「こういう路線はやめようぜ」とか。

宮川 うーん、そういうのは特にないですけどね。

柴田 むしろ、設定やルールをあらかじめ設けずに、それぞれが持ち寄った素材みたいなものを、みんなで演奏しながら、良い方向に導く感じ。

宮川 ひとつあるとしたら「普通のジャズクラブじゃないところでもフィットするような楽曲にしよう」みたいな意識はあったかもしれませんね。

——そこはアルバムを聴いて感じましたよ。複雑なリズムを使っている曲でも、自然に気持ちよくステップを踏める楽曲に仕上げています。それはメロウでエレガントな曲であっても、疾走感のあるアグレッシブな曲であっても、きちんと作動している。

宮川 楽しく踊れる、っていう部分は重要でした。スタンディングの会場でもいけるように意識はしています。

黒田 このバンドでは、「カッコよかった」とか「クールだった」と感じてもらうよりも「楽しかった」と思ってもらえるような、そんなパフォーマンスができればいいと考えてるんです。まあ、そのためなら服を脱ぐことも辞さない(笑)くらいの心がけでね。

——今日のライブでは脱がなくていいですから。

宮川 いや、実際にね、一昨年のクリスマスにやったライブでは、この二人(黒田と西口)、演奏の前に漫才やりましたからね。

柴田 ああ、わりと本気のヤツな。

宮川 もともとね、飲み会の延長で結成されたバンドですから。これはもう仕方ないです(笑)。

——なるほど。ライブを見てようやくメガプテラスの本性がわかる、と。アルバムを聴いただけだと、クールでカッコいい印象しかなかったですよ。

黒田 レコーディングに関しては、また別のこだわりが反映されているんです。例えばね、ただ単にマイク立てて、メロディ鳴らして、ソロ回して「ほら、ジャズってすごいでしょ」みたいな、そういう感覚とは別のものを作りたかったんです。いや、そういう録音物がダメだと言ってるわけじゃないですよ。ただ自分は、プレイの内容はもちろん、サウンドスケープに関しても、自分なりのこだわりをきちんと反映したものを作りたかった。

——それは、これまでアメリカと日本でさまざまな “録り方”を見てきた結果、ということですか?

黒田 そうですね。少なくとも僕はせっかくこれまでニューヨークでいろんなバンドに参加して培ったノウハウとか、ホセ(・ジェイムズ)との仕事とか、そういうクリエイティブを知ってしまったこともあって。なにより、このメンバーなら、バンドとしてそういうサウンドを実現できる、という思いもあった。

——今回、見事にそれを証明しましたね。

黒田 最初にレコーディングしたときと比べると、例えば同じ曲をやっても「ここにストリングスを入れた方がいいんじゃないか?」とか「このキーボードの音色はシンセサイザーの方がいいんじゃないか?」みたいな発想やアレンジを施せるようになっていますね。

左から、西口明宏、中林薫平、黒田卓也、宮川純、柴田亮

——つまり、ライブでの再現性や、手持ちの楽器に固執せず「ここは思い切ってエフェクティブな処理を施した方が面白い」みたいな判断もあるわけですか。

黒田 ありますね。

柴田 例えばね、まず譜面があって、それぞれのパーツは個人に委ねる。それってジャズ的な録り方なんですよ。もちろん、それは正しい録り方なんです。ただ、僕らの場合はそうじゃなくて、全員が俯瞰した視点でトータルなサウンドを見て、みんなでじっくり作り上げていく。普通はね、譜面を渡してしまえば、作曲者はあんまり言わないものなんですよ。「ドラムはもっと、こう叩いて欲しい」とか。そこはプロのプレーヤーとして任せるというか、委ねる部分でもあるので。でもその方法だと“メガプテラスが目指す音には到達できない”ということに気づいた。

——もっと“バンドとしての作り込み”が必要だ、と。

柴田 場合によっては一度、曲を解体して、再構築する。もちろん、その過程にもメンバー全員が関与する、ということです。

宮川 だから、ひとつの曲が完成する過程にもいろんなパターンがあるんですよ。例えば、僕が提案したコード進行があって、これに対してフロントの二人がメロディをつけてくれたりとか。だからCDのクレジット上は、それぞれの楽曲に“作曲者”が存在しますけど、実際にはみんなのアイディアが反映された“5人の曲”なんです。僕はこれまでそういう作り方をするバンドを経験してこなかったので、すごく新鮮で面白いですね。

——しかし、一度完成した録音物をお蔵入りにして録り直すって、ものすごい信念というか精神力が必要ですよね。

柴田 プロとしては、もしかしたら間違ったことをやってるのかもしれません。なんせ、一銭にもならないことに多くの時間を割くわけだから。何日も合宿をして、納得いくまでひたすら試行錯誤を繰り返すし、このアルバムのレコーディングに関しても、ニューヨークまで行ってやりましたけど、その間に入る日本での仕事を断るわけです。ただ、それを“やれる”っていうのは、信頼関係の賜物だし、それだけの手間やリスクを冒してでも“やる価値がある”と思える。それがこのバンドの魅力だし、それだけのコミットメントと信頼関係が、このバンドにはある。

——(さっき喧嘩してたくせに……)ところで、グループとしての野望とか、達成したい目標みたいなものはあるんですか?

中林 これは昨日、みんなで酒飲みながら話してたんですけどね…

——あの…さっきから聞いてると、重要な話には、もれなくセットで“飲み屋”的なものがついてきますよね。

中林 はい、すいません(笑)。大体のことは酒の席で決まるので……。これはまあメガプテラスの野望とか目標とは少し違うんですけど“こういう存在でありたい”っていうビジョンはあるんです。

——具体的には、どんな?

中林 例えばね、メガプテラスのライブに行くと必ず、何か面白いことが起こる。

——漫才とか。

中林 いや(笑)、それも要素のひとつかもしれませんけどね、例えば「メガプテラスのライブには、音楽以外にも、アートやファッションに敏感な人たちがたくさん集まってくる」っていう状況を作るだけでも、その空間は魅力的な場所になると思うんですよ。

——音楽を含む“複合的なカルチャーの発信地”みたいなイメージですかね。

中林 そう。メガプテラスのライブに行くと、何か面白いカルチャーと出会える。それは何でもいいんですよ。アートでもいいし食べ物でもいいし。そういうユニークな人たちの交流の場だったり、情報交換の場になっていくのも素晴らしいことだと思うんですね。そういうカルチャーを体感できる場所として、メガプテラスのライブ現場が機能すればいいな、と思ってます。

——うん。ちょっとワクワクしますね。

中林 僕らの飲み会はね、こういう真面目な話もしてるわけですよ。

——酔っ払って騒いでるだけじゃなかったんですね…。

黒田 そう。薫平の言う通り、僕らは会場に行って、ただ演奏するだけじゃなくて、その場で聴いてくれている人たちと「いい時間を共有できた」と思えることをゴールに設定しているんです。そのための環境づくりも含めて、演奏以外にやるべきことはたくさんある。

——なるほど。そりゃ「服を脱ぐことも辞さない」宣言も出ますよね。

黒田 そういうことです。

——ところで、こうしたインタビューとか、レコーディングやライブ以外で、5人で会うことってあるんですか?

全員 ありますよ。

西口 しょっちゅうです。

柴田 さっきも言った通り、基本は飲み会ですから。よく5人で飲んでます。

——そうした酒の席で、いちばん盛り上がる話題って何ですか?

黒田西口 (見事なユニゾンで)柴田の悪口ですね。

——そこで2管のコンビネーションとか見せなくていいですから。っていうか、それもう完全にネタじゃないですか…。

柴田 いやこれネタじゃなくてね、ホンマにね、マジな話なんですわ(泣)。

——いや、あなたもね、オチとかつけなくていいんですよ。

 

こうして、一同の笑いをもってインタビューは閉じるのだが、仲がいいのはよくわかった。しかし5人にとってメガプテラスは決して“居心地のいいぬるま湯”ではない。曲づくりやレコーディングに関するエピソードを聞くまでもなく、相当にタフで繊細な「ものづくり」をやっていることは容易に察しがつく。

このインタビューのあと、5人は颯爽とステージに登場し、さらりと演奏を始めるのだが、5人揃って音を出した瞬間の、なんともまあカッコいいこと。インタビュー中、黒田は「クールであることや、カッコよさの優先順位は低い」という旨の発言をしているが、メガプテラスのプレイは圧倒的にクールで、ホットで、カッコいい。しかし、それでもステージ上の黒田は、わざわざ道化役を買って出るのだ。皆を楽しませるために。

【作品情報】
アーティスト:MEGAPTERAS
作品タイトル:Full Throttle
発売元:ユニバーサル・ミュージック・ジャパン
発売日:2017年2月15日

オフィシャルサイト
http://www.universal-music.co.jp/megapteras/

■ UNIVERSAL MUSIC STORE
http://store.universal-music.co.jp/product/uccj2140/

■ iTunes Store
https://itunes.apple.com/jp/album/full-throttle/id1202106686?app=itunes&ign-mpt=uo%3D8

■ Spotify
https://open.spotify.com/album/2F1lao3ZpMCXsnBqtuTc7f

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